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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十一章
71/163

四、

 碧が学園の生徒となってから、初めての集会。

 今後は会議への出席も碧に課せられた義務となった。


 本日の議題は三つ。

 一、学外の非能力者への対応

 二、碧が生徒となったことに対する学生の二極化への対応

 三、土の領を対象とした“影”の企みへの対策


「クレームは止まらないそうですね」

 火山の噴火に伴う一連の異変は、有能力者の故意で起こされたものとして非能力者に恐れられ、有能力者に対しての一線を深くした。

 自分にはない不思議な能力を有する人間を怖がるのは当然のことだが、社会ではその能力をもって大きく貢献しているはずの有能力者を排除しようとする動きもみられている。

「どうすれば、有能力者に危険性がないことをわかってもらえるだろうか。案はないか?」

 拓真が仕切る。低い声のせいか、どっしりとした重い空気が室内に覆いかぶさる。

「卒業後、社会で活躍する先輩方に講演してもらうのはどうですか?」

 魔法の力を使い、非能力者と混ざって社会で活躍するために、ここにいる学生たちは技術を磨いている。警察や消防、自衛隊、救助隊などの職はもちろん、医者や先生、土木作業、料理人と、魔法の使い方は様々で職も非能力者と同じ選択肢がある。一般的なサラリーマンとして働いている人も多い。ただ、卒業後大半の学生は専門職に就いている。それは魔法の特性を活かして社会を支えるためだ。

「良い考えだとは思いますが、今の状況で講演を行ったとして、人が聞いてくれるでしょうか。批判的に受け取られてしまうかもしれません。有能力者が非能力者を見下していると捉えられてしまう可能性が高い気がします」

「そうだな。有能力者に対するイメージが悪くなっている今は、悪影響につながりそうだ」

 一水(かずみ)の意見に紅葉(くれは)も賛同する。

「他にはどうだ?」

 うーん、と全員が首を捻る。

「私たちの能力に触れてもらうのは、いかがでしょう?」

 次に案を揚げたのは、さら。

「というと?」

 拓真が続きを促す。

「私たちの能力を、非能力者の方々の前で披露するのです。見栄え良く。特に幼い子供たちを対象にして、ショーをするとかはどうですか。魔法というのは怖いイメージもありますが、好奇心や興味をかきたてます。夢のある子供たちは、童話などで魔法に憧れを抱いていてる子どもも多いでしょう。イメージを良いものに塗り替えるのです」

 慎重なさらにしては、大胆な提案だ。

 子供の認識を変えれば、子を否定しづらい親は自身の認識を変えてくれるかもしれないし、大人になった未来へもつながる。いい内容だ。

 ほう、と一同が頷いている。

「ぼくは賛成です! とてもいい考えだと思います!」

 弦矢が興奮気味に賛成する。

「自分も賛成です。しかしタイミングは難しいと思います。学外で有能力者がなにか催そうとしても、現状ではそのような場所がないのではないかと」

 フジの冷静な意見に、再びうなり声。

 その点については樹も問題を感じていた。有能力者に対する悪評が広がるなか、能力を発動するイベントを行わせてもらえる施設があるとは思えない。もし場所があったとして、子どもが有能力者の催しに興味を持ってくれたとしても、そもそも親が止めてしまうだろう。


 噴火のことは、学園関係者により非能力者へ、妖精の活発な行動が原因で起きたものと伝えられている。嘘ではない。妖精が原因だったことは事実なのだから。しかしその説明を聞いた人たちはどう思っただろうか。

 そもそも魔法とは縁のない非能力者は、妖精の存在を知らない。有能力者である自分たちでさえつい最近までは実在しないと思っていたのだ。学園側が魔法によるものを偽っていると考える人がほとんどだろう。

