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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第八章
47/163

八、

 放課後の集会には、気持ちを落ち着かせる時間がほしく、集合予定よりもずっと早く生徒会室へ到着していた。案の定、まだ誰もいない。

 窓枠に両手をついて外を眺めていると、昨日の式典の片付けで多くの学生が忙しそうに動き回っているのが目に入る。走り回る学生たちを見つめながら、何も考えないように意識する。


 だが、無心でいられた時間は短かった。

 かちゃ、と扉が開く音が聞こえ、振り返ると、入ってきたのはさらだった。

 どきん、と心臓が飛び跳ねる。

 樹はさらの予想外の出現に声も出ない。さらも驚いたように目を見開き、動きを止めている。

 先に縛りが解けたのは、さらだった。

「考えることは同じだったのですね」

 ふふ、と口元をほころばせてさらは笑う。

「樹さんも、心を落ち着かせて、平常心で集会に参加するために早く来たのでしょう?」

 ちょっと首を傾げて目線をこちらへ向けてくる。

「そ、そうです……」

 なんとか声を絞り出した。

 考えることは同じ。以心伝心って、こういうことをいうのだろうか。

 だとしたら、さらも今の気持ちは自分と同じということにもなる。


 今現在は生徒会室で二人きり。集会まではまだずいぶんと時間がある。いつも早くに来て準備を整えてくれている弦矢も、来るには早すぎる時間だ。


 チャンスだ。


 今しかない、と樹は判断した。

 昨夜伝えられなかったこの気持ちをきちんと伝えたい。

 さらの正面に立ち、まっすぐに彼女の瞳を見据える。

 胸がどきどきする。よし。

「俺、さらさんのことが好きです。これからも、さらさんのいろんな顔を見ていきたい」

 顔が、胸が熱くなるのを感じる。

「俺と付き合ってください!」

 最後まで一気に言い切る。

 緊張で身体が震える。握っている拳に、汗がたまっていく。

 気持ちは伝えられた。振られても、後悔しない。……立ち直るには時間がかかるだろうが。


 さらは笑顔だった。


「私でよろしければ……よろしくお願いします」

 樹の震えが止まり、今度は石のように固まった。

 え? お願いしますってことは……

 その意味を、頭をフル回転して理解する。

「はい!!」

 そして、勢いよく返事したのだった。

 二人同時に照れ笑い。こうして、樹とさらは恋人となった。


 二人の間にはさっきまでの緊張感ではなく、甘い雰囲気。ずっと浸っていたい、幸せな時間だ。

 二人をとりまく空気が、ひとつに溶け合っていく。もう少し、このままでいたい。そう思った。こうしていられるのは、集会が始まるまでだから。


 なのに。


「あの~、そろそろやめませんか? いい雰囲気みたいですし……」

「もうちょっと! もしかしたら、この先があるかもしれないんだから!」

「盗み見から盗み聞きに妥協したんだ。もう少しいいだろう。なぁ?」

「そうですね。集会の十五分前くらいまではいいでしょう」

「技術訓練だと思えば、野暮でもないだろう」

「ちょっと、声大きいですよ! これじゃぁ」

 聞こえてしまう、と続くはずだったのだろう次の言葉を遮って

「聞こえてますよ」

 樹は顔に笑顔を貼り付けて、ぎい、と扉を開いた。もちろん目は笑っていないと自覚している。

 会話の初めの声の主、弦矢には、樹の背後にブリザードが吹き、禍々しい黒いオーラが揺らめいているのが視えていたことだろう。

 樹の視線の先には、怯える弦矢と焦るほのか、苦笑いの紅葉(くれは)、どや顔の一水(かずみ)、目を背ける拓真と、言葉をさえぎられ瞠目したフジの姿がある。

「ずいぶん楽しそうですね。ところで皆さん、何をしていたのか、お聞かせ願えますか?」

 怒りを隠さずに、でも笑顔のままで樹は目の前の六人にたずねる。

 後ろでは、さらが愉快そうに、くすくすと口に手をあてて笑っていた。

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