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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十一章
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五、

「我らって……妖精さんたちが、ですか?」

「そうじゃ! もちろんエトナにも一役買ってもらうぞ!」

 ふん、とサラマンダーは鼻をならす。身体の炎もぼっと音を立てる。

「先の詫びも兼ねてじゃ! 我らで火の舞を披露するぞ! エトナには炎のライオンの火の輪くぐりをやっともらおうぞ! さあかすで人間を楽しませるのじゃ!」

 炎が一層大きく燃え盛っていることから、サラマンダーの興奮が見て取れる。

「え、エトナもやってくれるのか?」

「これから話すから大丈夫じゃ!」

 本当に大丈夫なのか、火の女王を見世物にするなんて、という疑念と不安が室内をとりまく。

「それから、水の紅葉(くれは)の王子!」

 びしぃ、と一水(かずみ)を指す。隣では、紅葉がぼん、と音を立てて真っ赤になっている。

「一水です」

「紅葉の王子、そなたも水の女王とウンディーネに話をつけてこい!」

「は、はぁ」

 呼び方を変えてもらえなかったからなのか、水の女王との話し合いを指示されたからか、珍しく一水はいつもの微笑を忘れて呆けたように返事をした。

 紅葉はあたふたしながらサラマンダーに話しかける。

「さ、サラマンダー、一水は王子ではなく、一水と呼んでくだ」

「次、風の女子(おなご)!」

 サラマンダーに紅葉の問いかけは届いていない。今度はさらを指さす。

 ずびしぃ! とさされたさらは、びくぅっと肩を震わせる。

「は、はい……?」

「風の王とシルフに連絡をとれ! まぁ、あやつらにこの話はすでに届いているじゃろうから、向こうからなにかあるじゃろうが」

 風は情報を意味する。サラマンダーの言うとおり、ここでの話はすでに風の王たちに伝わっているだろう。なにより、ここには風の宝玉を授かったさらがいる。

 次にサラマンダーが振り返ったのは拓真だ。それはもう予測済みで、拓真は動じない。

「おぬしは土の王とノームに頼んで来い!」

 その言葉は予想していたものだったが、実際に言われて空気が固まった。

「ん? なんじゃ?」

 一気に重くなった空気に、さすがのサラマンダーもどこか変だと気付いたらしい。不思議そうに炎を揺らしている。拓

 真が重い口を開く。他の者では説明できない。

「サラマンダー様、恥ずかしながら私は“土の王”様とノーム様にお会いしたことがございません」

「な、なんと」

「大変情けなく存じます」

 拓真の表情からはいつものどっしり構えた力強さが消え、情けなく哀しそうな色が瞳に映る。サラマンダーも拓真の気持ちをくみ取ったのか、それ以上追及しない。めらめらと燃え盛っていた炎が、ゆるりとやわらかくなる。意外にも空気が読めるらしい。