 もし妖精の存在を信じてくれたとしても、有能力者が魔法で妖精を操ったと考えられてしまうに違いない。

 さらが言うように、能力を披露すれば好感度を上げることも期待できる。しかし噴火の恐怖は払拭されないだろうし、必ず良い結果になるとは限らない。

 妖精や精霊が実在することを信じてもらえれば、と樹は考える。そして妖精たちが能力の有無に関係なく人間の周りにいて、独立した意思を持つことをわかってもらえれば……。そうすれば、噴火の件も信じてもらえる可能性は高いし、有能力者の傍だけでなく自分たちの周りにもいるならば、操られたり結託して悪さをすることは少ないと考えてもらえるはずだ。

「それなら、学内でショーを催したらいかがですか?」

 碧の言葉に、「え?」という視線があつまる。

「それでは、非能力者に見てもらえないじゃないか」

 意味がない、という他の誰もが思った言葉を紅葉が口にする。

 すると今度は碧が、「へ?」という顔をした。

「あ、えーと、学内に非能力者の方々をお呼びするんです」

「へ?」

 今度の「へ?」は驚きと疑問の混ざった色を持っている。それはそうだ。学内に非能力者を招き入れることなどほとんどないのだ。碧のような雇われている人であっても少ない。

「ほら、学園祭みたいに」

「もう少し詳しく聞かせていただけますか?」

 興味を持ったのか、一水が話の続きを促す。

「学内で能力を発揮するのはまったく問題ないことですよね。なので、学外から人を招いて、妖精さんたちと一緒に、さらさんのおっしゃったようなショーを行えればと」

「妖精たちと一緒に?」

「はい。実際に姿を見てもらえれば、学外の方々にも信じていただけます」

「それはそうですが……」

「みなさんも、人魚や天馬や妖精のこと、見るまで信じていなかったでしょう? 特に妖精さんたちはいつも人間の身近にいるのに、認識されていません。見てもらえればいいんです」

「それはわかった。だが、今の状況で来てくれるだろうか?」

「妖精さんたちや有能力者に興味がある人は少なからずいるはずです。自ら足を運んでくださる方のほうが、本当のことを受け容れてくれます。冷やかしや批判のために来た人も、事実を目の当たりにして大々的に否定することはできないでしょう。否定したとしても、実際に見てくれた人の言葉の真実性が上回ると思います」

「確かに……」

 なんだかとても良い案に思えてきた。他のメンバーも、真剣に碧の話を聞いている。

「やるとしたら、いつがいいか?」

「入学式の後、領分けの儀式の前……五月ですね」

 拓真の質問に答えたのは一水だ。“やる”方向に考えが傾いている。

「今は歓迎準備で忙しい、というのもありますが、まだ妖精の存在を知らない新入生と共にその存在を目にすることで、信憑性は増します」

「有能力者だけとつながっているわけではないことも、証明できそうですね」

 さらが一水の言葉に付け加える。

 同じ人間である、ということを実感できる最高の機会になるわけだ。ますます良い提案に思えてきた。

「ただ、学内に学外の方を招き入れることが前提ですから、学長の許可が得られないとどうにもできませんが」

 それを忘れていた。

「それに、誠に言いにくいのですが、有能力者の方々は学外の方を蔑む傾向もみられます。魔法の聖地である学園に、学外の方の入場を認めることに対して、学生さんたちの反応も確認が必要です」

 学長の許可はもちろん、学生の反応も大きな問題だ。

「それに」

 碧はまだ続ける。

「妖精さんたちにも話を通す必要があります」

 解決策が出たのに、達成するための壁は思ったよりも厚い。気分がまた重くなる。ほのかも弦矢もフジも、同じように考え込んでいる。


 しかし、長四人は違った。考え込んではいるが、暗くない。口の端を上げて、いたずらを企てる子どものような顔をしている。

「一つ目の問題は、長として我々が学長に進言しにいこう」

 力強い言葉だ。拓真が言うと、さらに頼れる気持ちになる。

 学園の管理は、学長が行っている。講義や学内施設、結界からスケジュール管理まで。

 一方、寮の管理や領の警備、行事の開催は生徒会に一任されている。学長は学生に行動を任せ、学園としての執務だけをまとめているのだ。自分たちで責任を持った行動をできるようにするための方針だそうだ。そういう意味では、イベントの開催のための発言力は生徒会が大きく有している。

