五、
朝、カーテンを開けると、青い空が見えている。ずっとどんよりした曇り空が続いていたため、久々の晴れである。
陽が出ているだけで、気温は変わらずとも暖かく感じる。お天道さまの力は偉大だ。
樹は今日のスケジュールを確認する。警備隊員としての務めは今日は休み。集会もなく、いくつかの講義を受講するだけである。
ゆったりと過ごせそうだな、と思いながら思い切り伸びをして、樹は朝食をとりに食堂へ向かった。
午前中の講義を終え、昼休み。樹は風の領へ向かっていた。もちろん、さらに会いに行くためだ。特に約束はしていない。たまたま通りかかった体を装って会いに行ったら、さらは喜んでくれるだろうか。もし気付いてもらえなくても、暖かい陽気のなかの彼女を見るだけで、幸せになれる。考えるだけで既に幸せなのだから。
どこにいるのかは問題ない。やわらかく優しくも清らかな風へ向かえば、彼女のもとへ辿りつくのだ。
さらはすぐに見つかった。風の領へ向かう廊下を歩いていたからだ。もしかして、同じことを考えていた? と思うと、はにかんでしまう。
目が合った。
近寄ろうと足を速める。声をかけようとした瞬間。
ばっ
二人そろって同じ方向に顔を向ける。
「今、なにか……」
「はい」
二人の表情が険しくなる。顔を向けたのは火の領の方向。
なにか、というのは、うなるような、沸騰するような、負に満ちた気配。
すぐに火山へ向かって走り出す。直後、どおん! という大きな音が響き渡った。
「火の領、火山南西の中腹の火口で噴火発生! 支援と非難をお願いします!」
「さらさま、火山から瘴気と思われる黒い気配が吹き出しました!」
「火の妖精が、怒り狂って暴走しています!」
「火山が噴火! マグマが一気に流れ込んでいます!」
他にもたくさんの情報が一気に流れ込む。弦矢と碧のもの以外は、誰からの報告なのかまったくわからない。
「とにかく急いで現場へ向かいましょう!」
「はい!」
現場はもくもくと立ち上るどす黒い煙から特定できる。火柱も見えている。
廊下から外へ出ると、学生はマニュアルに従って動いてはいるものの、集まりすぎて移動するには困難な状況に陥っていた。
「飛びます!」
そう聞こえたかと思うと、樹の身体が宙に浮いた。空中浮遊の魔法が樹にも作動しているのだ。技術の高さと魔力の強さに驚愕する。が、今は驚いている場合ではないと思い直す。さらの魔法に身を任せ、空中を移動して現場へ向かう。
火山は、報告どおり山の中腹付近から大量の煙が出ていた。マグマがどろどろと下へ流れ出て、山の下部が煮えたぎるマグマに呑み込まれていく。
火の領では土の領生が壁を作り、また物体強化をしている。火の領生も必死にマグマの温度を下げ、その威力を抑えようとしている。指示していたとおりに学生たちが動いているのがわかる。しかし、これがいつまでもつか。それだけ噴火とマグマの勢いが強いのだ。
さらと樹はガーディアンズを見つけて地へ降り立つ。碧以外の全員が集まっていた。
「みなさんお怪我はありませんか?!」
紅葉のもとに駆け寄る。
「さら! 樹! 今はどうにかやってるが、どこまでもちこたえられるかわからない。壁を越えたり崩壊させたりしたら大参事だ」
「水の魔法は全く効力をなしません。一瞬で蒸気になってしまって視界を遮るので、冷却の方面の援護をしています」
紅葉と樹からは焦りが感じられる。このままでは負傷者が大勢出てしまう。学園への被害も大きい。
「どうしたら……」
「紅葉さん!」
碧が紅葉を呼ぶ。全速力で走ってきたのだろう、はぁはぁと肩で息をしている。
「碧!」
紅葉がすぐに応える。
「そういえば、火の妖精が怒り狂ってると言ってたな! それはどういうことだ?!」
「そのままの意味です! 火の妖精さんや精霊さんたちが、怒って暴走した結果がこの噴火です! マグマをよく見てください! 紅葉さんにも見えませんか?!」
ぼこっぼこっ、と沸騰するように音をたてるマグマ。よく見ると、人の形をした小さな炎がたくさんある。そのすべてが、怒りの表情を浮かべて。
「妖精さんたちの怒りが、そのまま火に影響しています! 妖精さんたちの怒りを鎮めなければ、この噴火は収まりません!」
「なぜ?! なぜ怒っているんだ?!」
「……わかりません」
「そんな……」
噴火の押さえ方がわかったのに、止められない。どうすることもできないなんて。
紅葉は泣きそうになるのをこらえる。
「私が教えてやろう」
ぼっ、という大きな音とともに炎が現れ、姿を見せたのは、身体から炎を燃え立たせる獅子だった。




