七、
「君を、我が学園の生徒とする。異議は認めない」
「……はい」
療養中の碧がいる特別室で、学長はなんの前置きもなく宣言した。
碧が意識を取り戻した次の日、彼女は朝目覚めたが面会は禁止された。さらに二日後、学長と守護神で許可を得て、面会となったのだ。
異議は認めないのだから、碧は了承するほかない。碧の顔からはどんな感情も読み取れない。俯き、暗い声ではあるが、強引な学長の請求を受け容れている。まるで、こうなることを予想していたかのようだ。
「君は編入生として学園に受け入れることにする。肩書が雇用者から生徒となるだけで、務めは今まで同様だ。禁書庫の出入りも許可する。我が学園は全寮制だが、君は自宅からの通学を認める。暮らしに変化はないだろう。いいね?」
碧は小さく頷いた。
「では、さっそく明日、儀式を受けてもらう。これは規則だ。生徒として、従ってもらう」
碧は視線を下に向けたまま、反応しない。
「突然のことだが許してくれ。学園を護ってくれたことには感謝する。大事にしてくれ。私は先にお暇するとしよう」
学長はそのまま、守護神を残して特別室を去って行った。嵐のようだった。
碧と守護神だけになった室内に、沈黙が流れる。
それを破ったのは、さっきまで黙りこくっていた碧だった。
「みなさん、お身体に異常はありませんか?」
光のなかった瞳に、心配の色が宿る。今一番体調が悪いのは碧だというのに、人のことを心配している。
守護神は、それぞれ元気であることを言葉や態度で伝える。碧は安心したようで、表情をゆるませ「よかった」と呟くように言った。
しかしまだ、その目線は斜め下を向いてしまい、定まらない。何を考えているのか読み取れない。また、沈黙がおとずれてしまう。
「何も、聞かないんですか?」
困ったように小さく笑いながら、碧が聞いてくる。相変わらず下を向いたままで。
「気になること、たくさんあるのではありませんか?」
聞かれたら話す、という意味でも受け取れる。
たしかに聞きたいほどはたくさんあるけれど、無理強いしたくない。誘拐事件後の面会のときのように、辛い顔を見たくない。
一水がベッドに近づく。
「碧、君が話そうと思えたときに、聞かせてくれればいい」
一水はかがんで、碧と目線を同じくする。碧は目を合わせない。
「俺たちは、君のすべてを受け容れる準備ができている。あとは碧のタイミングだけだ。たしかに聞きたいことはたくさんある。でも、待つ。碧が自分から話してくれるのを」
後ろで守護神メンバーが頷いている。
「なぜですか?」
なぜ、の意味はよくわからなかったが、一水より先に、樹が口を開いていた。
「仲間だから。信じているから。碧さんはこの学園の生徒にもなって、一緒にいる時間も増える。きっと話してもらえるときがくるって、信じられるから」
答えになったのかはわからない。いつの間にか、口が勝手に動いていた。
一水がこちらを振り向いて、にっとした。
少なくとも一水にとって、その答えは間違っていなかったようだ。
一水はもう一度碧に目を向ける。
「ということだから。そろそろ退散するよ。お大事に」
一水が立ちあがる。碧はぎゅっと布団を握ったまま、こちらを見ない。
それぞれが「お大事に」と声をかけて部屋を出ていこうとする。最初にフジが扉に手をかけたときだった。
「……んです」
小さな声が聞こえた。
樹たちはベッドのほうに振り返る。
碧が顔を上げて、こちらを見ていた。
「私、魔法が……使える、みたいなんです」
その瞳は少し揺れていたが、話そう、という決意が込められていた。




