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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十三章
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二、

「はあい、ただいま!」

 中から明るい声が聞こえてくる。樹は両手をぎゅっと握る。

「いらっしゃいませ、一水(かずみ)さ」

 がちゃ、と扉を開けながら出迎えてくれた碧の笑顔が凍りつく。

「樹さん……なんで」

 ここに来たのが樹であることを理解できず、碧は何度も瞬きする。

「一水さんに、俺の換わりに予約をとってもらった。名前は一水さんだけど、依頼人は俺」

 碧の目が訝しげな色合いに代わっていく。

「とりあえず、なかに入れてもらえねえか」

「……どうぞ」

 低い声で、碧は中へ入れてくれた。

 部屋の中はアロマオイルの香りが爽やかで、カルテやお茶などが用意してある。すべて一水仕様だろう。

「あんたには悪いけど、俺は診療を受けにきたわけじゃない。あんたと話がしたくて」

「……」

 立ったまま、碧に話しかける。


 まずは療養室の中へ入る、という第一関門を突破した。入れてもらえない可能性もあったからだ。

 第二関門は、話をする、聞いてもらう体制に入ること。

 しばらく無言だった碧が、お茶を淹れます、とコンロで作業を始める。相変わらず目線は合わせてくれないが、話を聞いてくれると解釈していいのだと思う。

 声に出さず、ふう、と思いながら、樹は勝手に受診者用の椅子に腰をおろした。

 しばらくすると、ティーカップ二つとポットが運ばれてきた。碧も座ってお茶を注いでいく。爽やかにすっと鼻を通り抜けていく香りのいいお茶だ。

 ことり、と前にカップが差し出される。

「どうぞ」

 感情のこもっていない声。

「いただきます」

 せっかく淹れてもらったのだから、飲まないわけにはいかない。樹はカップに口をつける。

「あ、うまい」

 つい感想が口から出てしまった。向いに座る碧は、なにも聞こえていなかったようにお茶を飲んでいる。

 実は、樹は碧の診察を受けたことがない。こうしておいしいお茶とお菓子を楽しんで、さらに身体も心も健康になるのなら、リピーターが増えるのも当然だと思ってしまう。残念ながら今日の目的は診察ではないため、お菓子はもらえないしヒーリングもしないのだが。


 半分くらいお茶を飲み終えたところで、樹はカップをソーサーに戻す。まだ碧は目を合わせようとしない。平静を装ってはいるが、困惑と動揺と嫌悪がひしひしと伝わってくる。自分と同じような気持ちなのだ。

 ふう。

 息をつく。

 よし。

 一方的に碧を見る。なにかを伝えたいとき、相手の目を見るのは基本。

「さっきも言ったけど、今日はあんたに話があってきた。勝手に話させてもらう。俺のこと」

 許可はとらない。嫌だと言われてしまえば、ここで帰らざるを得なくなってしまう。

「あんた、あのとき、私のことなにも知らないくせに、って言ったよな。でも、あんた、俺のこともなにも知らないだろ。だから」


 樹は“あの日”のことを話し始めた。

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