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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十六章
108/163

五、

 翌日、碧が休学になったことが掲示板を通じて公表された。休学の意味を、ほぼすべての学生が同じように解した。

 淵園碧が“影”だった、と。

 無理もない。前からそのような噂が流れていたのだ。それを守護神の活躍によって暴きだし、現在“影”、こと碧は捕らわれていると思われている。

 “影”が捕まったから安心したのか、学内の雰囲気は初めこそざわついていたが、情報が全体に広まるとだんだんと緩んでいった。


 さかのぼること今朝八時半、一限が始まる前の時刻に、守護神は学長のもとを訪れた。一水(かずみ)が代表してことの概要を説明したところ、碧は休学扱いするという返答を得た。

「休学、ですか」

 停学や退学、ではなく、休学。

 なぜなのか。一水が問うと、学長の返答は一言、碧が“影”と決まったわけではないから、だった。

 停学は学園から強制的にさせられ、退学は当人または学園からの決定どちらかがある。かわって休学は、当人の希望によるもの。学長に、碧を辞めさせる気はないようだ。


 たしかに、碧は自分が“影”だと疑われ、肯定も否定もしていない。だから誰も、学長の決定に反対できなかった。

 碧の休学が決定した後、一水は学長に聞いた。

「学長、四大元素以外に、第五の力は、あるのでしょうか」

 守護神が学長室に入ってからずっと、デスクのパソコンの上で動かし続けていた手が止まる。

「例えば、弦矢のように風の属性でも光を扱うのに長けている能力者がいます。どれかの力の、間に立つような力があるのでしょうか」

 あくまで静かに、それとなく、五つ目の力と中立をうかがわせる言葉を巧みに操り、たずねる。

 突然名前をあげられた弦矢はびくりとした。他の人も、一水が急に言い出したことに驚いている。

「能力の幅は広い。四つのカテゴリーに分けているのは我々人間だ。他にあってもおかしくはない。気になるのなら、調べてみるといい。君たちは禁書庫の本を読めるはずだろう」

 学長はまた手を動かし始める。

「今君たちが最も優先すべきことは、石化した生徒を救うことだ。最善を尽くせ。先生方も、知恵を絞ってくれている」

 それきり学長はなにもしゃべらなかった。守護神は学長室をあとにする。会議のために生徒会室に移動した時には、碧の休学はすでに知らされていた。


 生徒会室の席に着く。ひとり分の椅子がない。

 碧が“影”だかどうかには触れず、拓真が話を進める。

「学長のおっしゃるとおり、我々が優先すべきは石化した学生を救うことだ。マンドラゴラによるものと仮定すると、解毒剤がきっとあるはずだ。それを調べたい。マンドラゴラでなければ、まだ森の中に解決つながるなにかがあるはずだ。夜の警備は危険を覚悟で続けたいと思う」

「はい!」

 一番にほのかが手をあげた。

「解毒剤について、私に担当させてください。薬草学で知識はそれなりにありますし、調合もできます。書庫で調べます。弦矢君も、手伝ってくれるよね?」

「え? ぼく?」

「図書館、使い慣れてるでしょ。調べごとは人が多い方がいいし」

 水を向けられて戸惑う弦矢を気にも留めず、ほのかは続ける。

「ということで、解毒剤は私と弦矢君を中心に行動してもよろしいでしょうか」

 ほのかが弦矢の同意を得る前に話を進めようとするため、拓真が弦矢に目配せする。弦矢は目をぱちくりさせながらも、細かく何度も頷いた。

「では、二人に頼もう。もちろん他の人も協力するが、悪いが我々長は他にも学生を治めるのに力を注がなくてはならない。よろしく頼む。森の方よりも解毒剤の研究に力をいれてくれ」

 弦矢の同意を得て、拓真は正式に二人に研究を依頼する。二人は「はい」と改まって返事した。


 ほのかはなぜか、マンドラゴラの解毒剤を作る使命感でいっぱいになっていた。碧が薬を調合するのをずっと見てきたからだろうか。一緒にマンドラゴラの採取をしていたからだろうか。自分がやるべきことだと思っていた。

「警備のほうは、今夜、自分と一水とさらさんで行おう」

 その言葉に、呼ばれた二人は同意したが、フジと樹も声をあげる。

「自分もやります!」

「自分も!」

 ほのかと弦矢は解毒剤研究への集中が決定した。

 だがフジと樹はなぜ警備に名が挙がらないのか。

「だめだ」

 拓真は二人の意見をばっさり切り捨てた。

「自分も土の領生として、警備にあたります」

「長が三人では、もしものことがあったときに混乱するのは確実です」

 フジと樹は食い下がる。

「二人とも落ち着け。拓真の指名には意味があるんだ」

 ここで二人を制したのは、同じく名が挙がらなかった紅葉(くれは)だった。

 そうだろう? という視線を拓真に送る。拓真はうむと頷いた。

「樹がもしものときと言ったが、本当にそうなった場合、俺とフジの二人がいなかったら土の領はどうなる?」

「「あ……」」

 守護神のうち土属性の人が誰もいなくなれば、土の領生の不安は大きく膨らむ。

「一水とさらさんの場合も同じだ。水の領のお前は必要だ。風の領も、儀式で分かったとおり、おまえなら頼れる」

 一水が真剣な眼差しを、さらが信頼の目線を樹へ向ける。


 学長室から生徒会室に移動する前に、一同は中央棟に立ち寄っていた。儀式をするためだ。対象は樹。

 結果、ダイヤモンドとサファイヤ、ルビーが光った。特にダイヤモンドが一番の輝きを放ち、サファイヤとルビーは同等、どちらかといえばサファイヤが強めの光を発していたのだ。儀式の結果を踏まえれば、拓真の指名は筋が通っている。

「逆に考えろ、二人とも。長三人が一つになっても頼りないと思われる程度なのか?」

 心強いことこのうえないが、心配なものは心配なのだ。しかし、このように言われてしまえば、二人とも引き下がるしかなかった。

 こうして任務が決定し、長四人は警備の調整、ほのかと弦矢は解毒剤研究、フジと樹は臨機応変に諸所の業務に対応することになった。


 ほのかと弦矢が解毒剤について調べているなか、樹は第五の力に関する書籍がないか、片っ端から漁っていった。学長室での一水と学長の会話は、石化を解くことに頭がいっぱいになった他のメンバーからは忘れ去られていた。

 その日、解毒剤の情報は得られず、樹も第五の力にかすりもせずに終わった。解毒剤のほうはとにかく本がないのだ。貸出されていないため、館内で使用されていることしか考えられないのだが、閲覧スペースが多いので一人ひとりにあたって探すわけにもいかない。そもそも迷惑だ。戻されるのを待つのが得策ということになった。

 図書館での研究に進捗はなかったが、日が暮れて夜、警備の方に大きな進捗があった。

 碧のことに触れる者は、誰もいなかった。

 碧が“影”だと、守護神のなかでも固定しつつあることに、誰も気づいていない。

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