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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十五章
103/163

五、

 日が落ちる頃、赤い光と金色の光が折り重なり、幻想的な光景を作り出す。

 黄昏。

 美しい時間で一瞬にして消えさえるその時は、他の世界や次元とつながる扉でもある。

 逢魔(おうま)時間(どき)

 その光と闇の隙間から、魔が入ってくるとも言われる。

 美しいものは、恐ろしくもある。相対して存在する。

 美しい薔薇には棘がある、という言葉があるように。


 そんな時間帯、一水(かずみ)と樹は碧がいる療養室へ彼女を迎えに来ていた。護衛という名目の監視をさせていた警備隊員には、引き上げてもらった。碧は今日一日、療養室からほぼ出ていないと聞いている。一日分の業務も、そろそろ終わる頃合だ。

 扉を叩こうとしたところ、がちゃりと扉開いた。

「あ……、一水さんに、樹くん」

 出てきた碧は帰り支度をしっかり済ませてある。それにしては荷物がいささか多い気もするが、半強制的な謹慎により一日分の資料や材料が詰め込まれていると思えば、それは致し方ない。

「わざわざお出迎えなんて、申し訳ありません」

「いや、こんなときだから。しっかりと護衛するよ」

 いつもどおりに振る舞い、自然にエスコートする一水。

「ありがとうございます」

 護衛でなく監視であることに碧も気づいているようだ。昼間からそうだったのだから、当然なのかもしれない。だがそれに気づいていない体を装って、碧は頭を下げる。


 療養室の扉に鍵をかけるのを確認し、正門へと歩き出す。

 いつもより大きめの荷物を代わりに持とうとするも、樹は断られてしまった。

 そのまま歩いていくと、土の領の森で、他の守護神メンバーと出くわした。さら、紅葉(くれは)、拓真、フジとほのかに弦矢、全員揃っている。

 日が沈むなか、皆の表情も陰ってみえる。

「あら、みなさん。お忙しいなかなにもご協力できず、すみませんでした」

 特に動揺も見せず、いつもどおりの挨拶を交わす。

「いや、いいんだ。門まで同行しよう」

 そのあとは何気ない会話でなんとかほのかと弦矢がその場をしのぐ。


 そして、森の出口に差し掛かったころ、拓真が切り出した。

「学内で流れている噂は、耳にしているか?」

「はい、嫌でも入ってきてしまいます。緊張がひしひし伝わってきました」

 碧は足を止めることなく即答した。

「我々も、対応に困っているんだ。このままでは、学園祭でせっかく取り戻した平衡が再び崩れてしまう」

 碧は無言で先を促す。拓真は碧の前を歩き続ける。

「だが、学生たちに正面きって反論できないのも事実だ。あまりにも辻褄が合いすぎている」


 ぴたり。


 ちょうど花のアーチの前で、碧が足を止めた。学園祭のとき、土の領の四季の森の入り口として使われたアーチだ。

「つじつま、ですか」

 ひとり言のように、碧が反芻する。

 拓真が振り返る。碧を見据えて、問う。

「確認したい。君は、“影”なのか?」

 オブラートに包むことなく発せられた拓真の言葉。その声には強い力が込められている。

 アーチの前に立つ碧を、守護神が囲むように半円を描く。八人の姿は、碧の目にどのように映っているのだろう。樹は、自分がどんな顔をしているのかわからなかった。

「答えてくれ」

 拓真が急かす。

 碧は前を向いていた目を伏せる。ふう、と息をついた。

「そのように決められてしまったのでは、もうここにはいられませんね」

 哀しい色だった。

 その言葉を肯定ととるか否定ととるか、悩む一瞬の隙だった。

「お世話になりました」

 とん、と地面を軽く蹴って後退した碧は、そのままアーチのなかへ溶け込み、音もなくすうと消えた。

 アーチを見ると、消えかかる夕日がなんとかアーチを照らしている。

 意識が戻る。

「碧?!」

 樹は無意識に走り出していた。ほのかに光るアーチに手を伸ばし、くぐる。

「樹?! 待て!」

 一水の声が後ろから聞こえた気がしたが、足は止まらなかった。


 一水はアーチのなかに手を伸ばしいれたが、掴んだのは虚空だった。その先には闇が待っているだけで、いつもと同じ夜の景色が見えている。なのに、向こう側にある闇は、こちら側にあるそれとまったく異なっている。人の進入を拒否している。

 辺りはすっかり暗くなり、七人だけ、その場に残された。

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