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私と膝の上で眠る君

作者: ぶちハイエナ
掲載日:2018/02/14

 通勤通学や遊びに行ったりする前に読むと、気分が落ち込む方がいるかもしれません。

 短くて心に訴えかけるような作品でもないですが念のためご注意ください。


 私と君はこの家で出会った。


 学業を終業した後、都会で働いていた私は過酷な労働に耐える事が出来ずに体を壊してしまった。

 生まれ育った田舎に帰るが、実家には帰る事が出来ず、祖父母が暮らしていた高台に立つ一軒の家を宛がわれた。

 祖父母の家には幼い頃に行ったきりで私の記憶にはおぼろげにしか残っていない。

 田舎に戻ってきた時に不便だからと買った安くて古ぼけた軽自動車でその家に向かう。

 その家は台風でも来れば飛んでしまうのではないかと思えるほど古ぼけており、とても住む気にはなれず家に入ることすら躊躇する。道路に面した反対側に玄関も庭もあるという不便さも私がここに住むのを戸惑わせる。

 家に入る気が起きずにいると家の反対側で物音がする。

 物音が気になり庭に出ると私の気持ちが翻る。

 眼下に望む景色は今から風景画を描きたいと思えるほどに美しかった。

 家と自然が絶妙に配置されたかのように並んでいて、その向こうには海が広がる。

 その景色が季節の移ろいをどう表現してくれるのかと思うと胸が高鳴ってしまった。

 そんな期待に胸を膨らませているときに、物音の原因でもある君が私の前に現れた。


 突然私の前に現れた君に驚いてしまったが、田舎では急に敷地の中に現れるのは珍しくもないのかもしれない。

 目を丸くしている私の気など知らないように、君はこの庭の日当たりのいい場所を選ぶとすぐに横になる。

 その首には誰かと住んでいる証はなく、その体は白く、体は細いのにどこか力強ささえ感じてしまった。


 それが私と君の出会いだった。


 私は庭からの景色が気に入ったというだけの単純な理由でこの家に住むようになった。

 家はそんなに広くなく、家具もそのままにされていたので簡単に掃除を済ませただけで生活は出来た。

 家のある高台から主要道路に出るまでは、車のすれ違いが出来ないほどの細い道しかなく、買い物をするにも一度主要道路に出てスーパーまで車を走らせる必要がある。

 ショッピングセンターはおろかコンビニなんて物は近くにはない。

 初めはそれをとても不便に感じていたが、住めば都というのだろうか、その不便さよりも自然が多く長閑なこの場所をいつしか好ましく思っていた。


 そんな頃には君ともすっかり顔馴染みになっていた。

 いけないとは分かっていてもついつい君に食事をご馳走してしまう。ご飯を食べている君の姿を見ていると心が癒された。

 いつしか君が横になる場所は庭のどこかではなく、私の家の縁側が決まった位置になっていた。

 気持ちよく寝ている君を撫でても嫌がったりせず、気持ち良さそうに目を細めてくれる。

 

 それが私と君の始まりだった。


 私が仕事を始めると、また忙しい日々が始まった。都会で仕事をしていた時よりはましな勤務体系で、仕事に慣れる頃にはやりがいも感じていた。

 しかし、忙しい日々に私は今まで楽しんでいた景色を楽しむ事を忘れていた。

 主要道路が遠く、細い道に苛立ちを覚え、買い物に行くのにさえ時間がかかるのにも苛立った。

 いつしか好ましく思っていたこの場所を不便とさえ思うほどになった。

 引っ越せば済む話だが、そんな生活が何年も続いた。


 忙しい毎日に君と過ごす時間もどんどん減っていった。

 君に食事をご馳走しなくなったのはいつからだったかさえ覚えていない。

 私の目に映る縁側に君の姿はいつの間にかなくなっていた。

 君を撫でることさえできない事に私は気付いていなかった。


 それが私と君のすれ違いだった。


 私の会社が倒産した。今時珍しいことではない。テレビに映るニュースでは景気のいいことばかり言っているが、現実ではこんなものだ。

 頭ではそんな事を冷静に思っているのに、突然の出来事に目の前は暗くなる。

 目に見える景色さえ色のない物に映る。

 不便と思ったこの場所に私はいつの間にか篭るようになっていた。

 私の気持ちを表現するかのように空から雨粒が降ってくる。


 そんな私の目の前に君は現れた。昔の力強さはなくなって、濡れた体を震わせ縁側に立っていた。

 会うのは何年ぶりか分からない、久しぶりに見る君の弱々しさに私の胸は切なくなる。

 濡れた体を乾かすと、その体を温めるように私は君を抱きしめた。

 君は嫌がる素振りもせずに胸の中でじっとして、ただ私をその瞳に映している。

 何もする気力が起きない私に君はそっと寄り添ってくれた。


 それが私と君の再会だった。


 君と過ごし行くうちに私の色褪せた世界に彩りが戻っていく。1人で過ごした部屋に君がいる。

 君はあまり動かず眠る事が多いけど、それでも時折起きると私の姿を探してくれた。

 君と出会ったこの家に、君がどうして帰ってきたかは分からない。

 この家に来た時のように、不安だった私の前に突然現れてくれた。

 私の事を心配してくれている、それは私の都合のいい考えだろうか。

 それでも君が傍にいるだけで元気がなくなった私を励ましてくれた。

 私が元気を取り戻すのとは反比例するかのように君は弱々しくなっていった。

 1日に起きている時間も短くなり、私を探すことも出来なくなる君に私は何が出来るだろうか。


 出会った頃のように温かな日差しの当たる縁側で君は眠っていた。

 その横に失礼して座ると、君は何も言わずに私膝の上に乗って丸くなる。気持ちの良さそうな顔で眠っている。

 私は君との思い出を振り返りながらその体を撫でた。

 何も出来なかった私を気遣ってくれた君の体を撫でた。

 せっかく君が元気をくれたのに私の頬を涙が伝う、せっかく君が彩りを戻してくれたのに視界に映る世界が歪む。

 私は長い眠りについた君の体をいつまでも撫でていた。


 これが私と君の別れだった。

 思いついたものを書きました。

 短編や小説にすらなっていないかもしれません。

 読んだ後、嫌な気持ちになってしまったら申し訳ありません。

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