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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十章
64/163

六、

 朝日が差し込む時間。

 春が近づいているとはいえ、まだ冬。明るくなる時間は早くなりつつあるが、まだ遅く、日の出の時間ではほの暗く、朝日といえる陽射しになるには少し時間がかかる。


 樹は昨夜から明朝にかけて、碧が眠る特別室の中で警備の役目を担っていた。八時になれば、交替の者がやってくる。

 太陽は昇りきっていないが、窓のカーテンを開ける。少しでも早く、碧に目を覚ましてほしい。光を浴びれば、起きてくれるのではないか。なんの証拠もない考えではあるが、実行に移す。


 しゃー、とカーテンを開けると、室内が朝焼けの色に染まる。彼女のベッドを囲むカーテンも、窓側だけ開く。

 そして、樹はとても驚いた。碧がうすく目を開けていたのだ。

「碧さん?! 意識が戻って……?!」

「あ……樹さん」

 瞳が樹に向けられる。その声に力はない。

「皆さんは、ご無事ですか?」

 朝焼けの色に染まっているのに、碧の顔は蒼白く見える。

「大丈夫です。皆無事、元気です。碧さんが元気になるのを心待ちにしていますよ」

 いろいろと忙しくはあるが、無事で元気なこと、碧が元気になるのを待っていることは嘘ではない。

「そう……よかった」

 碧はそういうと、すぅ、と眠ってしまった。安心したように、無防備に。

「少しは自分の心配もしてくださいよ」

 呟きながら、そっと碧の髪を梳く。

 外の警備隊員に碧が一度目を覚ましたことを伝えた。風の領生のため、すぐにその情報は守護神にまわるだろう。樹は交替の時間まで、碧を見つめ続けていた。


 交代後、仮眠をとって最低限の講義を受けると、すぐに生徒会室へと向かう。碧が意識を取り戻したため、彼女の今後の対応を話し合うための会議があるのだ。

 全員が集まり、すぐに本題に入ろうとしたところ、拓真が先に口を開いた。

「本題の前に、皆に相談がある」

 拓真がこのように言うのは珍しい。驚きながらも一同は拓真の話を聞く体制をとる。

「俺も、あるのならば土の宝玉がほしい。今の俺の力だけでは、土の領は守れない」

 消極的な発言だ。頼れる先輩的な印象がある拓真が弱音を吐くのを初めて聞いた。

 それにも驚いたが、拓真が一人称を“自分”ではなく“俺”と言ったことにも樹は驚きを感じていた。

「土の領を護るために、事件が起こるよりも先に」

 “影”は、次は土の領だと予告した。他の長三人が持つ強大な力を秘める宝玉を欲するのは当然だ。それにより、今までの事件をどうにか乗り越えてきたのだ。

「土の宝玉を持つべき者に値する人間になれるよう、努力する。だが、どうすれば手に入るのかわからない」

 今まではそれぞれの事件の解決策として、四大元素の象徴や王、女王から授けられた。しかし、事件が起きた後では遅いのだ。手は先に打っておきたい。

「きっと土の宝玉を管理するのは、土の王または女王、土の象徴ですね。会うことができれば可能性はあると思います」

「そうだ、拓真なら絶対に認めてもらえる」

紅葉(くれは)でさえ、授かったのですから」

 紅葉は一水(かずみ)をぎろりと睨むが、一水はそれを受け流す。場を和らげるための発言だったからだ。

「図書館の禁書庫で調べてみたらいかがでしょうか? 召喚とか、秘宝とか、土との会話の仕方とか、もしかしたら書かれた書籍があるかもしれません」

 禁書庫は、認められた一部の学生しか入ることができない。闇の魔術の本もあると言われる。守護神は噴火事件の後、禁書庫に入り、利用することが許可された。

「あたしも手伝います! 最近図書館にはよく行くので、どんな本がどこにあるかとかもわかりますし、いつでもお声かけください!」

「ぼくもです!」

 ほのかは“影”と対峙して碧が倒れた後、代わりになれるようにと薬草やヒーリングについて調べるため、足しげく図書館に通っている。弦矢はもともと勉強家のため、図書館に出入りすることは多い。

 さらの意見は適格だ。まずは調べよう、という方向に話が進んでいる。知識は少しでも多い方がいい。

「ありがとう。二人とも、後でつきあってくれ」

「水の女王様にも情報を聞いてみましょう」

 一水の言葉に、私も、とさらと紅葉が頷く。

「皆、ありがとう」

 そう言って微笑む拓真を見て、彼が柔らかくなったような雰囲気を樹は感じた。心境の変化があったのだろうか。フジは本音を伝えてくれたことに嬉しそうだ。


「では、本題に――碧さんの件に入ろう」

 一同の空気がぴりっと緊張する。

 何を聞くべきか。

 何を聞いていいのか。

 どこまで話していいのか。

 誘拐事件後の面会のこともあり、碧への対応はとても繊細で難しい案件だ。現状を伝えるのは簡単だが、碧のあの力について聞いたり、今後学内でどうしてもらうかについて考えたりするのはそう簡単ではない。

 樹が――樹だけでなく、誰もが口を開きかけた時だった。

「悩む必要はない」

 よく響く、深い声が生徒会室に広がる。

「淵園碧を、我が学園の生徒とする」

 扉の前に立っていたのは、学長だった。

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