「それはすまなかったの。それなら碧に協力してもらえ。碧、頼んだぞ」

「はい」

 どのように、と具体的なことはわからないが、碧にはなにか考えがあるのだろう。迷うことなく返事している。拓真もよろしく、と目配せをした。

「よし! 少なくとも“火”の種族は協力するぞ! 人間たちにしょおを見せる! 詳細が決まったら連絡頼むぞ、紅葉!」

 そしてぼっとまた音がしたと思うと、サラマンダーは消えていた。


「一方的な話し方は、相変わらずだな……」

「まぁ、これで妖精たちの協力を得られる可能性が高まったのですから、一つ目の課題は私たち次第でなんとかなりそうですね」

「シルフ様にお話は通っているはずです。協力が得られるかはわかりませんが、お話ししてみましょう」

「王や女王の姿も見せられれば、なおさらよし、だな」

 紅葉、一水、さらと、話がまとまっていく。

 確かに人魚や天馬に炎の獅子を直で見たら、非能力者は驚きと興奮に包まれ、そしてその存在を信じるはずだ。

「拓真さん、土の領はどうしますか? ご希望があればお伺いしたいです」

 まだ土の王と象徴に会えていない拓真は、他の長の話を黙って聞いているだけだ。碧が気を遣ってくれたことに気付いた拓真は、眉間のしわをなくして応える。

「それが、思い浮かばなくてな」

 ぽりぽりと頭をかきながら困ったように笑う。

「土の領は他の領に比べて緑が豊富ですし、それを活かした方法はどうでしょう?」

 フジの提案に、それなら、と碧が食いついた。

「四季の花々で土の領をいっぱいにして、巡っていただくのはいかがですか?」

「四季の花?」

 拓真もフジも、碧の提案を理解できていない。開催予定の五月、春に他の季節の花のある景色を生み出すことは普通ならば不可能だ。

 しかし樹は、その話に二つ心当たりがあった。“あの日”の風景と、記念式典の日に用意されていた花々だ。

「森の妖精さんたちにお願いすれば、喜んで手伝ってくれると思いますよ」

 あの子たちは植物の世話が大好きですから、と碧はにっこり笑う。

 答えになっていそうでなっていない碧の言葉を、拓真とフジは懸命に理解しようと努める。

「森の妖精には、草花を育てる力があるのか」

 結果、出た答えがこれだ。碧は微笑んで肯定を示す。

「そっかあ! 式典のときのお花も、妖精さんたちが用意してくれたんだ!」

 ほのかも樹と同じ考えに至ったようだ。

「それはいい。森の妖精とのコンタクトを頼めるか。できれば俺も同席させてほしい。あ、いや、俺では怖がられてしまうか」

 拓真は自分ががたいがよくいかつい顔であることを自覚している。自分を見て怖がって逃げられてしまうことを心配していた。だが、それは必要のない心配だった。

「妖精さんたちには、拓真さんが土を、自然を心から愛していることが伝わっています。怖がることなどありません。もしご自身の外見を心配なされているのであれば、それは無用です。逆にあの子たちから寄ってきますよ」

「それに拓真さん、表情豊かになりましたから」

 フジの追加に、拓真はむすっとして顔を背けてしまったが、照れていることは明白だ。

「春夏秋冬のお花、素敵ですね」

 弦矢の感想に、樹も光景を想像する。

 一度に四季の風景がぎゅっとつまっている。それは幻想的で、神秘的で、さぞ美しいだろう。樹が見た、“あの日”の景色のように。

 拓真の顔に笑顔が戻る。

「拓真さん、その、申し訳ありません。こちらで勝手に話を進めてしまって……」

 さらの謝罪は、三人で王や女王との話をして、まだ土の王たちと面識のない拓真に対する配慮が欠けていたことに対するものだ。一水と紅葉も、申し訳ない、という顔をしている。

「いや、気にするな。サラマンダー様のおかげで情報が増えたことだし、土の領での計画も進みそうだ」

 情報とは、土に所属する生き物を司る者が“王”、つまり男性または雄であること。

 そして“土の象徴”は、ノームという名前であること。

「少しでも相手を知ることができてよかった」

 拓真が気を悪くしていないことがわかり、三人はほっとしている。

「それぞれの王や女王の支援があれば、学生の好奇心を掻き立てる。非能力者の参加に反対する者もそれは同じだ。好奇心が勝つ可能性が高い。非能力者に見せる、という大義名分で自分を納得させて、賛成してくれる者も多くなる。一水、紅葉、さら、どうか王と女王たちを説得してほしい」

「やってみせますよ」

 紅葉とさらも頷く。

 全公会議で過半数の賛成票を得て、さらに各王、女王の協力を得ることが大前提ではあるが、「非能力者の反発運動への対応」の実現がだいぶ現実的に思えてきた。目的はそれであっても、考えるだけで自分がわくわくする。

「では、第一議案については終わりにしよう」


 拓真の一言で、第一議案の話し合いは終わった。

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