おっちゃん。
さてどの方向へ行こうか? どの方向行っても大丈夫な気がするけど、はてさて。
異世界に送り込りこまれてまだ3日。油断はできないけど最初の村か街に着くまでは成り行きで行けると思っている。神様もまだ見捨てたりはしないはず。信じてるぞ。
とりあえず向こうにでも行ってみるか。
森をすすむ、只々すすむ。黙々とすすむ。まっすぐ進めばそのうち森から出られる。端のない森など無いのだ。
何時間歩いたかは分からないけど、ようやく森を抜けた。1時間でお願いしますの願いはどうやら聞き入れて貰えなかったらしい。残念だ。
それにしてもおかしい。森を抜けるのにかなり時間がかかった事じゃない。森の中で誰にも出会わなかったことがだ。
ゴブリンや熊に襲われている美少女に出会わなかった! 何故だ!? おかしい何かの陰謀か?
本来なら襲われている美少女を助け、その娘が住んでる村か街に送り届ける。そのお礼に数日家にお世話になりながら情報集めというイベントがあったはずだ。いやある! 今から戻るか?
そう考え森を振り返るが出会える保証が何処にも無いので諦めた。ぐぬぬ。
まずは最初の目的通り村か街を目指すか。幸いここから街道が見えるしどっちか行けばそのうち着くだろ。問題はどっち行くかだな? 街道だからどっちに行っても着くけど近いほうが良いからな。
おもむろに近くに落ちてた木の枝を拾う。
「神様の言うとおり。」
そんなことを言いながら指を離す。枝は右に倒れた。
んじゃこっち行くか。倒れた先を見ながら足下の枝を拾いあげ、街道を歩き出す。
のんびりと街道を歩きながら考えていた。街に着いたらどうしよかな? 一応果物と家はあるけど勝手に家設置するわけにもいかなし、目立つしな。それにお金もないし職安とかあるかな? 最悪ギルドよろしく冒険者かなぁ、危険が危ない。
ガラガラガラガラ
ん?
聞きなれない音に後ろを振り返ると馬車だ。馬車はこちらの手前で速度を落としゆっくりと停まる。御者のおっちゃんと目が合い話しかけられた。
「おいあんた、こんなところで何してるんだ? 旅人か?」
「あ、はい。街を目指しているのですが後どの位ありますか?」
「グラムまで歩きだと3時間はかかるぞ? 良かったら乗っていくか?」
「え? 本当ですか? 良いんですか? お金ないですよ?」
「そんなの見ればわかる。気にするな。ちょうど話し相手が欲しかったんだ乗りな」
「ありがとうございます。助かります」
「なに気にするなって」
好意に甘え、人の好さそうなおっちゃんの横に腰かけるとおっちゃんは手綱を操り再び馬車を走らせた。少し気になったことを聞いてみた。
「なんで旅人と思ったんですか?」
「ん? あぁ、そんな恰好で歩いてれば大抵そう思うだろうよ」
「?」
良くわからないという表情をするとおっちゃんは続けた。
「この辺じゃ見ない服装だ。見ないという事は遠くからやってきた、遠くからやってくるのは旅人だ」
「なるほど」
「あとはその格好だな。荷物もないし大方食いもんに困って森に入って獣にでも襲われたか? そんな奴見ればほっとけないだろ?」
「おっちゃん……ありがとう」
「ふん、気にすんなって言っただろ」
照れ臭さそうにおっちゃんは言う。確かに改めて自分の恰好を見れば上は白のパーカーに下は黒のジーンズ、靴は黒のスニーカーと、この世界では見ない服装だろう。それに森を歩いていたから葉っぱは付いてるし、靴は汚れている。
その後おっちゃんと他愛も無い雑談をしていたら街の外壁が見えてきた。
「見えてきたぞあれがグラムだ」
結構というかかなり大きい。そのまま街の門をくぐり中に入る。地面は石畳みが敷かれ建物も石造りやレンガだ。実際には行ったことないが何となく古いヨーロッパっぽい雰囲気だな。まぁまずは何事もなく入れて安心する。衛兵に質問とかされなくて助かった。これでなにか揉め事が起こったらおっちゃんに申し訳がないからな。
街中を少し進んだ所でおっちゃんが言う。
「おい、どうせ宿に泊まる金も無いんだろ? 今日は泊めてやるから家に来い」
おっちゃん良い人すぎんだろ。その言葉に甘え泊めてもらうことにした。