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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十一章
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二、

 朝、それぞれの領の掲示板の周りには、多くの人だかりができていた。

 掲示板には、一枚の告知が新しく出されていた。


「告知

 淵園 碧

 上記の者を、編入生として、榊大魔法学園の生徒として認める。

 学長 榊 大地

 淵園 碧 属性:無」


 その下にはいくつもの特例が箇条書きにされている。

 ざわつきながら掲示板にまとわりつく学生たちを、守護神は遠くから眺めている。

 これは、あまりよくない兆しだ。

 樹は、昨日の儀式を思い出す。


 昨日、一部の人だけを集めて執り行われた領分けの儀式。大広間に守護神メンバーが到着したときにはすでに準備は整っており、すぐに儀式は始まった。

 魔法陣の中心に立つ碧は、とても神秘的で、どこか儚げで、なぜか哀しそうだった。

 そんな表情が、彼女をさらに幻想的に魅せた。

 学長から儀式の方法については説明を受けていたのだろう、碧は何も言わずに学長の合図に従った。

 儀式の際、魔法陣の中央に立ち魔力を込める、というのは皆同じである。しかしそのときの態勢やポーズは人によって異なる。自然体で立ったままの人もいれば、祈るように手を合わせる人もいる。両手を広げてみたり、音を立てて片足を踏みしめてみたり。座って禅を組む人も見たことがある。それぞれ魔力の込めやすい態勢があるのだ。

 碧の場合、樹が初めて見る型だった。

 手のひらを下に向けたまま、両手を前で上げる。何もない空間に対し、ヒーリングをしているようだった。そもそも魔力があるかわからない碧にとって、魔力を込める、というのはヒーリングと同じだったのかもしれない。


 すると、ぽう、ぽう、と魔法陣が光り出した。

 樹は目を見張った。

 普通なら、光が対象者を中心に流れるように魔法陣の外側へと広がり、最終的に適応する宝石が光るのだ。

 しかし碧が力を込めたとき、魔法陣の線の全体から、球のような白い光が湧きだすようにたくさん浮き出てきたのだ。

 その白い光には見覚えがあった。あの、瘴気を祓ったあとに両手に浮いていた光だ。

 その白い光は魔法陣の全体を包み込み、四つの石にも到達した。


 どれが輝くのだろう。


 誰もが息を飲んだ。

 しかし、期待に反し、白い光はそのまま、すっと消えてなくなった。

 どの宝石も光らなかった。

 もういい、と学長が声をかけると、碧は閉じていた目を開いた。きっとその視界には、眉をひそめる樹たちの顔が入っていただろう。

「所属、無し」

 学長の宣言で、碧が学園の生徒として、本物の“無所属”となった。


 そして今、そのことについて全学生に知れ渡っている。その反応は様々だが、悪い反応のほうが目立つ。

 なぜ非能力者として昨日まで学園に雇われていた身の者が有能力者が通う学園の生徒として迎えられているのか。

 碧が守護神の一員であることは周知されている。しかし、憧れの的である守護神に非能力者がいるというのは、どうも受け容れにくいのが実情だ。

 実際は魔法陣を光らせたため、非能力者でなく有能力者であるのは間違いないのだが、儀式を見ていたのは一部の人間だけのため、学生たちは非能力者であるという認識は変えておらず、さらに“無所属”であることから反発の気持ちは膨らんでいる。

 ただ、碧を歓迎してくれている学生もいる。瘴気に当てられながらも意識を保ち、“影”の瘴気を退けたのをうっすらと見ていた学生。しかし片手で数え切れるほどのほんの一握りだ。あとは療養室の常連となっていた学生だ。

 しかし歓迎の気持ちを持ってくれる学生は少数派だ。不満を抱く学生がほとんどを占めている。まだ表だって反対を示す者はいないが、これから増えてくるだろう。

 それは無所属でありながら守護神の一員であることだけが理由ではない。碧には編入生として多くの特例が設けられているのだ。

 学長が言っていたとおり、生徒になっても今までの学園での行動は変わらない。講義を受けなくていいということだ。だが、希望する講義には自由に参加できる。

 図書館の禁書庫の利用許可。

 自宅からの通学許可。時間の縛りはなし。

 他にも諸々の特例がある。

 学生には通常認められていない内容が碧を特別扱いしていると、嫉妬、不満を募らせるのに輪をかけている。有能力者である自分たちには認められないことが、非能力者で無所属の人間に認められるなんておかしい、と。


 特に碧に“護衛をつける”という特例に不満をおぼえる者が多いようだ。

 “影”が姿を現した事件の後、ガーディアンズは守護神として崇拝されるようになってしまった。こっそりと“影”対策を行っていたのが公になり、実際に“影”を退けたためだ。それは碧の存在あってこそなのだが、それを知る者はい無に等しいうえ、学長には事実を伝えるのは禁止されてしまった。事実を伝えたとしても、信じてもらえたとはこの状況では考えにくい。

 とにかく、学生たちは守護神がいるから大丈夫、と“影”の件については守護神に委ねてしまったのだ。自分たちは守ってもらう側だという意識が芽生え、根付いてしまっている。それなのに護る側の守護神の一員、碧が護衛されるということに、納得できないのだ。

 碧の編入により、学生が二つの派閥に分かれてしまった。といっても歓迎派はごく少数で、反発派が大多数を占める。

 今は団結して“影”に立ち向かう必要があるのに、悪い状況になってしまった。今の状況そのものも、人間の平衡を乱している。


「厄介なことになったな……」

 一水(かずみ)がため息をつく。

 そのため息は学生のざわめきにかき消され、掲示板に群がる学生たちに届くことはなかった。

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