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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十七章

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六、

 翌日、禁書庫で解毒剤の調合方法を完璧に暗記したのを確認したほのかと弦矢は、療養室を訪れていた。調合前に腹ごしらえ、と昼食をとっているところだ。

 朝一番に禁書庫へ向かったはいいが、目当ての本がすぐには見つからず、遅くなってしまった。悪用をおそれ、禁書庫の本は並びが毎日変えられているらしい。

 時間をかけてやっと見つけだし、二人で調合方法を暗記し終えたのを確認したときには、もうお昼の時間になっていたのだ。

 ほのかは弦矢に打ち明けた。

「ええ?! マンドラゴラの花をこっそり持っていた?!」

「しーーー!!」

 他に誰もいない部屋の中に、弦矢の声が響く。誰もいないけれど、思わず止めてしまった。

「それ、違反行為ですよ?!」

 弦矢は声のボリュームを落として言った。

「だって、花の効力を研究するのに近くに置いておきたかったんだもん。もちろん自分でどうこうするつもりなんてなかったよ」

 ほのかはマンドラゴラの根を切った葉から上の部分、花も咲いているものを、周りの目を盗んでこっそりと部屋に隠し持っていたのだ。花がかわいいから、というのも理由のひとつではある。熱の力で鮮度をそのままに保っていたため、花は満開、たくさん咲いたままだ。

「ほのかちゃん、それ、見つかったら厳重注意では済みませんよ」

 呆れ半分、責め半分で、弦矢ははあっと白い目でほのかを見る。

「ほら、でも、あってよかったでしょ。おかげで薬作れるんだよ! 結果オーライってことで!」

 ね、ね、と弦矢を説き伏せる。悪いことであるとはわかっていた。

「みんなには内緒にしてくれる……? 特に、お姉ちゃんには」

 こんなことがばれたら、守護神メンバーに何を言われるか。いや、まず自分も守護神であり学生のトップクラスにあるのに悪いことをしていたとなれば、大事(おおごと)だ。そしてなにより、姉である紅葉(くれは)にばれるのは怖い。

 弦矢はなにか言いたそうだったが、懇願するほのかを見てまたまた長い溜息をつくと、「今回だけですよ」と見逃すという意味の返事をくれた。

「弦矢君、神いいいい!!!」

 これ以上なにを言っても無駄だと悟った弦矢はもう責めるのはやめ、ご機嫌に昼食をほおばるほのかにならって食事に手をつけたのだった。


「準備はいい?」

 食後。

 材料と器具、すべてを揃え、調合を始める。療養室は薬を作る機材はすべて揃っているし、碧が姿を消してから近寄る者はいない。本来は許されない薬の調合をするにはぴったりの場所だ。

 室内には昼食時のような緩い雰囲気ではなく、緊張したぴんと張りつめた空気が詰まっている。なにせ、失敗はできないのだ。マンドラゴラの花はこれしかない。他の材料はあっても、花だけは入手できないのだ。二人は集中し、何度も何度も確認しあいながら、解毒薬を作っていった。

 そして――。

「できた」

 静かにほのかが言った。ほのかの手には、黄色っぽく光る液体が入った瓶が握られている。

「できましたね」

 弦矢も、ほのかの持つビンの中身を見つめる。そして、二人で顔を合わせ、ぱああぁっと顔を輝かせた。

「「やったーーーーー!!!」」

 抱き合って喜ぶ。興奮が抑えられない。

「ああっ! ほのかちゃん、薬こぼれちゃいますっ」

「おっと、大変!」

 へへへっと笑い、大事に大事に、できあがった薬の瓶をかばんにしまった。

 できただけではだめ。実際に使って、石化した学生をもとに戻さなければ意味がない。けれど、解毒剤が完成したことを喜ばずにはいられなかった。

 気が済むまで喜んだあと、落ち着いて、解毒剤ができたことを弦矢に気の言伝で守護神メンバーに伝えてもらう。すぐに返事が来て、今夜、解毒剤を学生に飲ませることに決まった。

「うまくいくといいですね」

「絶対うまくいくよ。二人でがんばったんだもん!」

 自信たっぷりに言い切るほのかに、弦矢はふっと笑う。

「そうですね」

「花のことは内緒だからね」

 釘を刺すように言ってくるほのかに、今度はくすくすと笑いがこぼれ出る。

「わかってますよ」

 もう夕方になっていた。景色がオレンジ色に、温かく包まれていく。この夕日のように、できた薬が石になった学生を包み、体温を戻してくれますように、とほのかは祈る。


 きっと大丈夫。今見えている景色は、こんなにきらきらしているのだから。

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