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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十七章

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七、

 夜、とはいっても日が沈んであたりがとりあえず暗くなった頃、守護神は石化した一人目の学生を一人部屋に移し、集まっていた。彼が目を覚ました時、ゼルジアが石にした三人を見たらパニックになるに違いないと考え、移動したのだ。

「ほのか、弦矢、頼むぞ」

 拓真が二人に声をかける。この学生の命が作った解毒剤にかかっていると思うと、拓真の言葉がとてつもなく重く感じられる。

「私は手伝えることないの?」

 口をはさんだのはゼルジアだった。どうしても一緒に来ると言いはって、仕方なく拓真が連れてきたのだ。そのため、実行が夜になったという経緯もある。サングラスをきっちりと装着し、ポンチョのフードでしっかりと蛇の髪を隠している。そしてさらと樹の魔法で姿を見えなくしているので、声だけが部屋に響いた。

「君にできるのは、この学生が生身の人間に戻ることを祈ることだ」

 つまり実質できることはないのだが、直接そう言わないのが拓真の優しさだ。

「わかったわよ」

 むすっと答えるゼルジアだが、見守ることしかできないのはここにいる人のうち半分の人が同じだ。


 解毒剤を作ったものの、学生は石化しているため、そもそも飲ませることはできない。そのため、ほのかが学生の口の中に解毒剤をたらし、右手を拓真、左手をフジが握り、土の力で学生の体内に薬が浸透するように魔力を込める、というのが決定した流れだ。したがって、それ以外の人たちは様子を見守るだけ。

「よし、始めてくれ」

 ほのかが弦矢のほうを見る。弦矢は黙って頷いた。

 石になった口の中に、黄色く輝く液体を少しずつ垂らしていく。学生はぽかんと口を開けた状態のため、入れることはできた。本来なら作った半分くらいしか入らないくらいの開き方だが、口の中に流し込む薬は、すべて石の学生の体内へと吸い込まれていく。少しずつ、少しずつ。

 拓真は、握った右手に自分の魔力を注ぎ込む。解毒剤がこの学生の身体に行き渡るよう、祈りを込めて。

「どうか、元に戻ってくれ……!」

 フジも同じように、力を込める。

 その場にいる人も、祈り、見守る。

 ほのかの持つ小瓶から中身がなくなる頃、学生の身体に変化が表れた。石化して黒に近い灰色だった学生の肌の色が、少しずつ薄くなり、人間の肌の色になってきたのだ。見守っていた人たちは目を見張った。

 目をつむり、手を握って力を注ぐ拓真とフジは、別の変化を感じていた。全く温度を感じない、というより冷え切っていた身体に、温もりを感じるようになったのだ。

 そのまましばらく、拓真とフジが力を注いでいく。見た目だけは、完全に生身の人間になっていた。それでもなお、二人は力を流し続ける。

 と、「うう……ん」と小さな声がもれた。学生の口からだ。

 拓真とフジははっと立ち上がり、握る手の力を緩める。すると学生は、手を挙げて大きく伸びをすると、うっすらと目を開けた。

「うわあ!」

 学生の第一声は驚きの悲鳴だった。

「目が覚めたか?!」

「成功したのか?!」

「身体は大丈夫か?!」

 一気にたくさんの質問をあびさせられ、戸惑う学生。しかもその顔ぶれが守護神であるのだから、驚くのも無理はない。

「た、拓真様?! フジさんと守護神の皆様?! な、なにがあったんスか?! もしかして俺、まずいことやらかしました?!」

 学生は自分が石になっていたことを知らない様子だ。それよりも守護神に囲まれている現状にひどく動揺している。

「身体に異常はないか?」

「へ? いつもどおりっスけど……寝起きだから重いくらいです」

「そうか、よかった……」

 守護神が安堵し喜んでいる状況を学生は飲み込めず、横になったまま困惑の表情を浮かべていた。


 会話も問題なくできることがわかり、その場で事情が説明された。石になっていたと聞き、学生はとても驚いていた。

「何があったのか覚えているか?」

 拓真がたずねると、学生はこう答えた。

「森を歩いてたら、周りを黒っぽい霧? みたいのが渦巻いて、なんだろなーって思ったのは覚えてます」

 それで気が付いたら守護神に囲まれて今に至る、ということだ。その黒い霧というのにマンドラゴラの粉が含まれていて、学生の体内に石になるほどの量が吸い込まれたのだろう。不思議に思ったときにはすでに遅かったということだ。

「人や生き物の気配はしたか?」

「いえ、多分なかったと思うんスけど」

 拓真は他に三人、別の要因で石化した学生がいることも話した。すると学生は、すぐに警備に加わりたいと言ってきたため、数日は様子を見るため医務室で過ごすことを命じた。

 さらに、“影”が碧であるかもしれず、姿を消してしまったことも伝えた。すると学生は、複雑な顔をした。

「あの薬飲むと、身体の固まったところがほどける感じがしてすごくよかったんスけど」

 学生は碧のことを良く思っていたようだ。学生以上に、守護神は複雑な気持ちでそれを聞いていた。

「よかったわね。あの人の石化が解けて」

 学生を医務室に預けて生徒会室に移動する途中、ゼルジアが言った。

「本当に。皆、ありがとう。特にほのかと弦矢、本当にありがとう。おまえたちのおかげだ」

「お役に立てて光栄です!」

「安心して腰ぬけそうです……」

 ほのかが嬉々とした返事を、弦矢は気の抜けた返事をした。正反対の反応に、拓真は思わず笑顔になる。しかしすぐに、きゅっと引き締めた。

「後の三人はどうしたものか」

 どうしても答えが見つからない。かといって、ゼルジアを殺すことはできない。約束したのだ。その選択肢はない。

「さっきみたいに、石の人に魔力を送り込んでみればいいんじゃないの?」

「それではだめなんだ」

 ゼルジアの意見は最もで、実は既に試していた。しかし何も変わらなかったのだ。ゴルゴンの瞳を見たことによる石化に、解毒剤はない。ひとりの石化が解けて一歩進んだはいいが、次の一歩を踏み出せない。返事に悲痛がにじんでしまう。

 “土の宝玉”があれば。

 何度もそう思った。それがあれば、なんとかなるかもしれない。しかし自分の前には、一水(かずみ)やさら、紅葉(くれは)のときのように、救いが表れない。自分にその土の宝玉を受け取る資格がないからだろうか。そもそも土の宝玉でどうにかなると考えていること自体が甘えなのか。

 それでも、解決の糸口は土の宝玉にしか見出だせなかった。どうにか手にして、試してみたい。

「土の王にお会いできれば……」

 つい、心の声が口から出てしまった。

「それなら私が微力ながらお力をお貸ししましょう」

 突然聞こえた声の方向――前へ神経を集中し、ゼルジアをかばう。

「おっと、そんなに警戒しないでください」

 弦矢が光で前を照らすと、そこには知っている顔の人が立っていた。

「大蔵先生?」

 先生は、にっこりほほ笑んだ。

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