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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第八章
49/163

十、

 盗み聞き騒動の経緯説明がひと段落ついたところで、碧がやってきた。

 様々な感情の入り混じった雰囲気を敏感に感じ取り、碧は複雑な表情を浮かべる。自分以外の全員が揃っているとなれば、何かあったのか心配になるのもうなずける。

 どうしていいかわからない碧に、一水(かずみ)がさらと樹の許可をとったうえで、一部始終を解説した。碧は納得したようで、二人に「おめでとうございます」と伝える。

「華やかなパーティのあとは、ハッピーエンドが筋ですもんね」

「童話のプリンセスになった気分です」

 少し照れつつさらが言う。


 童話。

 プリンセス……シンデレラ。

 やっぱり“あの子”はさらなのではないか。

 でも、もうそんなこと考える必要はない。今、さらは自分の恋人だ。さらから“あの日”のことを聞いたことはないし、噂を耳にしたこともない。そしてそれを確認する必要性も、樹は毛頭感じていなかった。

 今自分が好きなのは、“あの子”ではなく“さら”という人物なのだから。


 メンバーが揃い、集会の本題が始まる。

 ガーディアンズメンバーは、それぞれ自ら別の任務を果たしながらも、しっかり周囲の動きを観察していた。すべき任務に集中しながらも、ガーディアンズとしての仕事をおろそかにすることはない。ここにいるメンバーは、そういう人たちだ。

 全員の報告が終わる。結論をいえば、“影”の動きは見られなかったということだ。カップルが増える中、意中の人に振られて落ち込む学生がいたり、はめをはずして騒ぎ過ぎてしまう学生がちらほら見られたくらいで、たくさんの感情が入り混じる中、これといった大きな事件は起こらなかった。

「不可解だな」

 一水の言葉に皆が頷く。

 もちろん、何も起きないこと以上に良いことはない。だが、昨夜の式典は“影”が事件を起こすにはうってつけの機会のはずだった。なのに、なにもない。

「嵐の前の静けさ……か」

「縁起でもないこと、言わないでください」

 拓真のつぶやきをフジが窘めるが、その声に勢いはない。一同も難しい顔をしている。考えることは一緒だった。

 なぜなにも起こさなかったのか。起きなかったのか。

「と、とにかく、今回は何もなくて、よかった、ってことで……そ、その、いいのではありません、か?」

 重くなった雰囲気を明るく取り繕うように弦矢が努める。

「そうだな」

 紅葉(くれは)が言うと、少しだけ空気が軽くなった。弦矢もほっとしている。


 もうすぐ冬休みになる。年末年始で実家に帰る学生は多い。その前にクリスマスもあり、一時は賑わうが学内にいる学生は激減する。

 “影”は人間に危害を加えることが目的で、手始めがこの学園内だとすれば、人の少ない休み中に仕掛けてくる可能性は低い。

 一方、“準備”を行うにはちょうどいい機会でもある。

 “影”が対象とする人間は、有能力者だけに限られていないとガーディアンズでは考えているが、散り散りになった学生や人の少ない時期の学園、非能力者になにか仕掛けても、大きな影響が出なければ“影”の目的は達成されない。

 したがって、休暇中は警備強化は続行するものの、ガーディアンズが特別に警戒する必要性は低いという結論に至った。例年どおり、それぞれの年末年始を過ごす。


 集会が終わり、樹はさらを風の寮まで送っていくことになった。他の人たちが気を遣ってふたりにさせてくれた。さっきの贖罪の意味もあるだろうが、そういう意味ではメンバーにさらとの関係が知られてよかったのかもしれない。樹は警備隊員で、さらは風の長。ふたりで歩いていても、警護にあたっていると見えるため不思議はない。

 声がもれないよう魔法を使ってこっそり声の遮断をして、集会前の出来事について語り、笑いあいながらゆっくりとした歩調で寮へと向かう。しかし楽しい時間は風のようにすぐに過ぎ去ってしまう。

「それではまた」

 さらが部屋の前に立つ。扉を開けないのは自分を見送るためだろう。

「あのっ」

 思い切って声をかけると、はい? とさらは首を傾げた。そんなちょっとの仕草も可愛い。

「クリスマス、時間があったら……その、一緒に過ごせませんか」

 明日はクリスマス。イヴは今日。恋人たちのための一年に一度の大イベントだ。すこしでもいいから、一緒にいたい。


 冬休み、樹は警備の任務があるため実家に帰る予定はない。そもそも帰るつもりもない。長は特に任務などはない。実家に帰るのも自由である。冬休みはクリスマスの翌日、二十六日から。

 さらは例年実家に帰っているようだし、一緒に過ごせる日はもう少ない。了承してもらえるだろうか、とても心配だったが、勇気を出して聞いてみる。恥ずかしさと不安で顔は斜め下を向いてしまう。

「集合時間と場所、早めに教えてくださいね。誘っていただけて、嬉しいです」

 ばっと顔を上げると、さらは振り返って扉の中へと消えるところだった。頬をほんのり赤く染めて、はにかんでいるのが一瞬見えた気がする。


 ぱたん、と扉が閉じると、樹の前に気の言伝が浮いていた。これを使って、ということだろう。

 樹は心の中で、大きくガッツポーズを決めたのだった。

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