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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第七章
38/163

二、

 地震が起こる前、昼休み。ほのかは碧と療養室で昼食をとっていた。

「うわぁ~、このサンドイッチ、すごくおいしい!」

 幸せを思い切り顔に出して、ほのかはサンドイッチをほおばる。

「たくさん作ったから、遠慮せずに食べてね」

 碧はこぽこぽとカップに紅茶を注いでほのかにすすめる。ふわりといい香りがたちこめる。

「ほわ~い」

 口いっぱいにサンドイッチにかじりつくほのかを、碧は母親になった気分で見守る。


 作ってきたのはBLTサンド。全粒粉で焼き上げた手作りパンに、家庭菜園で育てたトマトとレタス、香ばしく焦げ目のついたベーコン。瑞々しい野菜からは新鮮さが伝わってくる。

 トマトもレタスも、冬でも採れるんだっけ。温室でもあるのかな、と考えながらほのかはもう一口かぶりつく。ベーコンの油とうまみが口の中でじゅわっと広がり、とろけていく。熱々のベーコンの上に冷えた野菜のバランスが絶妙だ。

 バスケットから取り出してたから朝作ったのかな。それともヒーリング中にうとうとしてるときに料理してたのかな。一応コンロもあるし。

 たくさん気になることはあったが、口はいっぱいで質問できない。それよりもこのおいしさをじっくり堪能したかった。ほのかは気になることと一緒に、サンドイッチを飲みこんだ。


 次はデザートの時間。カモミールティーのおともはマドレーヌだ。茶葉となるカミツレはもちろん、マドレーヌも碧の手作り。

「こんなにおいしいものが食べられるなら、毎日来ちゃいたい!」

 レモンがほんのり爽やかに香るマドレーヌを食べながら、ほのかが言う。

「お茶とお菓子は常に置いてあるけど、ほら、一緒に食事をすることで親睦が深まったり、心がほぐれたりするでしょ? でも、今日の昼食はほのかちゃん特別」

 一番目のお客様だから、と碧はにっこり笑う。

 お試しといえど、療養室での初のヒーリングを拓真にとられて拗ねていたほのかのために、碧が昼食をセッティングしたのだ。初めの予約は二限の時間。その後は昼休みのため時間もぴったりだったのだ。

「ほのかちゃんさ、火をうまく操れないのが悩みって言ってたけど」

 ヒーリング中にほのかぼやいたのだ。

「体内にはそれを行うに十分の力があるみたいだよ」

「え?」

 ほのかは火の魔力を持つため、炎を出すことはできるのだが、姉である紅葉(くれは)のように火力の調整をうまくできず、気にしていた。悩みがあれば相談する、と姉に言ったが、姉のようになりたい、姉を支える存在になりたい、とは恥ずかしくて本人に相談できるはずもない。そこで今日のヒーリングで碧に話してみたのだ。

「それってどういうことですか?」

 力があるのに納得のいくコントロールができないのはおかしい。

「紅葉さんは、炎の出力を加減することで強さをコントロールしているように見えるの。誘拐事件で激昂したときは、加減なんてしてなかったんだね」

 碧はティーカップの中身をすすり、ソーサーにことりと置く。

「でもね、ほのかちゃんは力の出力の仕方が紅葉さんと違う気がするの」

「出力の、仕方?」

 意味がよくわからず、ほのかは碧の言葉を反芻する。

「そう。紅葉さんは、魔力を炎そのものに変換して強弱も一緒にコントロールしてる。これだけ出すぞ! って考えたぶんだけの炎が出るんだね。でもほのかちゃんの場合は、魔力を使って熱が生まれる。過程が違うっていえばいいのかな」

 紅葉は魔力そのものが炎となる。したがって力を注ぐ量で強弱が変わってくる。

 代わってほのかは、魔力を熱として、結果炎となる。

「だから、炎を作り出す、というよりも、熱を操るほうに長けてるんじゃないかな。確証はないけど。考え方というか、意識の向け方を変えたら、いい結果が出るかもしれないよ」

 試してみて、と碧は言う。


 幼い頃からずっと、ほのかは紅葉の背中を追いかけてきた。同じように、とまねをしてきた。

 そのせいか、力の使い方をひとつと思い込んでいたのだ。人によって、得手不得手はある。それは魔力のコントロールも同じ。今までと違った角度からの調整、それは、ほのかにとって新鮮な意見であり、希望の光になった。

「やってみます。練習します!」

 もともと温度を変えるのは得意なほうだ。紅葉より、そちらの技術面では上かもしれない。

「あ、でも最初は力を弱く始めてね」

 今すぐにでも、どかーんと思い切り試してみたい、そう思っていたところを止められる。

「なんでですか? 三限サボってどかんとやってみようと思ったのに」

 サボって、という言葉はとりあえず置いておき、碧は説明する。

「今、ほのかちゃんの身体は、ヒーリングの効果で魔力の流れがとってもスムーズなの。この状態で力を思い切り発揮したら、自分で想像していた以上に力が出過ぎて危ないからだよ。それで体に負担をかけちゃったら、本末転倒でしょ? 心もやる気に満ちているみたいだから、特に」

 ちゃんと講義に出席して、時間があるときに少しずつ試してみて、と諭される。

「はぁい……」

 碧の言うことは正論だ。でも残念だ。すぐにやってみたかったのに。

 放課後、実技室を借りて省力モードでやってみるぞと決める。


「ってことは、拓真さん、大丈夫かな」

「大丈夫かなって?」

「今日の実技で全力を見せるってフジさんと約束したらしいです。昨日の夜だし、全力出しても暴走しませんよね」

「え?!」

 大声をだし、明らかに碧は焦っている。

「いつだかわかる?!」

「確か、三限だって」

「大変!!」

 本気で碧が慌て始める。

「昨日のヒーリングで拓真さんのエネルギーは充満してるの。それを一気に吐き出したら、もともと強い力を持ってるのに、危険だよ! ほのかちゃん! 今すぐ拓真さんに、せめて五割くらいの出力にするよう伝えて! お願い!」

 いつも落ち着いている碧がこんなにも慌てている。ただごとではない、とほのかもすぐに判断する。


 碧は学生ではなく、雇われている身だ。いくら自由に動けても、働く場所でないところに入れば怪しく思われる。ましてや実技の訓練中の場所になど、入っていけるはずもない。だが執行部員であるほのかなら、話は少し違ってくる。

「はい!」

 返事をするや否や、ほのかは土の領目指して走り出す。実技が行われるのが多いのはドームだ。あと数分で三限は始まってしまう。ほのかは風の属性は持ち合わせていないため、気の言伝は使えない。ひたすら走るしかなかった。

 ドームは土の領の中心付近にある。通ってきた途中、実技訓練らしきことをしている学生は見当たらなかった。やっぱりドームだ。

 やっと辿りついたほのかは、はぁはぁと息を切らしながら出入り許可を得ようとドームの入り口付近にいる学生に声をかけた。


 きーんこーんかーんこーん


 始業のベルが鳴る。急いでいるのに間の抜けた音だ。

 そのすぐ後だった。


 ごごごごごごご……


 地響きとともに、地面がぐらぐらと揺れる。

 この揺れからは魔力の波動が感じられた。自然に起きた地震でないことは確かだ。

「あちゃー、間に合わなかったぁ……」

 まだドームに入れていないが、ほのかには拓真が起こしたものだとわかっている。

 拓真の力の強さを驚くよりも、間に合わなかったことに悔しさをかみしめながら、執行部員であることを理由に、ガーディアンズとしては一番にドームへと足を踏み入れた。

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