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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十一章
73/163

六、

 第二議案、碧が生徒になったことに対する学生の対応。


「警備していて気付いたことを報告してくれ」

「はい」

 まずは樹から報告する。

「火の領は“影”事件解決の場でもあることから、目立った悪い言動は見られません。風の領はヒーリングの常連の学生が多いこともあり、こちらも比較的友好的です。しかしどちらも比較的、であって、どこでも学生からの視線は良いものとは言えません」

 残念そうにさらが表情を暗くする。樹はさらに慰めの言葉を伝えたいところだが、報告に私情ははさめない。後で二人で会ったとき、元気になるような言葉をかけようと決める。

「水の領も、碧さんが学生となったころに納得できていない雰囲気があります」

 碧が“無所属”でなければまた違った反応だったのかもしれないが、彼女は本物の“無所属”であるうえ、学生としては羨ましい処遇が多いことから、やはり受入れがたいのだろう。

「土の領では特に拒絶反応が顕著だと感じます。次の“影”のターゲットが土の領だということも関係していそうです」

 碧が“影”を退けたことを知るのはごく一部。それを知らない学生からすれば、碧は無所属なのに魔法を使える(らしい)とされる、得体のしれない存在なのだ。

 不満、嫉妬心などから嫌な視線を感じたり陰口を聞いたりすることが多い。わざとらしく遠回りに避ける、といった行動もみられている。

「これらは日に日に酷くなっているようです。今後は物質的な攻撃も否めません」

 碧に警備をつけるという学長の命令は、これを考えてのことだったのか。しかしなぜ学長がここまで碧に気をかけるか、気にかかることもある。


 碧は“影”に対抗できる力を持っている。しかし実際は“影”と相性が悪い。そのため“影”に狙われる可能性が高い。学生はそれを知らない。かといって碧の力を公にはできない。この議案は難しい。

 フジと弦矢からも報告がされる。ほぼ樹と同じ内容。碧は口をつぐみ、ぎゅっと膝の上で手を握って下を向いている。

「これでは、“影”の思うつぼですね……」

 有能力者に対する非能力者の反発、学内での碧と学園に対する感情の二極化。まさに混沌に陥ってきている。まだ、人間と人間ならざるものの衝突がないだけましだが、さらの言ったことはもっともだった。

「何か打開策はないか」

「碧への処遇を変えることはできませんからね。学生への理解を求める必要があります」

「ですが、一水(かずみ)さん、碧さんの力や妖精たちとのつながりは公にはできないんですよ?」

 それができれば一発で問題は解決するのだ。できないからこそ困っている。

「学内で、今までのお仕事で活躍してもらいましょう! もっと!」

 ほのかが言った。

「碧さんは見えないところでたくさん活躍してます! 植物の手入れも実習の準備も療養室も! それをもっと知ってもらいましょう!」

 実績を増やして伝えて、例外の処遇を受けるに値する人材であることを伝えよう、というのだ。

「でもそれ、碧さんのお仕事を増やすことになってしまうのでは?」

「あ」

 弦矢の指摘にほのかが言葉を詰まらせる。今でも十分働き過ぎなほど働いているのだ。学園がブラック企業に思えるほど。

 好きでやっているから、と本人は気にしていないようだが、とにかく今でも十二分に学園の利益となっている。

「いや、いい案かもしれない」

「え?」

「ええ、時間と場所を考えれば、いいですね」

「ああ。もっとわかるように、仕事をしてもらえばいいんだ」

「広告宣伝もしてみたらいかがでしょう?」

「いいな」

「え? ちょっと待って、ください。どういうことですか?」

 長たちの会話の内容についていけないほのかに、一水が言う。

「“見える化”ですよ」

「みえるか?」

 ほのかが反芻する。

「そう、“見える化”です。碧さんが無所属であっても学生であるに値する力を持ち、学園を支えていることを、わざと見せるんです。今までは見えないところでの活躍が多かったと思いますが、学生の目に入るよう工夫します。碧さんがここへ来て、学園内は変わったとは思いませんか? 薬草学の実習までできるようになっています。仕事ぶりを、見てもらうんです」

「それは、碧さんに不満を持つ方にとって、格好の機会になるのではありませんか?」

 姿が見えれば、不満を持っている学生はもっとその不満を膨らませるになる。

 樹の意見に拓真が答えた。

「そのリスクはある。だが、見えるということは他にもたくさんの目がある。表だって攻撃はしにくい。それに警備がついている。碧さんが有能なことを目で見て認識してもらおう。妖精たちと同じだ。実際に見ることで与える影響は大きい。時間はかかっても」

「時間に解決してもらう、ということになりますね」

「そうだな」

 さらの確認に、紅葉(くれは)も頷く。

「時間は必要になりますが、懸命に働く碧の姿を見れば、学生たちも少しずつ受け容れてくれるでしょう。碧がいることが日常化するわけです。自分がしていないことを、できないことを行っている碧のことを、不満に思っていても拒むことはしなくなるでしょう」

 見えないところで活躍してきたが、こそこそとしているほうが現状では悪い疑念を抱かせる。だからこそ見せることで印象を変えよう、というのだ。

「やってみる価値はある、だろ?」

 紅葉がにやりとする。

「実行しよう。弦矢、碧さんの仕事内容とスケジュールの調整を頼む」

「かしこまりました」

 弦矢はすぐに情報端末を取り出し、操作を始める。

「さらさん、碧さんに友好的な評判をうまく流してもらえるか?」

「はい、もちろん」

 本物の“風の噂”だ。嘘を吹聴するわけではない。良い情報が流れるように、内容を良い方向に向けるのだ。


 そんなこんなで第二議案は固まっていく。

 当の碧は何も言わない。ずっと下を向いているだけだ。自分のことについて話し合いが行われているなか、その様子は樹には不自然に映った。碧のまとう空気も、変に静かだ。下を向いていてよくわからないが、瞳に光がない。

 碧の意見は聞かなくてもいいのか、と思っていた矢先、さらが口を開いた。

「碧さんはどう思われますか?」

 以心伝心しているのかも、と嬉しくてにやけそうだったが、それを抑えて真剣な表情を貼り付け、碧をちらりと窺う。

「精一杯、やらせていただきます」

 碧はにっこり笑った。笑ったことに他の人たちは安心した様子だが、樹は一瞬、その笑みの裏に翳がさした気がした。

「厄介ごとを持ち込んでしまい、申し訳ありません。私のせいで仕事を増やしてしまって」

 俯いて自分を責めるように話す。また瞳が昏くなる。

「碧、俺たちはチームだ。助け合うのが当たり前。君が謝る必要はない」

「そうだ。何かあったときに支え合うのがチームってもんだろ?」

「碧さんのせい、ではなく、私たちのため、にやっていることです。自責をする時間のほうがもったいないですよ」

「背負い過ぎるな、と俺に言ったのは誰だったかな」

 長がそれぞれ碧を励ます。四人の目は暖かい。

 碧は顔を上げ、「はい」と小さく微笑んだが、目線をあわせることはなかった。

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