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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第九章
56/163

六、

「ら……ライオン?」

 その姿を見た紅葉(くれは)は動きを止める。碧がなにかに気付き、紅葉を叩いて静かに言った。

「紅葉さん、こちらのおかたは、“火の女王”さまです」

 ガーディアンズのメンバーはもちろん、周りに居合わせた生徒は、炎をまとったライオンの突然の登場に唖然としている。

 急いでさらと弦矢がガーディアンズ以外の視線から一同を隠すため、風と光の結界を張った。

「そなたは私を知っておるのか?」

 “火の女王”は、碧のもとへ歩み寄る。その足跡は燃えている。

「はい。存じ上げております」

 碧は腰を低くして答えると、一歩下がる。

「そうか。その者の言うとおり、私は“火の女王”、エトナ」

 火の女王が名乗ったのは紅葉に対してだった。紅葉は固まったままで、まだ状況を飲みこめずにいる。

「そなたらを助けに来た」

 その言葉に、全員が驚く。

 “火の女王”が自ら人間を助けに来てくれるなんて思いもしなかった。

「火の女王が……? 助け、に……?」

 火の女王の体は大きく、一見は雄ライオンだ。だがよく見ると、その顔と体は雌で、燃え盛かる炎がたてがみが雄のように見せているのだ。

 “助けに来た”ということをやっと理解して、紅葉は地面に跪く。

「大変失礼いたしました。私は“火の長”、三上紅葉と申します」

「知っておる。固い挨拶は時間の無駄だ。助けにきたとは言ったが、本音を言えば、助けてもらいに来たのだ」

「それは……?」

 どういうことか、と問う視線を受け止め、女王は話し出す。

「この噴火は、“火の象徴”、サラマンダーが起こしているのだ」

「え?!」

 サラマンダーは、“火の象徴”である。これまで出会った“水”のウンディーネも同じ存在だ。“火”に属し生きるものを司る“火の女王”より、格が高いともいえる。そのサラマンダーが、なぜこんなことを起こしているのだろうか。


 前に拓真が起こした地震により、火山は小さな噴火を起こしていた。あの地震で、火山の地下深くにあるマグマを棲家としていた妖精たちはかなりの衝撃を受けたらしい。自然に起きる噴火ならまだしも、作られた地震により爆発しそうになるマグマを懸命に抑え、その後も噴煙が出る程度におさめてくれていたのが、そこに棲む火の妖精たちだった。

 地震が原因で火山活動が活発化していたが、地上に住む者にへの被害が最小限で済むよう、働いていてくれたのだ。

 しかし、そんなことを地上に住む者――人間が知る由もない。

 もちろんお礼の言葉がかけられることもなく、魔法、つまり人間のせいで起きた地震による噴火を抑えているのに、と妖精たちのなかで小さな不満が生まれてきた。

 自分たちは人間の力になっているのに、地上の人間ときたら、それを知らずにのんきに暮らしているのだ。

 そんなとき、地上からある噂が届いた。あの地震は、人間が火の妖精たちを弱らせ、この火山を死火山にするために故意に起こしたものだ、と。

 死火山になるということは、そこで生きる妖精たちからすると棲家を奪われるということ。人間の勝手で棲家を乱され、奪われそうになったのに、その人間のために無意味に働いていたと知った妖精たちは、そんなことはさせないと、自分たちの力を示すために盛んに行動を始めたのである。

 あまりに激しく活動する火の妖精たちを不思議に思ったサラマンダーは、事情を聴きに、この学園、噴煙の立ち上るこの火口へ訪れた。火の妖精たちは、我らが象徴であるサラマンダーに自分たちの状況を訴えた。そして、人間の身勝手さに怒り狂ったサラマンダーは噴火を起こし、その怒りに同調して妖精たちがマグマを活発に動かしている、ということだ。


「私もその場にいたんだ。地震は人間が故意に起こしたものではないとヴィクトールから聞いていた。“悪”に属する私も“火の女王”としてサラマンダーを諭したのだが、サラマンダーは聞く耳を持ってくれなかった」

 結果、この惨状である。

「私にできることは」

 助けてほしい。

 その言葉は紅葉に向けて発せられていた。紅葉は毅然とした口調で問いかける。

 女王は首をぐるんとまわす。目の前に、ルビーが埋め込まれた棒が現れた。

「これは火の宝玉。そなたがこれにふさわしい者、猛く気高き者であれば、力を貸してくれるだろう。サラマンダーは火口にいる。火の象徴であるべきものとしての自覚を思い出させてやってほしい」

 エトナの目とルビーが燃えるように光る。

「お力添え、ありがたく存じます。この宝玉の力を借りて、必ずやサラマンダー様を止めて見せます」

「よろしく頼むぞ」

 紅葉は、ルビーが輝く棒をうやうやしく受け取った。

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