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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第六章
32/163

二、

 パン、パパーン!


 軽快な音とともに、クラッカーからリボンと紙吹雪が舞い散る。

 十一月三十日、明日からの心身療養室の開始を祝して、ガーディアンズメンバーでささやかなパーティを催すことになったのだ。

 すでに日はとっぷりと暮れているはずの時間だが、紅葉(くれは)とほのかによる火の魔法と弦矢による光の魔法で、会場である療養室の外は昼間ほどではないが、顔やものを見られるくらいに明るく、幻想的だ。

 強く冷たく吹き付ける風はさらの風の魔法で弱められ、樹が火の魔法で心地よい気温湿度に調整している。


 パーティといっても、出来合いの軽食とお菓子、飲物を持ちよりレジャーシートの上で食べながらの団欒という、いわば夜のピクニックだ。簡素ではあるが、集まったメンバーは楽しそうで、たまにはこういうリフレッシュもいいかな、と樹は思った。

「碧さん、開設おめでとうございます!」

 ほのかが言うと、周りからも「おめでとう」「おめでとうございます」、とお祝いの言葉がとんでくる。

「ありがとうございます。がんばります」

 碧が嬉しそうに答えている。

「あたし、碧さんの療養室の第一番のお客さんになります!」

 ほのかが今月の電子予約表をばばーんと広げる。

 本当だ。明日の開設日一番の予約欄には、ほのかの名前がしっかりと書きこまれている。その他のマスは真っ白。明日から予約受付開始なのだから当然だ。

「ほのかちゃん、予約って明日からでは……」

 弦矢がもっともな疑問を口にする。あ、ちゃん付けで呼ぶようになったんだ。

「生徒会執行部だからね」

 ほのかは誇らしげに、答えにならない答えをあっけらかんとした。

「ほのか、お前……」

「職権乱用とはまさにこのことですね」

 紅葉は額に手を当てて呆れ果て、一水(かずみ)は楽しそうにつぶやいている。一水も職権乱用はしばしばしていることだからあまり気にしていないようだ。

 意外にも、さらが空いているマスに名前を書き込んだ。

「共犯です」

 そう言いながらおちゃめに笑うさらがとても可愛らしい。


 予約表は中央棟と各寮にある電子掲示板に映し出され、誰かが名前を書くと、すべての表に予約ありの表示が出るようになっている。

 もちろんほのかとさらは名前を表示に設定している。匿名でも名前を表示することもできる。風の長や次期火の長候補者の名前があれば、他の学生も興味を示してくれるだろうし、信頼性も上がることが期待される。

「前置きはそのくらいにして、乾杯しましょう」

 一水の一声で、それぞれが紙コップを持つ。

「では、心身療養室の開設を祝して、かんぱーい!」

「「かんぱーい!」」

 こん、こつん、とコップ同士をぶつける音のあと、飲物を飲んで和気あいあいと団欒が始まる。

 悪いことは忘れて、楽しい時間を過ごすのは久しぶりだ。それくらい、“影”のことに普段から気を張っていたのだ。たまにはこういった息抜きも大切なのだと、改めて思う。

 ふと碧のほうに目をやると、たまたま目が合った。「楽しんでますか」と問うように微笑みながら小首を傾げている。樹はもちろん、と表すためにコップをぐいと傾けてジュースを飲み干すと、大きく縦に首を振って見せた。自然と口元もほころぶ。

