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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十章
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三、

 “影”が初めて姿を現した後は、大変だった。

 大変、その一言に尽きる。


 その一、学生に広まる情報について。

 “影”の存在とその力を近くにいた学生のほとんどが目にしていた。瘴気に耐えられず意識を失った学生もいたなかで、どうにか意識を保ち、話を聞いていた学生もいたのだ。

 瘴気は学園全体に広がっており、“影”そのものの姿は見えていなくても、瘴気を介してか会話だけは離れた場所にいた学生にも聞こえていた。

 碧が浄化し、黒い靄が消えた後は、学園内の人のほとんどが正気を取り戻していた。

 気が付くと、“影”がいた周辺にガーディアンズが集合していたため、ガーディアンズが“影”を追い払ったのだという話が一気に広がってしまった。

 実際に“影”を止めたのは碧なのだが、靄のせいで見えていなかったのか、また瘴気が消えた後は碧が倒れていたこともあり、それを知る者はいなかった。碧の安全確保ため、ガーディアンズが“影”を止めたという学生たちの話を正すことはしていない。ただ、碧を含め九人のメンバーで“影”への対策チームを組んでいたことは公表された。たくさんの噂が流れ、脚色されている部分も多く、今後どこまで学生に広まった話を正し、真実を公表していくのかはまだ決まっていない。


 その二、学長他、学生への対応。

 学長にはすべてを話した。碧と関わりの大きい薬草学担当の二人の先生にもすべてを伝えてある。笹崎先生はただただ驚き、困惑していたが、大蔵先生は何か考え込んでいた。

 一番気になるのは、学長。とても難しい顔をして、話を聞いていた。その感情は、学園に危機が迫っていることよりも、碧の存在とその力に対して向けられていると感じた。他の先生方と学生には、すでに学生の間で広まっている情報をそのままにしている。

 ここは学校とはいえ、大人といっても問題ない年齢である学生が学園の柱であり、先生方が口を出してくることはほとんどない。今後どうしていくかは、ガーディアンズで決定し、学長の許可を得て実行することとなった。ただし、学長が碧の周辺の警備を徹底するようにと言ったため、碧の周りではその言葉どおり、厳重な警備がなされている。


 その三、学外の非能力者への対応。

 学園の敷地の境界には、魔法が外へ干渉しないための結界魔法がかけられている。しかし、いくら魔法を抑えることができても、視界を遮ることはできない。空間を分断しているわけではないため、風や熱などは伝わる。

 今回の場合、火山が噴火して噴煙が出て、溶岩が流れ出たのは外からも見えていた。魔法で抑えきれなかった灰も学外へと運ばれている。

 これが魔法大学園の中でなければ自然災害として認められていただろうが、そうはいかなかった。大きな噴火とそれに伴う音、煙、灰。さらに火柱まで上がり、非能力者は大きな恐怖を感じたのだ。それは、魔法により起こされたものだと理解されていた。恐怖は、ただの噴火に対するものではなく、魔法に対する恐怖。魔法大学校の中で起きていたからだ。


 そもそも非能力者は有能力者を怖がる傾向にある。あの噴火が魔法により起こされたものだと思われるのも、無理はない。それだけ唐突に起こり、いきなり収まったのだ。学園にはたくさんのクレームが今も届いている。

 学園付近――といってもさほど近くないが――にも灰による被害は多少あり、怖い思いをさせてしまったのも事実だ。学長たちは謝罪とともに、あの噴火が魔法によるものではないことを伝えて周った。しかし、あの噴火は非能力者の有能力者に対する偏見を強めてしまった。


「はぁ……」

 生徒会室では、ほのかが大きくため息をついている。

「ほのかちゃん……幸せとんでいっちゃいますよ……」

 そういう弦矢の顔にも疲れが浮かんでいる。

「あぁ、私ら神になっちゃったし、仕事はたんまりあるな……」

「はぁ……」

 生徒会室にいる全員の溜息が重なる。


 “影”を退けたのが長四人と指名補佐四人、そして碧が助言役をしていたという形で学生の噂は広まり、護衛という意味でガーディアンズと仮名をつけていたこのチームは、いつしか学生の間で“守護神”と呼ばれ、崇められるようになってしまったのだ。

 守護神がいれば大丈夫、という考えも生まれてきてしまっている。これは自己防衛に隙をつくる。皆で団結して“影”の企みを止めようという意識を持ってほしいところだ。

「本当に悪いことをした。自分の軽率な行動で」

 拓真はあの地震のことをまだ気にしている。火の妖精たちの動揺を招いた結果、あの噴火につながったからだ。

「あれは拓真のせいではありませんよ。“影”が都合よくつけこむために利用されただけです」

 一水(かずみ)がフォローする。そして話を変えた。

「それよりも、“影”の企むとおりに物事が進んでしまっているのが心配です。学長の反応も気になります」

「そうですね。人間と人間ならざるものとの不和を起こし、秩序を乱すのが目的だと言ってましたから、もうそれはとっくに始まっていますね」

 さらも深刻そうに言う。


 まず、非能力者との間に壁が出来てしまった。有能力者に対する恐怖心がその引き金になっている。有能力者のなかには、非能力者を見下す考えを持つ者もおり、このままでは同じ人間としての間の壁が厚くなってしまう。

 また、非能力者に事情を説明する際、妖精や精霊といった人間ならざるものが引き起こしていたことを一部の人漏らしてしまったことで、非能力者が人間ならざるものに対する印象を悪くしてしまった。

 そもそも空想上の生き物としか思っていたかった、存在すら認識していなかったものがいるだなんて、信じられないだろう。しかし、あの噴火があったことで信憑性は増した。そして悪い方向へと印象を傾けてしまった。


 平衡の崩壊、秩序の乱れはすでに始まっている。

 今後どういった策をとればいいのか、まったくわからない。唯一の鍵である碧も、意識が戻らない。

「早く目が覚めないかなぁ……」

 ほのかの口からこぼれおちた言葉は、他の人と同じ思いだった。

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