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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第九章
51/163

一、

 新たに始まる一年を祝福するかのように、太陽が泉を暁の色に染めていく。

 ほんのり波打つ水面に光が反射し、輝いている。静かな静かな夜明け。


 夜は明けたばかり。まだ空の高いところは蒼く暗く、ちらほら星も見える。

 そこへ顔を出した朝日が地上に朱色や黄色を混ぜ込んで、空と大地には美しい自然のグラデーションができあがる。その光景からは、境目というものを見つけることはできない。もともとそんなものはないのだと、諭されているかのように思った。


 樹たちは、学園内で新年を迎えた。

 ここは水の領にある泉。初日の出とともに、新しい一年を無事迎えられたことを感謝し、今後のご加護をいただけるよう祈りを捧ぐ。

 学園で新年を迎える学生たちは、泉の中心部にたたずむ榊のご神木に初詣にやってくる。ご神木が神社のお社の役目を果たしているのだ。ご神木は現に朝日と泉から反射した光を受けて、神々しい。


 お参りを終えるタイミングを見計らい、樹は隣にいる女性に声をかける。

「あけましておめでとうございます、さらさん」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 この人と新年を迎えられたのだ。今年は昨年よりずっと良い一年になるに決まっている。

 ちょっと邪魔者はいるけれど。

「あけましておめでとう! 今年も頼むぞ」

「あけましておめでとうございます! 今年もお願いします!」

「あけましておめでとう」

 紅葉(くれは)、ほのか、一水(かずみ)が新年の挨拶を交わす。もちろんこちらからも挨拶は忘れない。


 この三人も、学内で新年を迎えた。冬休みに実家に帰らない樹とさらが泉で初詣をするのは知れていたため、二人の関係のカモフラージュとして三人が残ってくれた。樹以外の人たちは、昼ごろには実家に帰る予定だ。ガーディアンズのメンバーで実家に帰らないのは、樹と弦矢だけ。

 女性三人はさっそく歓談を始め、女性たちの世界に入り込んでしまった。樹と一水は男二人で取り残されてしまう。

 樹はじっと、一方向を見つめる。

「きれいだな」

「本当に」

「さらだけでなく、三人ともな」

「……もちろんです」

 樹の視界に入っているのがさらだけなのを見透かして、一水が面白そうにからかってくる。

 たしかに見つめていたのはさらだったが、三人ともきれいだと思うのは本当だ。

 女性三人は振袖を着ていた。さらは淡い黄色の布地に細かい花びらと霞の模様、紅葉は真紅の布地に大輪の花がいくつか咲いている。ほのかは桜色に小さな花模様がたくさん入った現代風の振袖。普段は下している髪をきれいに上げて、それぞれ飾りもついている。

 もともと人目をひく三人が振袖姿で笑い合っていれば、通りがかる学生たちの目を惹きつけてしまうのは無理もない。このままの姿でさらが実家に帰ると聞き、変な虫がついたらと心配していたが、迎えが来ると聞いて安心した。

「着付けは誰がやったんですかね」

「碧だろ。ほのかが頼み込んだってところじゃないか。ほら、噂をすれば」

 一水があごでしゃくった方向には、碧の姿があった。彼女は冬着にコートを着込んでいて、振袖ではない。

「あけましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました」

「おめでとう。世話になったのはこちらのほうだ。今年もよろしく」

「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「こちらこそ、お願いします」

 挨拶が終わり、この後はどうするのか一水がたずねると、碧は家に帰るという。

 新年を迎えるための準備で忙しそうだったうえ、女性たちの着付けに大晦日の夜更けからかり出されたのだ。正月はゆっくり過ごすのだろう。樹もそれがいいと思った。

 碧は女性陣に挨拶に向かう。艶やかな女性陣に目をやりながら、一水が樹に聞いた。

「ところで樹、さらのあの髪飾りはおまえからのクリスマスプレゼントか?」

「……」

 樹は眉間に皺を寄せて一水と反対方向へ目を向ける。

「いい細工だな。あの石にはお前の魔力が込められているな。碧に頼んだのか?」

 黙っていたら質問攻めは終わらないと判断する。さすが水の長、魔力を鋭く感じ取っている。観念して答えることにした。

「そうですよ。俺からのプレゼントです。碧さんに頼んで加工してもらいました」

 プレゼントしたのはバレッタという髪飾り。式典でさらが髪に挿していた雲間草のデザインで、花の部分はピンクゴールド、葉を一枚取り入れてもらいシルバーの細工になっている。

