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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第四章
15/163

三、

 淵園碧の意識が戻った。


 この報告が入ったのは、二限が終わる三十分ほど前だった。

 すぅ、と小さな透明の球が耳元で弾けると、樹にしか聞こえないくらいの声が聞こえた。これだけ精巧なのは風を操る高度な技術が必要で、もちろん声の主はさらだ。透き通るような声に、くすぐったさをおぼえる。

 二限の後は昼休みのため、昼休みに会議室に集まるよう指示があった。樹はチャイムが鳴ると同時に講義室を飛び出した。


 会議室に入ると、長四人と弦矢は既に話し合いを始めていた。遅くなってすみません、と頭を下げる。

「俺たちが早かっただけだ。気にするな」

 一水(かずみ)に言われる。四回生になると座学は減り、実習が増えるため、実習の課題が早く済めば時間に余裕ができる。弦矢はたまたま空き時間だったのだろう。

 その後すぐに、ほのかと土の領の三回生、土門藤之(ふじゆき)が入ってきた。そこでさらが口を開いた。

「医務室の先生から、淵園さんが意識を取り戻したと連絡がありました」

 何かあった時のために、さらは医務室の先生に気の言伝を預けていた。先生は土属性のため、気の言伝を自ら作ることはできない。

「まだ体調は優れないようですが、特に異常はないそうで、会話も問題なくできます」

 なら、すぐにでも話を聞きに行きたい、と樹は思った。

「ただ、彼女の体調を考慮して、面会は明日にしてほしい、とのことです」

 明日まで待たなければならないのか、じれったい。明日は講義に集中できなそうだ。

 不満が顔に表れていたのか、一水がこそっと話しかけてきた。

「そんな顔するな。意識が戻ったんだ。良い報告じゃないか」

 それはそうだけど。でも、できるかぎり早く話を聞きたい。

 樹の考えはお見通しなのか、苦笑いを浮かべて小声で続ける。

「彼女は女の子だよ。二日間寝ていたんだから、お風呂に入ったりしたいだろ」

 女心をもっと勉強するんだな、と言われ、余計なお世話だと思いながらも頷いた。

「ということで、明日の放課後、淵園さんとの面会の許可を取りましたので、皆さん講義が終わり次第、医務室隣の個室へお集まりください」

 さらの言葉に、頷きと返事が集まる。


「では、私から。今朝、水の女王からお伺いしたお話しです」

 今朝の水の女王からの情報を簡単に説明する。

「淵園さんは、女王様によれば、なにか特別な事情があるようで、無理に聞き出そうとしないでほしいと言われています。聞きたいことは山ほどあるでしょう。私もそうですが、彼女の事情というのは私たちが考える以上に複雑と思われます。明日はそのあたりを心に置いて、質問していただきたいと思います」

 真面目な表情で一水はぐるりと集まった一同の顔を見回す。水の女王様からのお願いに、はい、と返事したのだ。約束を守り、信頼を築いていきたい。


 一水が話し終えた後は、最低限の質問事項を決定し、解散となった。昼休みはあと五分ほど。樹は三限も講義が入っているため、昼食をとる時間はない。なんでもいいから齧っておこうと席を立つと、弦矢がさらと話しているのが聞こえてきた。

「淵園さまは、真面目で几帳面な性格みたいですね。薬草学を受けている方に聞いたんですが、いつも通りの準備がされていたそうです。笹崎先生に聞いてみたら、もう一週間分くらいの講義の実習準備が整っていたとかで、計画的に完璧に薬草の手入れができるなんて、すごいですね! しかも、どの薬草も傷んだり腐ったりしてなくて、先生も驚くほど質の良い状態が維持されていると、褒めていらっしゃいました。ぼくたちと同じくらいの年齢なのに、プロってかんじですね!」

 憧れちゃいます、と興奮気味にまくしたてる弦矢は淵園のことを褒めているが、まだ会議室に残ってその話に耳を傾けていた人は、自分と同じような違和感を覚えているのではないか。

 準備が良すぎる、と。

 一週間分の薬草学の実習材料の準備。それにはそこそこ時間がかかるはずだ。まるで、こうなることを予想していたかのようではないか。

 彼女には、特別な事情だけでなく、特別な能力もあるのではないか。

 これは本人に聞いていいことか否か、樹には判断できなかった。

 とりあえず樹は、これ以上考えるのは止めることにした。悪い方へ思考をまわしたくない、という考えが無意識にはたらいていた。

 一水、紅葉(くれは)、ほのかは、助けてもらったという思いを感じているため、樹と同じように悪い方へと考えることは踏みとどまっていた。しかし、彼らとは異なる角度で弦矢の話を捉えている人もいた。

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