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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十二章
78/163

一、

 空は雲一つない快晴。これが空色なんだと思う、鮮やかで透き通った広い景色が頭上に広がっている。

「いよいよですね」

「楽しみだな」

 学園の正門を斜め上から見下ろすことができるデッキに、樹は一水(かずみ)と開場時間を待つ。


 そう、今日から学園祭。待ちに待った、初の、学園祭だ。

 学園の門は背が高いため、外の様子は高い位置にあるデッキからでも見えないが、門が開かれるのを今か今かと待つ人のわくわくどきどきした熱気が伝わってくる。

 遊園地に入る前のときのような高揚感。思っていた以上に、入園を待つ人がいるらしい。他の魔法学校に通う有能力者もいるだろうが、もちろん、外にいるのは非能力者がほとんどだ。

 学園内では、お客様を歓迎する学生がそれぞれの持ち場についている。

 考えていた五月より少し遅く、六月頭の土曜、日曜に開催が決まった、非能力者を交えての学園祭。

「幸先のいい、気持ちの良いお天気ですね」

「ぼくも興奮してきました~」

 さらと弦矢も同じデッキで門が開かれるのを待つ。反対側のデッキでは、紅葉(くれは)とほのかに、拓真とフジ。

 門の内側では、パンフレットを持った学生が待機し、吹奏楽部が楽器の調整を終えてスタンバイしている。

 これが、この学園祭がうまくいけば、いくつかの問題を解決できる突破口になる。成功させなければ。樹の表情が引き締まる。

 すると、ぽん、と肩に手を置かれた。

「もっと力を抜け」

 一水だ。樹は素直にうなずく。

 非能力者はもちろん、学生、妖精たちなども人間ならざるものも楽しむためのイベントだ。外からのお客様に緊張が伝わるようではいけない。

「あ! もうすぐですよ!」

 弦矢が三人に伝える。


 十、九、八、七……


 カウントダウンが始まる。

「三、二、一、開園!」

 わぁ、と溢れる歓声とともに門が開かれ、ぞろぞろと人が入ってくる。

 ファンファーレの音が空高く響き、虹の門がかかった。きらきらと輝く光が舞い降りてくる。妖精からのサプライズのプレゼントだ。

 それを見たお客様の顔は、笑顔でいっぱいになっていた。もちろん、学生も。同じ光景を見て感動し、歓喜する人々は、有能力者も非能力者も関係なく、人間として、ひとつの空間に溶け込んでいた。

 第一印象は良かったはずだ。樹はほっと胸を撫でおろす。魔法を使わずに演奏している吹奏楽部のオーケストラが、心地よく耳に届いてくる。


 ここまでの道のりは、そう簡単ではなかった。だからこそ、今この瞬間が感慨深く思えるのだろう。

 全校総会を実施することについては、学長からすぐに許可を得られた。とはいっても、学長も総会を開く理由を聞いたときは、眉間に皺が寄ったらしい。

 だが、非能力者との間にできた歪みの改善に大きなメリットがある。学長の中での危険値よりも、メリットが上回ったのだろう。イベントは学生主催で企画から実行まですべて行うようにと添えて、総会の承認書類にサインをくれたという。

 そして、総会の日時と決議内容の模索。これが一番厄介だった。

 総会の日時は四月下旬。新入生が入学し、歓迎ムードが収まった頃合い。

 学園祭の日程を領分けの儀式の前に予定していたため、四月中と決めた。

 問題は決議内容だ。非能力者も参加する学園祭を行うという内容を、どのように提示するか。

 過半数の賛成票を得なければ実行には移せない。あれこれ守護神で話し合いを続けた。


 また、総会の承認を受けた後、長たちはすぐにそれぞれの属する王、女王たちに協力をお願いした。どのような流れがあったのかはわからないが、意外にも協力に積極的だったという。

 最終的に水、風、火の王たちは学園祭のイベントに協力してくれることになった。

 さらに意外だったのは、それぞれの王たちが人間の前に姿を現してくれることだった。てっきり、王たちのお願いでそれぞれに属する生き物が集まってくれるのだと思っていた。驚きだが嬉しいことでもある。王たちが協力的ならば、彼らに仕える生き物たちも協力的な姿勢を見せてくれることが期待できるからだ。

 これだけ協力的になってくれているのだから、決議は成功させなければならない。勝つことを前提とした案の提示が必要だ。


 最終決定した提示がこれだ。

 ◎六月初めの休日二日間

 ◎学園祭を

 ◎学内全体で

 ◎妖精、幻獣等の生き物と共同で

 ◎学生、一般人(非能力者含む)をお客様とし

 ◎すべての生き物の共存をテーマとして

 ◎学生主催で行う

 以上だ。


 日程は領分けの儀式前で行うことを前から決めていた。休日なのは、非能力者が参加しやすくし、二日間にかけるのは一日目の評判を聞いて二日目に来てくれる人を増やすことを期待してのことだ。

 学内全体で、というのは、全領という意味で、学生は強制参加ということをほのめかしている。

 大切なのは、妖精、幻獣等の生き物と共同で、という部分だ。まだ彼らを実際に見ていない学生がほとんどだ。その存在があることを今までの事件で聞いていてはいても、見たことはない。好奇心を煽ることで、賛成票を集める意図だ。

