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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十六章
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四、

 視界が開ける。押された身体のバランスは修正できずに前へつんのめった。

「うわ!」


 ごん!


 なにか固くすぎずやわらかくもないものと額が衝突し、尻もちをつく。

「いった……」

 なんなんだよ、まったく。もっと優しく押してほしかったよ、シエル。

「それはこっちの言葉だが」

「へ」

 見ると、そこには向かい合って尻もちをつく一水(かずみ)の姿があった。額を抑え、樹を睨みつけている。樹は自分が正面衝突したのだと気付く。

 うっすらと涙を蓄えて額を抑える一水。これはなかなか見られない。

「お前が碧を追ってアーチに入って、それを俺が追って、でも何も掴めなくて、で、なんだ? いきなり衝突してくるなんて、随分じゃないか」

 体を起こして服をぱん、と叩き汚れを落とす一水。一通り終わると、きちっと樹に視線を向ける。長い間妖精の森にいたと思ったが、一水たちにとってはほんの一瞬だったらしい。どの時間に帰ってきたのかわかった。

 一水だけでなく、そこにいる守護神メンバーも樹を見つめている。その眼差しが、樹がアーチへ入った前と後で、大きく変わっている。

「何があった?」

 一水が聞いている対象が、樹はすぐにわかった。他のメンバーも同じことを思っている。樹が変わったことに気付いているのだ。

「一瞬四季の森のようなところに出た、ような、気がします。すぐに風に押し出されたと思ったら……」

 樹は右手を持ち上げる。

 その手のひらの上には風がうずを巻いていた。

「こうなりました」

 本当の詳細は話さなかった。どこまで話すべきかわからなかったからだ。

 とりあえず、自分がアーチから戻ったら“風”の力を得ていた、と伝わるように話す。さも自分自身さえ戻ってきてから気付いて驚いている、かのように。

 一水や拓真は黙って樹を見つめ、さらや紅葉(くれは)たちは驚きを隠せず目を見開いている。それはそうだろう、樹は三つ目の力を持つことになったのだから。

「ともかく、今夜は戻りましょう。学長への報告は明日一番で」

 碧が消えてしまった以上、もうどうすることもできない。落ち着いてから話した方がいい、という判断での一水の言葉に、皆が賛成した。


 胸にもやもやするものを抱えたまま、寮へ帰る。解散のとき、守護神は浮かない顔をしていた。

 樹も一水と寮まで歩いていった。二人は無言だった。樹は一水に、風の力のことを根ほり葉ほり聞かれるものかと思ってたため、何も言ってこないことに安心していた。

「では今夜はここで」

 水の宮の前で、お疲れ様でした、と続けようとする。と、一水に引き留められた。

「入っていけ」

 命令口調。断ることをさせない圧力がある。

 樹は数秒悩んだが、はい、と答えて部屋へ入った。

「何があった」

 座れと言われてソファーへ腰を下ろすと、戻ったときと同じことを聞かれた。

「何って、さっきお話ししたとおりです」

 言葉だけであれば、樹の言ったことは嘘ではない。

 四季の森そっくりの場所に行き、押し返された。実際は妖精の森に行き、シエルにアーチに入った直後の時間と場所に戻されたのだ。

 戻ってきたときには風の力を得ていた、というのも嘘ではない。実際に力を試したのもさっきが初めてだ。

「嘘だな」

 しかし一水は、樹の話を嘘と断定した。

「四季の森らしいところ、というのは碧の育った妖精の森で間違いないな」

 一水がじっと樹を見つめてくる。

「お前があの一瞬で風の力を得たのも不自然だ。妖精の森に視界に入れただけですぐに戻ってきたのなら、風の力を得るほどの妖精の影響を受けるとは考えにくい」

 一水は「違うか?」と視線を向けてくる。樹が一瞬よりも長い時間、別の次元にいたことをおそらくわかっている。一水は、“あの日”のことを知っている。わかっていてもおかしくない。

「何を隠している?」

 突き刺さる視界から逃れようと目を伏せる。もう嘘はつけない。樹は小さく息をついた。

「一水さんの考えるとおりですよ」

 話さないほうがいい、と言われたエメラルドのこと以外、すべて話した。

 森の女王に会ったこと、“あの日”の真実、シエルのこと、自分の力のこと、忠告とヒント。

 樹がひととおり話し終えても、一水はしばらく黙ったままだった。

「森の女王からのヒントについては、守護神で情報を共有した方がいいだろう。五つ目の力と中立、か。それは解決の鍵になるだろう。どうにか俺から伝えてみる。他のことは一切口外しないから、安心してくれ」

「ありがとうございます」

 森の女王からのヒントをどう伝えるかは、樹も困っていた。一水がそれとなく言い出してくれるなら、ありがたい。

「礼を言うのは俺のほうだ。話してくれてありがとな。いや、無理矢理話させて悪かった」

「いえ、そんなことは」

 強制的に話をさせられたことは確かだが、それによって少し樹の気持ちは楽になった。隠すのはあまり気持ちがよくない。独りで抱えるのは、エメラルドのことだけでいい。

「引きとめて悪かった。もう帰っていい。よく休め。明日は忙しくなる」

「では、失礼します」

 明日のために、体力と精神力を少しでも蓄えておかなければ。

 樹は自室に戻ると魔法で身体を綺麗にし、そのままベッドに倒れ込んだ。ぱんぱんの頭が重い。寝ながら整理しよう。

 寝ながら整理をする前に、樹は夢の世界へ入った。

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