表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第八章
42/163

三、

 療養室ならぬ花置き場を出て、生徒会室へ向かう。一水(かずみ)の冠を取りに行くためだ。水の宝玉の細工も見られたしそこまで付き添う必要もないのだが、一水をひとりで歩かせていると、女性陣がわらわら寄ってきそうなので、ついていくことにした。もしかしたら一水は最初からそれを狙って誘ってきたのかもしれない。

 自分が虫除けスプレーにされているようで気持ちよくはないが、長に警備隊員がついていればそれなりの事情を読み取ってつきまとってくる人は減るというものである。実際に、きゃぁ、と黄色い声がとんできたり、カメラのシャッター音はするものの、生徒会室へ向かうのに足止めをくらうことはなかった。

「女性控室って、中央棟にある女性が身支度するための部屋になってるんでしたよね? なぜそこに碧さんが?」

 樹は歩きながら一水に聞いてみた。控室とは言っても、女性陣たちが着替え、化粧をし、髪をセットしたり……とドレスアップするために使う部屋として式典の日は提供されている。女性は準備が大変そうだ。自分はまあ着替えればほぼそれでよし。男でよかった……、としみじみ思ってしまう。


 一水が聞いた話によると、碧は学長からも式典の参加を許可されていたそうだが、雇われている身であり、学生ではないからとの理由で断ったらしい。ほのかが心底残念そうにしていた、とのことだ。そんなほのかは、料理をこっそりせしめて碧におすそ分けを企んでいる。

「控室にいるのは、ヘアメイクの手伝いなどもするかららしい。碧はセンスもいいだろうし、手先も器用だからうってつけだ」

 樹は知らなかったことだが、控室は毎年式典の日には戦場になるらしい。それはそうだ。学園の女学生ほとんどが身支度に集まるのだから。

 メイクやヘアメイク、着付けのプロを外から呼んではいても、それぞれの支度に時間はかかる。なるべく綺麗に装いたい学生たちからは注文も多く、何室もある控室はごたごたになるらしい。想像すると……大変そうだ。

 女性陣が着飾って全員はける頃には、プロの方々はへとへとに疲れきっている。恐ろしい、とこぼれそうな言葉をどうにか飲みこむ。

 そこへ、ヘルパーというかアシスタントというか、実質雑用として碧も控室の運営を手伝いにいく、ということだ。

「なぜそれを知ってるんですか?」

「ほのかが猛アタックして碧にセットをお願いしていたと紅葉(くれは)から聞いた」

「ああ」

 それなら納得だ。ほのかは碧と仲がいいし、シスコンの紅葉はほのかのことをほぼ把握している。そして紅葉は一水の服装や自分に来てほしいドレスの情報を少しでも聞き出そうとしたに違いない。遠回しにさりげなく、というのが苦手な紅葉には、ほのかを間に挟むことで話しやすかったのだろう。まぁ、紅葉が一水から聞き出せなくても、姉想いのほのかが聞き出して、どっちにしろ情報は紅葉に伝わっていただろうが。


 舞踏会のドレスについては、ここ数週間、女性陣の間でもちきりの話題だった。美しく着飾った普段とは異なる装いを恋人や好きな人に見てもらいたい、さらにはダンスに誘ってほしいからだ。毎年式典の後にはカップルが増える。すぐにクリスマスだから、男女関係なく恋人をつくる絶好のチャンスなのである。

 男性のなかではどうやって想い人を誘うかが問題となる。こちらはおおっぴらには話しづらいため、友人同士でひそひそと相談し合うことのほうが多い。

 だが樹には関係のない話。警備隊員としての務めがあるため、パーティには参加しないからだ。

「さらと踊れないのは残念だな。まぁ、姿が見られる場所に配置したんだから、俺に感謝しろよ」

 さらと踊れないのは残念だな、とちょうど思っていた時に、見透かしたように一水に言われてしまう。恩着せがましいもの言いにむっとするが、たしかに式典開始直後の警備の配置は会場内なのでそれは本当に感謝しなければならない。


 一水の采配で、樹はパーティの前半は会場の扉内側、つまり会場内で出入りする者の様子を監視することになった。四人の長は、会場に設置された檀上へ、学長の後に登場する。ばっちり正面からさらを見ることができるというわけだ。

 そして学長の挨拶や来賓の祝辞を終えれば舞踏会が始まり、様々な料理を楽しむ時間となる。その頃には担当を交代し休憩をとって、外のパトロールをする予定である。さらが他の男と踊るところをあまり見ないで済む。

 一水にとっては、実は樹がさらに注目しすぎて警備を怠ることのないように、という意図もある。それを知らない樹にとって、このスケジュールは実にありがたい。

 ありがとうございます、とふてくされながらとりあえずお礼を口にする。

「でも、どちらにしろ、俺にさらさんを誘う勇気なんてありませんから」

 ダンスは基本的に男性から誘う。さらと踊ろうと目論む人は多い。雲の上のお人、高嶺の花、といったイメージもあり、普段はなかなか近づけなくても、この機会こそと気合を入れてくる人は多いはずだ。

 ちなみに、一水や拓真など、人気の高い男子学生は例外で、女性のほうからわらわら寄ってくる人もいる。


 とにかく、自分のほうからさらを誘う勇気はない。もし誘ったところで、さらは優しいから断ることはないだろうが、自分ががちがちに緊張して恥ずかしい姿をさらす結果になることは目に見えている。

 警備隊員だからパーティには参加できない、という理由だけが、さらと踊れないことを後悔しないための自分に対する言い訳なのだ。

「じゃ、せっかくなんだから、姿くらいはしっかり目に焼き付けてこい」

 もちろんだ。しかし素直に返事するのは癪なので、こちらからも攻撃をしかける。

「一水さんも、紅葉さんをしっかりエスコートしてあげてくださいよ」

 ふん、と一水は不敵に笑う。

「あたり前だ。俺は王子だからな。パートナーのエスコートくらい、完璧にできるさ」

 言いながら手をひらひらさせる。攻撃はヒットしなかったらしい。

 王子と自ら名乗るなら、ちゃらい男のような仕草はやめたほうがいいですよ、と付け加えてやりたかったが、生徒会室についてしまったため口を閉じた。


 一水は生徒会室に用意された冠を受け取り、これで準備万端。拓真の冠は既にない。残っているのは紅葉とさらのもの。女性陣はまだ、準備に時間がかかりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