七、
そして最後の議案。“影”の土の領への攻撃対策。
「これについて、すでに言ったが俺は一刻も早く土の宝玉を手に入れる必要があると考える。土の王と象徴に会いたい。どうすればいいだろうか」
これまで他の長が宝玉を手にしたのは、“影”が事件を起こした後のこと。それを抑える策として、授けられている。
だが、事件が起こってからでは遅いのだ。“影”が土の領を次の対象にしていることがわかっている今、先に解決策を講じておかねばならない。
「難しい問題ですね。私たちも、切羽詰まったそのときに、救いの手として与えられています。ただ、土の王が宝玉を持っていると考えるのは確実でしょう。私たち全員そうでしたから」
「拓真なら必ず認めてもらえる。会えれば手に入るだろうな」
「サラマンダー様は、土の王様やノーム様のことを頑固だとおっしゃっていましたし、素直に出てきてくれそうではありませんね」
サラマンダーは、「あいつら頑固で捻くれているから」とぼやいていた。
「宝玉に頼らずに策を立てるほうがいいか……」
樹もそう考えていた。既に他の長三人は宝玉を手にしている。拓真は自身の力だけで十分強い。宝玉がなくても四人の力と学生の協力を得て対策を練ったほうがいいのではないかと思うのだ。拓真は土の領生から尊敬され、慕われている。拓真からの願いであり、土の領を護るためとなれば、学生は喜んで協力してくれるだろう。
「碧さん、なにか心当たりはないか」
拓真が碧に水を向ける。心当たりとは、土の王たちのこと。これまで出会った王たちは人間ならざるもので、誘拐事件の際一水を女王のもとへ案内したのは碧だったからだ。
碧は少し悩んで、「たずねてみます」と答えた。
なんだか複雑な表情をして、ぼんやりと答えた碧。その様子に「誰に」「どうやって」を追求する者はいなかった。
「もともと、王様や女王様はそれぞれに属する生き物を司る存在です。それらを操る力を持っていても、四大元素のどれか一つに分類されない人間の行動に、口を出すことはありえなかったはず。いえ、だからこそ人間に託しているのかもしれません……。“影”の存在はそれだけ平衡を崩す恐怖なのだといえるかと……」
そういえば、クラウディアは人魚が“善”、メローは“悪”に所属すると言っていた。水の女王でありながら、同じ“水”に属するものを攻撃することは許されない。だから“人魚”として対抗する、と。一水は入り江での会話を思い出していた。
紅葉も噴火事件のことを振り返っていた。
エトナは自分を“悪”だと言っていた。では、サラマンダーは? “象徴”はどちらなのだろう。“悪”なのに、エトナは学園を護ろうとする紅葉に力を貸してくれた。それは、火の女王としてなのか、炎の獅子としてなのか、それとも他に理由があったのか。今後はどうなるのか。
さらも然り。竜巻を起こしてしまった自分に風の宝玉を授けてくれたヴィクトールはきっと“善”。召喚されたハルピュイアは“悪”だ。風の力で自然を脅かした、“悪”の存在となっていたさらに力を貸してくれた“善”に属する風の王。それはなぜなのか。願えば、また協力してくれるのだろうか。
拓真はまだ土の王と象徴に会っていない。そのため、三人とはまた違ったことを考えていた。碧の言った「四大元素のどれか一つに分類されない人間」という発言だ。人間とは、どこに分類されるのか。形ある生き物で、水分を持つ。血も流れている。体温を有し、空気を必要とする。すべてを持っているのに、分類されない。その意味とは。
四人がなにやら考え込んでしまい、室内がしんと静まりかえる。何かしらの案を出してくれるのを、樹たちは待っていた。しかし誰も口を開かない。
耐えかねたのか、言葉を発したのは弦矢だった。
「あ、あのぉ、土の領の“影”対策の件なんですけど……」
続けてもよろしいですか、と聞くように弦矢は長を見回す。
「ああ、続けてくれ」
拓真が答え、弦矢の話に皆が耳を傾けた。
「その、拓真さまが土の宝玉を手に入れる以外の手立てなのですが、その、えっと、ご意見箱、の設置とかは、どうでしょうか」
「ご意見箱?」
ご意見箱。そのままの意味で、意見を集めるための箱だ。
「学生が感じた違和感とか、変化とか、どんな些細なことでも伝えてもらうんです。特に、妖精さんに関わりそうなことの情報を得られれば、少しは準備が、心の準備も、できるのでは、と、思いまして、その……」
執行部や警備隊員からその日の状況報告は毎日受けている。しかし執行部と警備隊員に限られている。学園全体までには目は届かないし、人員も限られる。学生からの意見をもらうというのは良い案だと樹も思った。守護神や警備隊員などには気軽に話しかけづらいこともあるだろう。だから直接ではなく、間接的に感じたことを伝えてもらうのだ。
「それは名案だ。妖精や自然の動きはこれまでの事件にも大きく関わっている。力の均衡や環境変化もだ。俺たちより敏感な学生から意見を得られるのはありがたい」
異論は出ない。
「全校会議のことと共に、早急に学長に掛け合うことにしよう。弦矢、いい案をありがとう」
お礼を言われた弦矢は、照れくさそうにはにかんでいる。弦矢はいつも違った角度からものを見て、役立つ意見をくれる。頼りなさそうな外見ではあるが、実はとても賢く頼りになる。
第三議案は碧の返事待ち、そして意見箱の設置という仮決定で終わった。
さて、そろそろ解散か、と思ったとき、拓真が言った。
「この後は長の臨時会議を開く。悪いが、他の者はここで解散してくれ」
臨時会議のことは聞いていなかった。このままさらを寮へ送ることができないのが残念だ。しかし解散と言われたからには仕方がない。退出だ。五人が席を立った。
「悪いが弦矢、会議の警備を頼めるか」
動き出した弦矢に拓真が声をかける。形式的な会議の進行の言葉や警備などを頼みたいのだろう。
が、それが警備隊員でなく執行部である弦矢が頼まれたことを、樹は不思議に思った。
弦矢本人も驚いた様子ではあったが、すぐに了承し、その場に残る。そして残り四人は生徒会室から退出した。




