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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十七章

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五、

 拓真が部屋に戻るほどの時刻になってもまだ、ほのかと弦矢はマンドラゴラの解毒剤の材料を発掘していた。

「弦矢く~ん、見つかったー?」

「見つかりません」

 はあ、と二人同時にため息をつく。

 解毒剤の材料と作り方がわかり、作り方はもう一度、明日確認しに禁書庫へ行く予定だ。そのあとすぐに調合を行えるよう材料をそろえておこうと動いたものの、一番肝心なマンドラゴラの花が見つからないのだ。

「他の材料は全部見つかったのにぃ、なんで~」

「それは、扱いに細心の注意が必要で扱うには資格がいるのですから、当然でしょう。そう簡単に見つかっては困ります」

「今は見つからないと困るの!」

 薬草学の準備室は探しつくし、温室にやってきた。花は見つからない。

「あとは、療養室、だよね」

「……はい」

「行ってみよう!」

「え?!」

「もともとあれを扱えるの、学内で碧さんくらいだったんでしょ? それなら、あるとすればあとは療養室くらいじゃない」

「そうですけど……」

 弦矢はあまり気のりしないようだ。

「やなの?」

 弦矢も碧を信頼していたのに“影”かもしれないとなったら、碧の話題に触れるのはタブーという暗黙の了解に屈してしまっていた。それはほのか自身も同じことを自覚している。だからこそなのか、弦矢のことががいらだちを覚えさせる。つい八つ当たりのように不満な声が出てしまう。

「碧さんの大切に保管していた薬棚をいじるのは、少し気が引けて」

「え」

 しりすぼみに声を小さくする弦矢。

 弦矢はタブーのことでなく、碧の居場所に勝手に入ることを気にしていた。考え直すべきは自分だと、ほのかは反省する。弦矢はいつも人のことを思っているのに、自分はあのときに考えたこと、そして行動した結果である現状を認めずに正当化しようとしている。

 本当に正しかったのか。間違っていたとしたら? 怖い。

 でも今は、過去を悔いている時間はない。前へ進まなければ。反省は、そのあとだ。

「ごめんね、弦矢君」

 蚊の鳴くような声で、謝罪の言葉を口にする。

「?」

「弦矢君! 碧さんはきっと、私たちなら療養室に入っても棚をいじっても許してくれるよ! 今私たちがすべきことは、解毒剤の調合。それに集中しなきゃ! だから」

「行きましょう」

 最後まで言う前に、弦矢がほのかの手を掴んで歩きはじめる。とても力強かった。


 温室から療養室まではそう遠くない。しかし現在はゼルジアは保護されたが念のためいまだに土の領は、夜は通行禁止にされている。その中をこっそり二人で突っ切る。ひとりだったらどれだけ心ぼどかっただろう。けれど今は弦矢が一緒だ。怖くない。なんだかほのかには、弦矢の背中がほんのりと光って見えた。

 療養室の前は、碧が消える前とまったく変わらない。でもとても長い間来ていなかったように思う。

 弦矢はどこからか鍵を取り出し、鍵穴に差し込んでがちゃりと開ける。扉を開くと、いつもと同じ、薬草のにおいが鼻をくすぐった。

 薬棚には粉状や液状の薬の材料が入った小瓶がぎっしりと並べられている。ほのかはすぐにマンドラゴラの根の部分を粉末にしたあの黒い小瓶を見つけた。前に見たときはいっぱいだったのに、今は半分以下の量になっている。

 やっぱり、一人目を石にしたのは……。そんな考えが頭をよぎる。ぶんぶんと頭を振って、その考えを追い出す。

「お花、ないですね」

 しゅんとした声で弦矢が言った。

 そもそも療養室には目を楽しませるために飾る花しか普段は置かれていない。薬の材料はすでに加工された状態でこの棚に並べられているのだ。

「!」

 ほのかははっとした。そうだ、もう既に使える状態になってここに置かれているのではないか。一緒に採取したのだから、ないはずがない。

「ねえ、お花は加工して、液状になるんだよね?」

「たしか、そうです」

 作り方に、花は聖水と蒸発させて成分をぎゅっと凝縮し、液状にするとかなんとかあったはずだ。それならば。

「色は?」

「透明だったかと」

 とろみのある透明の液体。それが、花を加工したもの。その状態で、ここへ置いてあるはずだ。

 ほのかは透明の液体が入った小瓶をすべて取り出し、マンドラゴラの根の粉末をオブラートに少しとる。そしてそれぞれの小瓶の中身をスポイトで一滴ずつ粉の上に落としていく。すると、三本目の小瓶の中身を落としたとき、黒い粉がするすると溶けてなくなった。

「これだ!」

 わあ! と二人で手を取り合って喜ぶ。それは比較的見やすいところにあった瓶だった。隠してあるかと思って、奥にあるものから試していたが、そうではなかった。

 もしかして、わかりやすいように出してくれてあったのか。希望的感覚ではあるが、そう思わずにはいられなかった。

「ほのかちゃん、でも、これでは足りない気が……」

 弦矢が小瓶を見ながら言う。たしか必要なのは小さじ三杯くらいの量だ。ここにある瓶の中身では、見た目で小さじ一杯くらい不足していそうだ。

 どうしよう、と悩む弦矢に、ほのかは元気よく言った。

「大丈夫! それくらいなら、きっとなんとかなる!」

「どういうこと?」

「とりあえず、材料はすべてそろったんだから、今日はお開きにしよっ。明日が本番だよ」

「え、でも、足りないよ」

「大丈夫だって。ほら、帰ろ。明日は一限に図書館ね」

「??」

 意味がわからない、という顔をしながらも、弦矢は背中をほのかに押されて療養室を出る。鍵をかけたのを確認すると、今度はほのかが弦矢をひっぱってそれぞれの領へ帰って行った。

 早ければ明日、薬を作って一人の学生を救える。そう思うと、暗い闇に明るい道が浮かんで見える。帰り道は、少しも怖くなかった。

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