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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十一章
70/163

三、

 ある夕方、火の領の火山で、樹はほのかと碧の護衛をしていた。実際は樹一人で護衛を行い、ほのかは碧の作業を手伝っているという状態だ。

「碧さ~ん、こっちの子たち、元気で蕾もありますよ~」

「わかった~、こっちは日陰だから、まだ眠っているみたい」

「蕾はこれからですか~?」

「うん、来週くらいかな」

 二人は火山の高部に生息するマンドラゴラの世話をしている。

 マンドラゴラと聞いたほのかが目を輝かせて食いついてきた。最近は碧が火の領にいるとき、護衛を名目に作業を手伝っている。いつでもくっついてまわる日がくるのも、そう遠くはなさそうだ。

 マンドラゴラは、一年中とれるらしいが、この時期に、紫色で半透明の星型の花が咲くらしい。てっきり、抜くと人の顔をした人参のような根が「ギエーッ」という叫び声をあげて、それを聞くと体が硬直してしまうあれを想像していたのだが、そうではないらしい。

 人の手足のように先がわかれた形をして、くぼみがあるため顔に見えてしまうが、魔草であるマンドラゴラは、引き抜いても叫ぶことはない。樹と同じことを考えていたほのかはがっかりしていた。だが、根の部分は過剰に体内に取り込むと、本当に石になってしまうとのこと。そんな恐ろしい植物を学内に生息させておいていいのかと碧にたずねると、彼女は真面目にこういった。

「私たちは共存しているんです。人間も動物も、植物も、幻獣も、すべて。特にこの学園内は、実際には存在しないと思われている、認識されていない生き物が実在します。世界のすべてを凝縮した、秩序があるんです。まさに小さな世界そのもの。人間の身勝手な理由で、秩序であるその生態系を崩してよいのでしょうか?」

 碧の話は疑問形で終わった。しかし、碧の話からは「それは許されない」という強い意志が読み取れた。樹も同じ答えに至っていた。人間の好き勝手に生きるものの選定をしていけば、いつかは保たれている形が崩れ、そして最後には人間も滅ぶことになる。

 それに、マンドラゴラは適切に摂取すれば、身体の凝りを和らげる、石になるとは逆の効果を出すそうだ。薬にでも毒にでもなる。それは使い方次第。碧といると、考えさせられることが多い。


 今碧とほのかがせっせと手入れしているのは、根を取るためではなく、花を採るためだ。マンドラゴラに花が咲くということにさえ樹は驚いたが、植物なのだから当たり前か、と思い直した。知識はありすぎても損はしない。最近は二人の会話を聞き、勉強している。

 ほのかも同じようで、碧を質問攻めにしている。なぜ花を採取するのかはなにかしらの効能があるからに間違いないのだが、その効能について、碧はほのかに教えないでいる。

「じゃぁ、花の効果については、ほのかちゃんの勉強の課題ね」

 ということで、ほのかは最近も図書館でよく勉強している。土の宝玉を手に入れる方法を調べながら、花のことも懸命に調べている。弦矢も巻き込んでいるようだ。しかし課題はどちらも難航しているようだ。禁書庫には、まだ守護神の誰も入っていない。

 マンドラゴラの手入れに勤しむ二人の姿を、通りがかる学生たちはなるべく見ないように、でも気になるのは隠さずに過ぎていく。火の長の妹であるほのかがなついていて一緒にいることが多いため、当たりはそこまで強くない。たまに鋭く、ねっとりした視線を感じるが、守護神の誰かと一緒だとそれは和らぐ。守護神を前にしてあからさまに不満をあてつけることはできないのだろう。だからこそ陰でなにか嫌がらせなどされていないか心配になる。


 時計を見ると、会議が始まる三十分前になっていた。

「ほのかちゃん、碧さん、そろそろ時間です。準備を」

 手入れにきりをつけ、身なりを整えてもらうため、早めに声をかける。

 二人が降りてきたら、樹が魔法をかける。体や服の汚れを落とすのだ。

 二人の周りを足元からすぅっと光が包み、頭部までくるくると巻いていく。光が消えると汚れはさっぱり消え、清潔になっている。

 最初、碧は魔法による洗浄を嫌がった。自然による汚れは自分で落としたい、という彼女らしい理由だった。しかし、名目上生徒として、事実上守護神として汚れたままの姿でうろつかれるのは芳しくない。悪い点のほうが碧を快く思っていない学生たちの目につくからだ。

 守護神としての仕事が増えた碧に、仕事をする時間を少しでも長くすることと魔法できれいにして時間を短縮するのとを天秤にかけさせた結果、魔法による清掃を渋々認めてくれた。作業着にバンダナという身なりは変わらないが、汚れているのと清潔感があるのとでは印象がかなり違う。碧のイメージアップのためには様々な点に気を配る必要があるのだ。

「さて、行きますか」

 なるべく明るい声を出すことを意識して、声をかける。

「はーい」

 ほのかはいつもどおりの返事をくれた。

 一方碧は、神妙に頷いただけだった。

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