「新たな行事を設けることを、提案してみようと思います」

「もちろんテーマは“共存”。学外からのお客様大歓迎で」

「やってみる価値はありますね」

 学長からの許可を得るのは、樹たちが考えているほど難しくはないようだ。ただ、その分責任は大きくのしかかる。

 では、学長の許可はいいとして、学生の反応はどうするのだろう。

 長以外の五人がぽかんとしているのを見て、一水が苦笑しながら教えてくれた。

「長四人が集まって、全校会議と投票をすることができるという権利があるんです。投票で過半数の賛成を集めると、提案を実行できるんです」

 つまり、学生たちの反応は投票の内容で決まるということか。学生に受け容れられるイベント計画を練ればよいのだ。

「そんなことできたんだ」

 ほのかの素直な感想に、さらがくすりと笑う。

「ええ、私も長を引き継いだときに前代から教えていただきました。長全員が同意のうえで、一つの提案を学長に示さなければなりません」

「結局、学長の承認は必要なわけだが、形式だけ。提案内容と結果については学生に一任だ」

「したがって、どんな提案にするかが核となるんです」

 提案はひとつ。これまで考えてきた内容を、どのようにひとつの提案として言葉にまとめるのか。提案の仕方によっては、過半数の賛成は得られない。

 例えば、「非能力者を学内の行事に招待する」という提案をすれば、反対票が多くなると考えられる。

 しかし提案を変えて、「行事で魔法の能力を非能力者に披露する場を学内に設ける」としたらどうだろう。非能力者を見下す特徴のある学生でも、無所属に魔法を見せつけてやろうと意気込み、賛成票を多く得られる可能性は高くなる。

 頭脳戦、心理戦とも言い換えられる全校総会となりそうだ。勝ちの決まった戦いにしなければならない。

「まずはどんなイベントにするか考えなければなりませんね」

「我が協力するぞ」

「?!」

 いきなり聞こえたのは、火の象徴、サラマンダーの声だった。

 紅葉はにこにこ笑い、一水は呆れ顔、その他は驚きで固まっているなか、碧は平然としている。

「サラマンダー様、そんなに突然お姿を現したら、皆さん驚いてしまいます」

 一水が言った。さらは半分涙目になっている。

 自分が隣にいたら、かわいい悲鳴をあげてくっついてきてくれたかな、なんて樹は考えてしまう。

「それは悪いことをしたのぅ。さっきから話を聞いておったのじゃ。紅葉が呼んでくれての。嬉しいことじゃ!」

 全校会議の話が出てきたあたりから、紅葉はサラマンダーと会話をしていたらしい。どうりで話に加わらずに机の下でこそこそしていたわけだ。一度、熱を感じた気はしたのだが、その気配はすぐに消えてしまったため、気にも留めなかった。初めの気配のときに、紅葉が机の下で手のひらに炎をだし、サラマンダーに呼びかけていたのだ。象徴であるサラマンダーの気配は自然にすぐに溶け込んで、隣にいた一水以外、誰にも気づかれなかった。妖精たちとの親交の深い碧だけは別のようだ。

「それで、サラマンダー様、協力というのはどういうことでしょう?」

 拓真がたずねると、サラマンダーはぼっと音をたてて円形の机の真ん中に移動し、バーンを両手を高々と天に掲げて意気揚々に答えた。

「我らが、しょおをするのじゃ!」

 ばばーん、とサラマンダーは言い放った。

 これで、妖精に話を通す、という三つ目の問題も解決しそうな流れになった。

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