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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十二章
82/163

五、

 土の領は、他の領のようにメインイベントはない。

 入り口のバラのアーチをくぐると、目の前に幻想的な世界が広がる。右からは雪がちらちら混ざった冷たい空気が流れてくるのに、左からは暖かな陽射しと陽だまりがお客様を招く。前方には新緑と紅葉が隣同士に並んでいる。

 春夏秋冬、四季のすべてが揃う森の中。様々な花が咲き誇り、鳥がさえずり、動物が遊びまわり、妖精たちがくるくると舞う。まさにおとぎ話の中の世界。

 土の領の四季の森は、決まったルートはない。好きなように散策し、動物や妖精と戯れて、ゆったりとした時間を過ごすことができる、憩いの場。運が良ければ、ユニコーンやケンタウロス、ミノタウロスなど、それこそおとぎ話に出てくる生き物と会うことができる。


 拓真は裏方で仕事をしながら、森の中の様子を窺っている、子供は妖精ときゃあきゃあ追いかけっこをし、大人は植物を鑑賞しながら会話を楽しんでいるのが見える。

 よかった、というのが拓真の正直な感想だ。異世界に迷い込んでしまった瞬間に感じるのが楽しさなのか恐怖なのか、それは人それぞれ。でも見たところ、楽しんでもらえているようだ。そもそも、この景色を前に恐怖を感じる人などいないに等しい。必要のない心配といえる。

 たくさんの生き物がこれだけ交わっても、ぶれない世界が目の前にある。つい最近まで崩壊しそうだった、有能力者と非能力者、人間ならざるものの世界が、また足元を固めつつある。

 自分と違う生き物を受け入れる機会と器があれば、懸念していた混沌も止められると改めて感じる。今回の場合は、すべてが交わる環境が良い影響をもたらしているのは言うまでもない。


 拓真は現状報告を受け、あれこれ指示をしながらちらと特設の小屋から外へ目をやる。視線の先には碧がいる。妖精と仲の良い彼女の周りには、いつも妖精たちが群がっている。昨日までは視えなかったのに、今日視えているというのも不思議なことだ。

 外からのお客様が妖精を見て集まり、輪が広がっていく。魔狼や大蛇、巨人が出てきたときにはその場の空気が凍りついたが、碧がなにごともないように接するのを見て、見た目の怖い生き物にも近寄る人が増えている。“悪”に属すると思える生き物にも、なんでも平等に接することのできる碧のことがすごいと思い、不思議にも思う。

 そうか、と拓真はひとりで相槌をいれる。

 碧は、人間とそうでないものをつなぐ、要のような存在なのか。

 碧を眺めながら、ひとりで考える。

 碧は今、妖精と人間の子どもと、ひょっこり現れた魔狼と、笑顔で接している。その風景は、混沌でもあり、輪でもある。

 目を細めてふぅと一息つくと、主催関係の学生が入ってきた。

「失礼します。運営第二部門の報告ですが……」

 拓真はきりっと顔を引き締めて学生の報告へ耳を傾ける。

 今の自分は有能力者として、この学園にいる人たち、生き物たちだけの緩和剤になっているにすぎない。しかしいつかは、学生の中の非能力者反発派だけでなく、非能力者、そして人間ならざるものへと、範囲を広げて平衡を保つ存在にならなければならない。そうなりたい。

 碧のように、すべてをつなぐ存在に。

 学園祭での土の領に関しては、ほとんど碧に任せきりだ。提案を受けて、それを実行に移すための指示をしただけ。人間ならざるものの協力を得たのは自分ではない。

 きっと、必ず、守護神としての務めを果たしてみせる。それが、今できること。土の宝玉がなくとも、できることから始める。少しずつ、積み上げる。

 今できるのは、お客様を楽しませ、テーマの“共存”を伝えることだ。

 よし、やるぞ。今、俺にできることを、精一杯。

 そうすれば、先は必ず見えてくる。

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