一、
記念式典の当日、樹は警備隊員の待機室で、鏡とにらめっこしていた。
鏡の中の自分は、うすい水色のシャツに濃紺のジャケットとパンツ、腕章と、左胸には警備隊員であることを示す金色の刺繍に、襟元には水の領生であることを示す水色のピンがつけられている。警備隊員の正装である。
公式な場にもなじむよう、しかし警備隊員であることは目でわかるデザイン。遠目であれば一般的なスーツに見えなくはないが、動きやすく、強化魔法がかけられていて防御力も高い。
普段のパトロールの際は私服に腕章だけでよしとされているため、こんなぎちぎちの正装などしない。これを着る機会など限られてくる。だからこそ、身に付けると大事な場面での警護を任されていると、気持ちが引き締まる。
だが、樹が鏡とにらめっこしているのは、緊張からではなかった。いや、一種の緊張であることに間違いない。着る機会の少ないこの服装を着こなせているか、の張りつめた気持ちだ。
「よく似合っているじゃないか」
「うわ!」
いきなり声をかけられて思わず悲鳴をあげてしまう。入り口に、白いタキシードを身にまとった一水が扉の縁によりかかるようにして立っていた。画になりすぎでため息もでない。
「ノックぐらいしてくださいよ……」
「したさ。おまえが身支度に集中しすぎて聞こえていなかったんだろ」
そういえば、なにか物音を聞いたような気がしてきた。
「さらに恥ずかしくない姿を見せたいのは理解できるが、ノックに気付けないほど自分のことだけを気にしていたら、警備は務まらないよ。十分似合っているから、心配するな」
この俺が言うんだから問題ないだろう? とでも言いたげな自信たっぷりの上から目線が多少勘に障ったが、この人にそう言われただけで安心してしまう自分がいる。樹は鏡を見るのをやめた。
「一水さんこそ、画になってますよ。さすが、“水の王子“ですね」
皮肉をたっぷり込めて言ってやる。
「お褒めにあずかり光栄だよ。ほのかが白というから、そうしてみたんだ。なかなかいいだろう?」
皮肉はまったく通じなかった。
「あとは冠と、碧に頼んだ花と宝玉で準備万端だ」
各領の長は、公式の場では冠をつけることになっている。長が誰なのか、来賓も一目でわかるように、ということらしい。その代ごとの長に合わせ、属性をモチーフにした冠が毎年作られる。今までの冠は学内に保管されており、観覧可能だ。
一水の冠は細めに仕立てられており、水がさざめく形をイメージしたもので、所々に青系統のスワロフスキーがちりばめられている。清らかな印象を与える、一水にぴったりのデザインだ。特に今の白いタキシードの彼には。
“水の王子”という二つ名は、誰にでも平等かつ丁寧に接する一水の清涼な物腰や言動からきているのだろう。表の顔向きのきらきらなかんじではぴったりだが、裏の顔は腹黒上司だと樹は思っている。
「宝玉を碧さんにって、どういうことですか?」
水の宝玉は、一水が水の女王から授かったサファイアのことである。一水が魔力を注げば大きな力を発揮する鉾となる。普段は長いチェーンのネックレスとして首にさげて隠しているため、外からは見えない。
「せっかくだから、お披露目しようと思ってね。あ、もちろんただの飾りとしてだ。碧に相談したら、花と一緒に胸ポケットの飾りにしてくれるって言うから、お願いした。これから受け取りに行く。一緒に来るか?」
自分の警備担当時間までは十分に時間がある。どんなものになっているのか気になって、樹も同行することにした。