 食べ物と飲物がほとんど終わり、一息つきながら会話を楽しんでいると、華やかな香りが風にのって届いてきた。碧がガラスのティーカップをお盆に乗せて立っている。

「今夜のお礼に、ハーブティーを淹れました。よかったら、お召し上がりください」

 碧はカップを全員にふるまう。

 見た目は黄色っぽいお茶。その上にピンク色の色調の花びらが浮かべられている。ドライフラワーと異なり、うるおいを感じられる。食べられる花らしい。

 女性たちは顔を輝かせ、男性陣は興味津々にカップを見つめる。祝の場にぴったりの、見た目も香りも華やかなお茶だ。

 樹も、一口すすってみる。と、華やかな見た目と香りとは異なり、すっと爽やかな風味が口の中へ広がった。

「うまい」

 無意識に賛辞がこぼれる。他の人たちからも、おいしいと感想がとんでくる。

 後味にほんのり甘味が残り、このお茶を飲んだことを忘れさせない。

「こんなお茶初めて! もしかして、手作りですか?」

「うん。今夜のために、急いで用意したの。気に入ってもらえたなら、よかった」

 ほのかの言葉に、ちょっと恥ずかしそうに碧が答えている。

 なんと、自分で育てたハーブや花を加工して、オーガニックの茶葉を作っているらしい。ハーブティーだけでなく、アロマも手作りだそうだ。ヒーリングに大切な材料は、できる限り手作りしているとのことだ。

 さらや紅葉は、この心地よい雰囲気に浸っている。二人が優雅にお茶会をする貴族に見えてしまう。おいしそうにお茶を飲む人々の姿を、碧は目を細めて眺めていた。


 お茶を飲み終わり締めも終わったということで、そろそろ解散かな、と樹が思ったとき、とある提案があがった。

「碧さん、よかったら、あなたのヒーリングを見せてはいただけないか」

 提案というより、お願いだ。意外なことに、そのお願いをしたのは拓真だった。

 碧は、「え?」と目を見開いている。

「いや、一度見てみたかったんだ。ヒーリングがどういうものなのか」

 拓真は碧の治癒能力に前から興味を示していた。傷を治す行為などは、土の力に当てはまる。それもあって、興味を惹かれているのだろう。

 心身療養室でのヒーリングは、原則一対一で行われる。プライバシーの問題などもあるため、人前で行うことはまずない。

「もちろん、私は構いませんが、それなら明日に予約を……」

 碧はちらりとほのかに視線を向ける。

 ほのかはあからさまにむっつりと不機嫌な表情をしている、「あたしが一番のお客さんのはずなのに」という心の声がダダ漏れだ。

「ほのか、療養室の開設は明日だ。一番の患者がほのかさんなのは変わりはないだろう。今夜は、練習としてとらえてもらえないか」

 ほのかは眉間に皺を寄せながらも、しぶしぶ頷いた。

「ありがとう。そこで、実験台は自分にお願いしたいのだが」

 これには一同驚きを隠せない。碧はさっきより目を見開いているし、フジは実験台は自分だと思っていたのだろう、口をぽかんと開けたまま拓真を見ている。

 拓真は周りの反応を気に留めることなく、もう一度言った。

「自分に、ヒーリングを施してほしい」

 その言葉にフジが言った。

「拓真さん、見てみたいっておっしゃってましたよね? それなら俺がやってもらって見ていたほうがいいのでは」

「見てみたい、とは言ったが、体験したい、というのが本音だ。フジが俺のプライバシーを気にしてくれているのはわかっている。だが、お願いしたのは俺だ。受けるのは俺というのが筋ってもんだろ」

 碧の“癒しの手”にかかると、受けた人の身体の状態がおおまかに碧に伝わる。心の健康のために相談も受け付けるため、心身共に健康になれる。

 だがそれは、受けた人の内面を、心も身体もすべて知られてしまうということだ。

 したがってヒーリングにより得た情報は、漏えいしないよう守られる。プライバシーと拓真が口にしたのはそのためだ。ただし、個々の情報は場合によってはガーディアンズの“影”対策に役立てられる予定だ。

 ガーディアンズのメンバーが見ているなかでヒーリングを施すということは、拓真の情報が、碧が口にしたことについては他七人にも伝わってしまうということだ。

 それを理解したうえで、拓真は碧にお願いしている。そして、その意思は固い。さすが土の長というべきだろうか。

「本当に、いいんですね?」

 碧が最終確認をする。

「ああ。よろしく頼む」

 拓真の同意を得て、ヒーリングは公開で施されることに決まった。

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