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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第三章
11/163

四、

 水の流れに乗って駆けてゆく海馬。向かうは、学園の水の領にある泉。

 入り江に向かったときと同じように、身体と水の間に層を作り海馬の背にまたがっている。違うのは、一緒に乗っているのが淵園ではなく、ほのかだということ。ほのかはまだ気を失っている状態で、陸に上がれば目覚めるという。淵園は隣で来たときの海馬に乗っている。

 一水(かずみ)は、海馬の背で水に揺られながら、様々なことに考えをめぐらせていた。


 あの後――自分が水の鉾を水面から抜いた後は、水の女王と淵園の会話の時間だった。

 境界線がもとに戻ったと言われても、自分には実感がない。ただ鉾を水に突き刺して力を込めただけであり、どうなったか目で見たわけではないのだ。現状を理解できずに、ただ二人が話すのを聞いていた。

 一水が鉾を突き刺した瞬間、侵略されていた境界部分の海が二つに分かれた。そして、侵略される前の場所まで、メローの領域に分かれ目を押しやった。侵略されていた人魚側の領域は広がり、もとどおりとなった後、分かれた海が再びひとつとなった、というのだ。

 メローたちは、自分たちの領域が押しやられたことで海の怒りに触れたと考え、侵略をすぐにやめたという。海に棲む者は、海の持つエネルギーがあってこそ生きていられる。海から見放されてしまえば、あとは滅びるのみ。メローたちはそれを恐れたのだ。

 おかげで境界はもとの位置にもどった。“暗黙の了解”は今後も保たれるだろう、というのが女王様のお考えだ。

 メローと人魚を騙した黒幕は、人間を襲うのになぜ人魚を選んだのか、という女王様の疑問には淵園が答えていた。

 もともと“悪”に分類されるメローよりも、“善”に分類される人魚に人間を襲わせるほうが、“善”を好む人間にとって影響が大きいこと。

 本来、“水”を司り“水”に属するものすべての生き物の中立にあるべきクラウディアが人魚という種族として人間やメローと対立した場合、“水”だけでなく他の四大元素や“善と悪”の平衡が大きく崩れること。

 それ以外の内容は正直よく覚えていない。

 気付けば、女王様が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

「一水さん、今回は本当に申し訳ありませんでした」

 胸に手を当てて俯く女王様に、一水は何も言葉を返すことができなかった。

「お詫びといってはなんですが、あなたに、その水の宝玉を授けます」

 “水の宝玉”というのがこのサファイヤだということはすぐにわかった。

「このようなものをいただくことなどできません!」

 一水は焦りながら答える。こんなに大きな力を秘めた宝石をいただくわけにはいかない。

「一水さん、あなたはこの水の鉾を持つ者として、認められました。これは大きな力を持ち、選ばれし者にしか使えません。あなたは、この石に、これが秘める力を使う資格を持つ者として認められたのです。今回の黒幕は何者かわからない以上、今後何が起こるかわかりません。必要になるときが必ず来るでしょう。どうか、お受け取りください。今回、私憤を抑えることができずにあなたの大切な人に手を出した、個人としてのお詫びと、“水の女王”として誤った行動をとった女王としてのお詫びとして」

 一水は、考えた末、「ありがたく、頂戴いたします」、そう答えた。

 こうして一水に託されたサファイヤは今、一水の胸元でネックレスとなり神秘的に光っている。これが必要となるときは、人魚やメローを操った誰かが、また人間を襲おうとするときだろうか。

 悪い想像は絶えない。だが、その気持ちを大きく上回る達成感が、一水の心を充たしていた。事件をなんとか解決し、紅葉との約束を守ることができたのだ。


 少し気になることをあえて言うならば、女王様が呼んでくださった二匹目の海馬に乗り、別れるときのこと。

 女王様が一水に、「またお会いしましょう、名探偵さん」と言ったことだろうか。

 “名探偵さん”か。

 聖なる入り江での言動を思い出し、苦々しい気持ちになる。

 事件を解決したときの探偵の気持ちは、今の自分とは違うだろう。一水はとりあえず誤解を解いただけであって、根本的に事件の犯人――黒幕のしっぽをつかめていないのだから。

 海馬にまたがり水の流れに揺られながら、一水は、水を通して見えるずっと先の光を見据えていた。

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