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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第六章
34/163

四、

 拓真の公開お試しヒーリングが終わった後、メンバーは解散となり、それぞれの寮へ帰っていく。

 拓真とフジは男二人で、紅葉(くれは)とほのかに一水(かずみ)が付き添い、さらと弦矢は樹が送っていくことになった。碧を正門まで送ろうとしたが、明日の準備をするということで、療養室に残る。「何時に終わるかわからないし、待たせてしまっていると思うと集中できなそうで……」と帰る時間に呼びだしてもらうことも、こちらから言い出す前にやんわりと断られてしまった。

 さらには弦矢がついているので他に付き添いはいらないと思っていたのだが、樹がひとりになってしまうからと、一水が二人に風の寮までお供するように命じたのだ。にやっとしたあの視線は気に食わないが、一水に少しだけ感謝する。さらといられる時間はどんなに短くても嬉しい。もちろん樹は“命令”に従った。


 風の寮までは療養室から他の領に比べ一番遠い。パトロールも兼ねながら、三人でゆっくりと歩いていく。冷たい夜風も今は心地よい。

「今夜は楽しかったですね」

 弦矢はうきうきした口調で話してくる。

「そうですね。機会がないと、ああいうパーティはなかなかやりませんし、碧さんとよりお近づきになれた気がして嬉しいです」

 さらからはとっくに、碧に対する不信感は消えている。

「ヒーリングを実際に見られたのもよかったですね。やっているのはマッサージってかんじでしたけど、それだけではない効果があるのがよくわかりました。そのうえ一人ひとりに合わせてやるとなると、大変な仕事です」

「拓真さまが実験台になるって言ったときはびっくりしました!」

「ヒーリングに興味を持っているようでしたからね。土に属する者として気になるのも当然かもしれませんね」

 さらはくすくすと楽しそうに笑う。夜空の星が同調するかのように煌めく。

「拓真さまも、色々と心に抱えていることがあったんですね。いつもがっちりしているので、ぼく、全然気づきませんでした」

「がっちり、というよりしっかりだろ」

 それは見た目のことだろ、と樹がつっこむと、失言に気付いたのか弦矢は焦ったように言葉を返す。

「え、あ、失礼しました……。といっても、ヒーリングって、心の奥底の悩みまでお見通しなんですね! すごいです!」

 あ、こいつ話変えやがった、と思ったがさっきのつっこみは冗談半分なので追及はしない。

「そうだな。悩みを吐き出させるのはヒーリングというより碧さんだからこそできる技なんだろうな。あの部屋の中の環境が、より話しやすくさせている気がする。人をよくみ見て、“手”の力と身体の状態から心の中まで読み取っているんだろう」

「ええ、あれだけ落ち着いた空間なら、抱えている心の負担も口に出しやすそうですし、碧さんならすべて受け容れてくれそうで安心できます。悩みは打ち明けるだけでも心はすっきりしますし」

 さらは竜巻事件のことを思い出しながら話しているのだろう。だがその表情に陰りはない。

「今のところ、ほのかさんと私だけの予約ですが、明日から予約者が増えると思います。竜巻事件でヒーリングを受けた学生の評判がよかったので」

「療養室で心も身体も健康になれば、“影”が付け入る隙が減りそうでいいですね!」

「そうだな」

 樹は相槌を打ちながら、療養室の本当の目的が“影”対策にあることを思い出していた。

「ぼくも今日のうちに予約しちゃおうかな」

 そんなことを話しているうちに、風の寮の入り口に到着した。長の部屋、風の宮は入り口からすぐそこにあるため、弦矢はここで失礼します、というとぺこりと頭を下げて自室へ戻っていった。


「ここまでお付き添いありがとうございます」

 月の光に優しく照らされたさらの姿は、まるで妖精のようだ。

「あ、はい! ……えと、おやすみなさい」

 美しい姿に見惚れて返事がつっかえてしまう。とりあえず夜の挨拶は、できた、だろう。

 さらはくすりと笑うと、「おやすみなさい」と樹に返して部屋の扉を静かに閉めた。

 どぎまぎしてしまった。自分の顔は月を後ろに背負っていたためさらには見えていなかっただろう。多分。

 役目を終えたことに安心してふぅと息をつく。と、気の言伝が耳元で弾けた。


(また、お願いしますね)


 ほんのり甘さを含んだ声色。さらの声だった。

 不意打ちに顔が火照るのを感じ、手で顔をおさえる。熱い。

 誰にも見られても聞かれていもいない、特に一水に見聞きされていないことにひたすら感謝しつつ、月の下で、樹はさらの声の余韻に浸ったのだった。

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