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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十二章
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七、

 ごうごうと燃えたぎるキャンプファイヤーの炎を四季の森から見て、拓真は水の領に行ってみようかと考えていた。自分にとって、華やかな場所――現在は騒々しい場所と化しているが――は似合わないとわかっている。後夜祭で盛り上がってはいるが、水の領と風の領は比較的落ち着いているだろうと思ったのだ。

 最終的に、拓真は隣にある水の領に行ってみようと決める。

「あ、拓真さんもお出かけですか?」

 声がした方向をみると、フジが何人かの学生と一緒に立っていた。

「ああ、水の領へ行ってみようと思ってな」

「自分らもそうなんですよ。聞いたところ、川とか泉がすげーきれいらしいっすよ。落ち着いた雰囲気で、疲れもふっとぶって。良かったらご一緒しませんか?」

 フジには拓真が水の領へ向かおうとする理由がわかっているのだろう。一人でいるのもしのびないし、自由な時間を団体で過ごすのもいいかもしれない。

「同席させてもらおう」

 自然に笑みがこぼれる。フジとその友人たちが一瞬驚いたような顔をしたのは気のせいだろうか。

 やっぱりひとりで、と考え直していると、

「いぇーーい! 土の長、ゲットぉーーーー!!」

「これはレアですね!」

「きっと人がどんどん集まるぜ」

 と歓声があがる。

 とりあえず、嫌がられたのではなさそうだ。

 心の中でほっとしていると、さぁ行きましょう、とフジに背中を押される。こうやって大勢でいるのも、悪くないのかもしれない。でもこの様子では、落ち着けそうでなないな、と苦笑いした。


 水の領に着くと、それまで賑やかにしゃべっていた仲間たちが、静まり返った。息をのんでいる。

 そこには、水が水面だけでなく空中にも、色とりどりに光る幻想的な空間が広がっていたのだ。泉の岸や川辺で飲食を楽しんだり、妖精と接したりいる学生の姿が見える。カップルや少数の友人と来ている学生が多いようだ。

 拓真たちも、泉の岸に静かに腰をおろす。

「美しい風景だな」

 こぼれでた感想に、周囲がうんうんと頷く。

 水面と空中を彩る水の球がゆらゆらと動き、神秘的だ。スローモーションのように、時間がゆっくりゆっくりと流れていく。それがとても心地よい。たしかに、ここにいれば疲れも吹き飛びそうだ。

「俺たち、何か食いもん買ってきます」

 フジが何人かを率いて食べ物を調達しに腰を上げる。そのあとは美しい光景を見ながら、他愛もない話を楽しんだ。

 するとふいに、ふわふわと黄色っぽい光が拓真の前へやってきた。光に触れることができるのだろうかと手をのばすと、その光は拓真の手にすりすりと寄ってきた。よく見ると、妖精だった。

 水は透明なイメージだが、取り入れる光で何色にでも見える。ふわふわと漂う光は水の妖精だったのだと、やっと気が付いた。今夜は満月の晴天、星もよく見える。妖精たちが自分らしい光を発してくれているのかもしれないと思うと、嬉しくなる。儀式で使用するトパーズは、黄色に近い橙色なのだ。

 黄色の妖精は甘えるように拓真の手の周りにまとわりついている。優しくなでてやると、気持ちよさそうに目を細めた。こんないかつい手なのに喜んでもらえていると思うと、急に愛しくなり、頬が緩んでしまう。

「すげぇ……」

 感嘆の声をもらしたのは、買い出しに行っていたフジたちだった。それぞれ両手に袋を下げている。

 なにがすごいのかといえば、拓真の周りにたくさんの妖精が集まり、群がっていたのだ。遊んで遊んで、と必死にアピールしている。

 当の拓真は、最初の黄色の妖精に気をとられ、周りにたくさんの妖精たちが集まっていることに気付いていなかった。

 気付くと、一緒に来た学生たちが、慈愛に満ちた目を、買い出し組は尊敬の眼差しを送られている。

「拓真さんもデレることってあるんですね」

 誰かが発した言葉に、拓真の顔がみるみる赤くなる。フジたちは笑いを必死でこらえているのか、肩を震わせている。

「ほら、食いもん出せ」

 照れ隠しにそういうと、にやにやとノンアルコールカクテルらしきものと、軽食が渡された。

 もぐもぐと頬張りながら、改めて周囲を見回す。

 灯篭のように流れていく水の妖精の光と、自分たちに集まるたくさんの光。

 自分の見かけでは妖精たちや子どもに怖がられるだろうと思っていた。しかし、違うようだ。少なくとも、妖精には。


「妖精は、人を外見で判断しませんよ。心を感じますから」


 碧の言葉がよみがえる。

 大人数で話しながらごはんを食べて、妖精にちょっとわけて、戯れて……。

 とても贅沢だ。

 ありがとう、と誰へでもなく感謝の気持ちを込めて、拓真は空を仰いだ。

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