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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十五章
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二、

 夜の森。

 ゆっくりと見て回る。


 昼間、光が降り注ぐ中を散歩していても、こちらを優しく見守ってくれているようにしか感じないのに、夜は闇の中にそびえたつ木々が行き先を防いでいるように思えてしまう。得体の知れないなにかが潜んでいるかもしれない、という先入観がそう思わせている、というのもひとつある。さらに今夜は新月、月の光もない。変わりに星々が懸命に自己主張をしているが、生い茂る木の葉と枝の中にまでは伝わってこない。

「こちら、以上なし」

「こちらも」

「こっちもです」

 回復してパトロールに参加し始めた拓真に続き、一水(かずみ)、弦矢が様子を伝える。懐中電灯は持っていない。弦矢の力で周囲を明るく照らしているからだ。

「碧、なにか感じるか」

「いえ、特になにも……」

 四人をぼうと光が包みこむなか、森を移動する。

「向こうのグループは大丈夫そうだな」

 異常があれば気の言伝で伝えられることになっている。もう一つのグループは、樹と風、火、土の領生の警備隊員だ。


 今朝、拓真は碧の診察を受け、復帰を勝ち取った。無茶はしないこと、悩み事は抱え込まずに打ち明けることなど、さんざん注意事項を言われているのに、嬉しそうにそれを聞く拓真の様子は見た目と不釣り合いで、見ていた男どもにはほほえましく映っていた。

 現場に復帰したその日から夜のパトロールに参加したいという拓真を碧は止めたが、拓真は頑として譲らなかった。結局碧が折れて、拓真はリハビリの名目でパトロールに参加している。

 本来ならば三人一組の三班で見回りをするのだが、拓真が回復したばかりのことと、異変がないかを見てほしいことと一水が理由をつけ、碧には拓真の班に参加してもらうことになり、四人一組の二班で行動している。理由はもっともで碧も納得してくれたが、事情はほかにもあることを、彼女はまだ知らない。

 もしなにかあっとしても――もちろん、なにもないことが一番だが――守護神と同行していれば碧が妙な行動をとればすぐにわかる。ただ一緒にいただけでなにも起こらなければ、“影”が碧である、という疑いを晴らすこともできる。なにも起こらないのが望ましい。碧が“影”でないことを証明するひとつの要因となるからだ。


 弦矢が照らす範囲は、そう広くはない。自分たちの周りだけがぼうと明るく、まるで闇の中に浮いているようだ。

「このあたりも問題ないですね」

「ああ」

「こっちもです」

 見回りを始めてからそろそろ一時間。引上げようと気の言伝で樹に伝えてもらおうとしたときだった。

 ばっ、と碧が振り返る。見つめるのは樹たちの班がいるであろう方向だ。

「どうしました?」

「なにか、あっちに」

 弦矢の問いにはろくに答えず、真っ暗な森の中に碧は駆けこんでいく。

「あ、ちょっ、碧さま?!」

 弦矢も後を追って走る。一水と拓真も追いかける。もう弦矢の力は届いていない。

 辺りは闇。一足踏み込めば、そのまま呑み込まれてしまいそうだ。森とは、これほど恐ろしい場所だったのか。

 考えている暇などない。拓真は地面から伝わる振動を追い、一水を案内しながら進む。


 どうか、なにも起こらないでくれ。


 そう祈ったのもつかの間、叫び声があがった。

「うわああああぁぁぁぁ!」

 声のもとへ走る。そこは、弦矢の力で照らされていた。


 ざん……


 風が虚しく通り過ぎる。

 照らし出されていたのは、樹と一緒にパトロールをしていた警備隊員三人の、石と化し、鈍く光る姿だった。

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