 特にまだその話すら聞いていない新入生の票を集めたい。もう、妖精ほか幻といわれる生き物が協力してくれることは確定していた。共同で行うことを断言することで、信憑性も増す。見たことのないものを見てみたい、という気持ちは反発の気持ちを上回る。

 お客様に非能力者を含む、という部分には、さすがにざわつきがあった。非能力者を蔑む学生の反感だけでなく、有能力者に対する反発が強まるなか、学内に招きいれることへの心配によるものもある。あとは単なる戸惑いだ。

 しかしその後にテーマを伝え、生徒会の意図を理解させる。共存の対象に妖精たちも入ることを思い出させ、学生の興味をもう一度そちらに集中させることで、反対票を防ぐという戦略だ。

 学園に入学すれば、長期休暇以外は寮生活。外の世界に触れる機会はめっきり減り、魔法のある生活が日常的になってしまう。その生活の中に行事とはいえ、非能力者が入り込むとなると抵抗もあるだろう。反対票があるとすれば、この点だけが危険分子だ。

 テーマを掲げたのは学園祭の印象を強くするためと、団結させるための二つの目的がある。学園祭というものには、毎年テーマがあるものらしい。そしてそのテーマを達成するために学生が一つになれば、二極化した現状が回復に向かうだろうという思惑がある。また、共存というテーマにすることで、宣伝を見た非能力者が学園に足を向けやすくする。

 学園祭というワードを最初に掲げたのも戦略のひとつ。年中行事は多くあるが、それは歓迎イベントや開学記念式典、領分けの儀式の他は、魔法の能力、技術を高め、士気を高めるためのものがほとんどだ。楽しむことを押し出したイベントはない。

 学園祭というのは学生にとってはひとつの憧れだ。楽しい印象に、初めての開催という事実が加われば、誰もが一気に「やりたい」と興味を持つ。

 過半数の票を得なければ、実施を前提に進めてきた計画が水の泡になってしまう。協力を示してくれたそれぞれの王たちにも面目が立たない。


 守護神の予想では、賛成票を六割とれれば、というギリギリのラインだった。もちろん学園祭開催を前提に組み上げてきた提示ではあったが、去年からの三つの事件のこともあり、消極的になっていた。

 過半数の賛成票を得られなければ、有能力者への反発意識が高まっている非能力者への対応を一から考え直さなければならない。一種の賭けともいえた。

 しかし、結果は予想の六割を大きく上回り、八割以上の賛成票を得ることができた。新しい行事が増え、青春のイメージである学園祭は学生にとっても嬉しいこと。そのうえ妖精たちなどを見られる、というのが好奇心を掻き立て、賛成に導いた。

 また、生徒会が考えているよりも、有能力者と非能力者の共存について考えている学生が予想以上に多かったことも、賛成票を多く得られた一因だと分析している。

 二割弱は反対だ。反対する学生がいることは事実である。反対する学生たちには、準備や本番で少しずつでも、この学園祭を開催する意図を理解してほしいと願っている。非能力者が参加してもしていなくても、楽しませてみせる、と生徒会は意気込む。


 かくして、学園祭は幕を開けたのだった。

 決定してからは本当に忙しかった。なにせ、準備期間が一か月しかないのだ。そこをなんとか素晴らしいものにさせようと奮闘する学生たちの姿には感謝しかない。

 反対していた二割弱の学生も、事が始まってしまえば輪に入らざるを得ない。初めこそ嫌そうな姿勢を見せいていた学生はいたが、いつのまにか学園祭のムードに溶け込んで、そのような様子を見せる者はいなくなっていた。見える範囲内では、一致団結がかなったといえる。

 今、学園には有能力者、非能力者関係なく、活き活きした空気が流れている。主催は学生だが、学生もお客様でもある。領でわかれてイベントの準備をしているため、他の領のことまではわからない。それぞれの担当時間は自由に行動できるため、他の領の見学をしながら、非能力者と感動を共有して、共存へつなげてほしい。

 お客様はそれぞれ好きな方向へ進んでいく。大きな催しは時間が決められているが、どこへ行っても楽しめるような企画は多くある。

「私たちも、配置につきましょうか」

 外で待っていた人たちがほとんど入場したのを見届けて、さらが言う。


 一日目の最初の大イベントは、火の領担当。見に行きたいのはやまやまだが、樹たちもそれぞれ任務がある。ここで一度、守護神は解散だ。

「お互いがんばりましょう」

 爽やかに笑うさらがいつもより力強い。残念だが、いったんお別れだ。

 樹は一水とともに水の寮へ向かう。さらの力強さに鼓舞され、樹も気合を入れる。

「で、碧とはどうなんだ?」

 一水からの問いかけが突然すぎて、ずっこけそうになる。せっかく入った気合が抜けてしまった。

「どうって、べつに変わりありませんよ」

 あの日から、変わりなし。それは事実だ。

 むすっと答える樹に、一水は特に気にした様子もなく、「そうか」とだけ答えてきた。

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