 葉の上には朝露を模して一粒の小さな水晶をつけてもらった。淡い水色で、光の加減で白や透明にも見える、樹とさらの色。


 水晶など、パワーストーンと呼ばれる石は、お守りとして学外からたまに販売される。そこで手に入れたものだ。

 パワーストーンには魔力を込めることができる。樹は、さらが自分らしく美しく輝けるよう祈り、力を注いだ。髪飾りにしたいと思っていたが、どうすればいいかわからず、ふと一水の宝玉のことを思い出して碧に相談したところ、快く引き受けてくれたのだ。

 こんなかんじ、と大雑把なイメージを形にしてもらった完成品を見たときは、心底驚いた。バレッタというアクセサリーすら知らなかったのもあるが、イメージ以上の出来で、さらに似合うと確信できるものだったからだ。

「それで、お前からはさらの力がほのかに感じられるけど?」

 爽やかな笑顔で追及してくる。この人の腹の中は好奇心でいっぱいになっていることだろう。

「いただいたんですよ……お守り」

 手作りの巾着袋をいただいた。触ると、中になにか丸くて硬い丸っこいものが入っているのがわかった。そこからはさらの魔力が感じられた。


 クリスマスの日はあいにくの雨だった。なんとか時間を作り、こっそり生徒会控室を借りて、夜に会うことになった。学内のイルミネーションもなかなかで、それを窓から二人で見ようと思ったのだ。

 お互いに軽食とデザートを用意して控室で待ち合わせ。クリスマスのデートとしてはふさわしいとは言えないロケーションだったが、密会と思うと心が躍った。

 二人で軽食をつまみながら、夜景を楽しみ話して笑いあう。ブラインドを上げると雨粒がイルミネーションとともに煌めいて、まるで宝石が空から舞い降りているかのようだった。

 もちろん外からは中が見えないように魔法をかけて、食後は室内の明かりを消し、二人で肩を並べて外の景色を眺め続けた。

「お守りです」

 さらに巾着袋をそっと差し出された。

 雨雲の奥から、月の光がぼうとその存在を主張した。

 この人は、太陽より月のほうが似合うと思った。

 樹はさらからの贈り物をお礼をともに受け取ると、自分からも差し出した。

 箱を開けたときのさらの顔は、イルミネーションよりもずっと輝いて見えた。

 箱から出してバレッタを髪につけ、「どうですか」と聞かれたときは声がすぐに出せなかった。うまく答えられたかもよく覚えていない。その後の出来事も。

 ただ、「大事にしますね」とバレッタを丁寧な手つきで箱にしまい手で包みこんで笑顔を見せてもらったのはしかと覚えている。


「見せませんからね」

 お守りを一水に見せる気などさらさらない。自分だけの、大切なお守りなのだから。

 実はさらはおそろいの自分用のお守りも対で作っていたのだが、樹はそれを知らない。お互いに、肌身離さず持っていることも。

 樹の言葉に対し、わかってるよとでも言うように、一水はひらひらと手を振る。自分の心を見透かされている。そう思うのはいつものことである。

「一水さん、あなたは何者ですか」

 憎たらしいので嫌味たっぷりな声を出したつもりだったが、半分呆れ声も交じってしまった。もうこの人のこの態度に慣れてしまったのかもしれない。

「俺か?」

 一水はにやりと笑う。

「俺は水の名探偵王子さ」

 それだけ言うと、一水はそろそろ行くから、と言い残してさっさと行ってしまった。

「意味わかんないですよ……」


 結局、自分のことだけ話しただけで、一水が紅葉とどう過ごしたか聞き出せずに終わった。

 女性三人も、樹に一声かけると去って行った。

 樹はずいぶん明るくなったご神木にもう一度お参りする。


 今年は何事もなく、平和に過ごせるよう、お見守りください。


 具体的には、“影”のからんだ事件がないように。

 だが、今日は正月。新たな一年を迎える祝いの日。暗いことを考えたくはない。

 だからあえて、一年平和でであるようにだけ、祈った。

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