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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十二章
83/163

六、

 学園祭二日目も大盛況。

 開始の時刻には門からぞろぞろと人が入ってくる。一日目の倍、いや、それ以上かもしれない。昨日の評判が人を呼んでいるのは言うまでもない。


 本日も晴天。入ってくる人たちの笑顔が光って見える。所々であたりをちらちら見回しながら不安そうにしている家族連れも見受けられる。噂を聞いて子供にねだられて仕方なく連れてきた、といったところだろう。でも、この親も必ず、笑顔で帰ることになる。そう言い切れる。

 イベント内容は昨日と一緒だ。それでもこのイベントを見て、触れて、心動かされれば、皆笑顔で帰宅してくれる。


 そしてその予想は現実となる。


 学園祭の終了時刻、人々は日の入りで暗くなる夕闇の中、暗いとは思わせない明るい笑顔で帰って行った。

 外からのお客様のいなくなった学園内は、また有能力者の世界に戻っていく。しかしまだ、その中には人間ならざるものが、違和感なく存在している。人魚や天馬たち、大きな生き物はそれぞれのすむ次元へと帰って行ったが、まだたくさんの妖精や小さな生き物が、学内に存在していた。


 そして――


「よっしゃーーーー! みんなーーー! 学園祭成功、おっめでとーーーう!!」

 紅葉(くれは)のノリノリな声が、学園全体へと響く。

 うおーーーー! という声がどっと沸き起こる。

「ってなわけで! これから後夜祭、始めるぞーーーー! っといっても特にイベントはないんだが、飲んで食って、接して、楽しんでくれーーーー!!」

 いえーーーーい!! という返事が全校から聞こえてくると同時に、わらわらわいわいと学生たちが動き始める。

「酒は禁止、はめをはずし過ぎずにな! それと明日も講義は通常どおりある! 片付けもあるのも忘れずにな!」

 という紅葉の言葉が学生に届いたかは定かではない。


 廻れなかった他の領に行ってみたり、屋台の食べ歩きをしたり、学内は大いに盛り上がっている。メインイベントは行えないが、妖精たちがまだいてくれている。魔法を使って戯れたり、会話を楽しんだり、楽しみ方はたくさんある。

 この様子を見ると、今まで感じられていたぎすぎすした雰囲気はなくなっているように思う。一つのことを協力してやり遂げた達成感が、学生をまとめてくれている。非能力者に対する思考の違いに関係なく、混ざって楽しんでいる。

 碧に対する反応が明日からどうなるかは正直わからないが、二極化は少しやわらぐ気がした。非能力者の反応への対応の案件も、良い方向に向かってくれるはずだ。


「解決した、とはいえないですが、明日からの雰囲気は前と随分かわりそうですね」

 一水(かずみ)が言った。

 解決、というのは碧に対する反応のことだ。

「そうだな。目的……共存には一歩以上近づいたはずだ! 達成ってことでいいだろう?!」

 ふんすふんすと鼻息荒く返す紅葉に、一水は呆れ顔になってしまう。

「たしかに目的達成かもしれませんが、これからが大切ですよ」

「そんなことより! ほら、火の領へ行くぞ! サラマンダーが待ってる!」

 そういって紅葉は一水の腕をとると、ぐいぐいと火の領へ引っ張っていく。

 そんなことって、と思いながら、一水は引っ張られる方向へ進む。

「ほら、私たちも楽しむぞ!」

 思い切り笑顔を見せつけられ、一水の口元もふっと緩む。

 まぁ、いいか。一水は自分を引っ張っている紅葉の腕をとり、逆に紅葉を火の領までエスコートして向かったのだった。


 その二人の背中を、ほのかがちょっとうらやましそうに見送る。いい雰囲気のふたりを邪魔したくない。でも、サラマンダーとわいわいやりたい。

 火の領では今、炎の絨毯の真ん中でキャンプファイヤーが開かれているのだ。そこへ行けば友だちもたくさんいるし、みんなで盛り上がれる。ただ、あの二人のラブラブを見せつけられてしまったためか、ひとりで向かうのが寂しく感じられてしまった。

 あーあ、ひとりかぁ。

 そう思った矢先、一人のよく知る姿が目に入った。あのちょっとおろおろした動きと小さ目な身体。弦矢だ。

 間違いない、となんの根拠もなく確信し、突撃する。

「弦矢くん!」

「ふわぁ!」

 いきなり後ろから大声で名前を呼ばれ、びくっと飛び上がった。やっぱり弦矢だった。

「あ、ほのかちゃん、おつかれさ」

「ねぇ! 弦矢くん! 一緒に火の領に行こ! キャンプファイヤーやってるんだって!」

 うまいこと相方を見つけたほのかは弦矢の返答を待たずにぐいぐいと引っ張って、というよりずるずると引きずっていく。強引なところは姉妹そっくりだ。

 実は土の領に向かおうとしていた、なんて口にすることはできず、弦矢はそのまま火の領へ連行された。

「わあああっ!」

 キャンプファイヤーは思った以上に大きく、強く燃え上がっていた。ほのかは思わず声をあげる。火の粉が瞳を揺らす。

 学生たちは妖精たちとともに、飲んで食べて踊って、めちゃくちゃなのになぜかまとまっている。

 ほのかはこの中に入りたい、という衝動を抑えきれなくなった。

「私たちも一緒に踊ろう!」

 誰もが好き勝手にわいわいと踊る中へ、ほのかは弦矢の手をとり走り込むと、両手をにぎってぐるぐるとまわり始める。

「ふわう!」

 弦矢はいきなりの回転に驚いて声を上げるも、周囲の音でかき消されてしまう。

 目の前には、きゃぁ~っと声を楽しそうにあげ、満面の笑みを浮かべるほのか。

 くるくるまわりながら景色はどんどん変わっていくが、ほのかの笑顔だけは変わらず目の前にある。つないでいる両手の温もりがとても暖かい。

 いつのまにか、戸惑っていた弦矢も笑顔になっていたのに気付いたのは、ほのかだけ。ほのかは嬉しくなって、ぶんぶんとより早く回って、立っていられなくなるほどに楽しんだ。

 弦矢は初め、何か別のことをしようと考えいたようだったが、絶対彼も楽しんでくれている。だって、まわりすぎてへろへろになっても、一緒に笑っているのだから。

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