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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十章
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七、

「君を、我が学園の生徒とする。異議は認めない」

「……はい」

 療養中の碧がいる特別室で、学長はなんの前置きもなく宣言した。


 碧が意識を取り戻した次の日、彼女は朝目覚めたが面会は禁止された。さらに二日後、学長と守護神で許可を得て、面会となったのだ。

 異議は認めないのだから、碧は了承するほかない。碧の顔からはどんな感情も読み取れない。俯き、暗い声ではあるが、強引な学長の請求を受け容れている。まるで、こうなることを予想していたかのようだ。

「君は編入生として学園に受け入れることにする。肩書が雇用者から生徒となるだけで、務めは今まで同様だ。禁書庫の出入りも許可する。我が学園は全寮制だが、君は自宅からの通学を認める。暮らしに変化はないだろう。いいね?」

 碧は小さく頷いた。

「では、さっそく明日、儀式を受けてもらう。これは規則だ。生徒として、従ってもらう」

 碧は視線を下に向けたまま、反応しない。

「突然のことだが許してくれ。学園を護ってくれたことには感謝する。大事にしてくれ。私は先にお暇するとしよう」

 学長はそのまま、守護神を残して特別室を去って行った。嵐のようだった。


 碧と守護神だけになった室内に、沈黙が流れる。

 それを破ったのは、さっきまで黙りこくっていた碧だった。

「みなさん、お身体に異常はありませんか?」

 光のなかった瞳に、心配の色が宿る。今一番体調が悪いのは碧だというのに、人のことを心配している。

 守護神は、それぞれ元気であることを言葉や態度で伝える。碧は安心したようで、表情をゆるませ「よかった」と呟くように言った。

 しかしまだ、その目線は斜め下を向いてしまい、定まらない。何を考えているのか読み取れない。また、沈黙がおとずれてしまう。

「何も、聞かないんですか?」

 困ったように小さく笑いながら、碧が聞いてくる。相変わらず下を向いたままで。

「気になること、たくさんあるのではありませんか?」

 聞かれたら話す、という意味でも受け取れる。

 たしかに聞きたいほどはたくさんあるけれど、無理強いしたくない。誘拐事件後の面会のときのように、辛い顔を見たくない。

 一水(かずみ)がベッドに近づく。

「碧、君が話そうと思えたときに、聞かせてくれればいい」

 一水はかがんで、碧と目線を同じくする。碧は目を合わせない。

「俺たちは、君のすべてを受け容れる準備ができている。あとは碧のタイミングだけだ。たしかに聞きたいことはたくさんある。でも、待つ。碧が自分から話してくれるのを」

 後ろで守護神メンバーが頷いている。

「なぜですか?」

 なぜ、の意味はよくわからなかったが、一水より先に、樹が口を開いていた。

「仲間だから。信じているから。碧さんはこの学園の生徒にもなって、一緒にいる時間も増える。きっと話してもらえるときがくるって、信じられるから」

 答えになったのかはわからない。いつの間にか、口が勝手に動いていた。

 一水がこちらを振り向いて、にっとした。

 少なくとも一水にとって、その答えは間違っていなかったようだ。

 一水はもう一度碧に目を向ける。

「ということだから。そろそろ退散するよ。お大事に」

 一水が立ちあがる。碧はぎゅっと布団を握ったまま、こちらを見ない。


 それぞれが「お大事に」と声をかけて部屋を出ていこうとする。最初にフジが扉に手をかけたときだった。

「……んです」

 小さな声が聞こえた。

 樹たちはベッドのほうに振り返る。

 碧が顔を上げて、こちらを見ていた。

「私、魔法が……使える、みたいなんです」

 その瞳は少し揺れていたが、話そう、という決意が込められていた。

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