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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第3部第1章
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(11)覚悟

いつもより少し長めです。

 セイヤが悩んでいる姿を見て、クリステルが首を傾げながら聞いた。

「何を考えているのかしら? セイヤでしたら、国外のことも頭にはありましたよね?」

「それはそうですが、まさか他国の王女がクラスメイトになるなんていうのは、想像の範囲外でした」

 セイヤの中では、学園に通っているのは、あくまでも国内の貴族だけだと思い込んでいた。

 まさか、他国の王族が来るほど積極的な交流が行われているとは、考えてもいなかったのである。

 この場にいるエリーナを始めとして家族たちは、セイヤであればその程度のことは常識と思って聞いてこないのだろうと考えていた。

 そのため、認識の齟齬が起きてしまったのだ。

 この場合は、家族というよりは、勝手に思い込んでしまって確認もしなかったセイヤが悪いと言えるだろう。

 

 セイヤの言葉に、ようやく認識違いがあったことを理解したエリーナは、困ったような顔になった。

「確かに、家の中でもそんな話題は出てなかったわね」

「そうなのですか。確かセイヤのクラスには、キルスターの王女がいたはずですが、まだ初日ですから……って、まさか?」

 流石に生徒会長を務めているだけあって、クリステルはレティティアのことを知っていた。

 だが、セイヤとの付き合いは、あくまでもクラスメイトの一人として、とだけ考えていた。

 そういう意味では、クリステルもまた見込みが甘かったのだ。

 あるいは、魔法という存在が与える影響を正確には把握しきれていなかったというべきか。

 この辺りは、まだまだこれから学園の卒業を迎えようとしている学生としての甘さが出ているといえる。

 

 自分の言葉でコクリとセイヤが頷くのを見たクリステルは、一度だけため息をついた。

「……失敗しました。まさか、王女がセイヤを狙ってくるとは」

 悔しそうな表情を浮かべてそう言ったクリステルに、エリーナも真剣な表情になって頷いた。

「本当にね。手が早いというべきか、単に国からの指示で動いているのか……とにかく、要注意ね」

「えっ? あれ? そっちの方に話が行くんだ」

 これだけ言われれば、セイヤにも二人が何を懸念しているのかは理解できた。

 ただ、まったく色恋方面に考えが及んでいなかったセイヤは、思わずそう呟いてしまった。

 

 そのセイヤの呟きを聞いたエリーナは、盛大にため息をついた。

「まったく……セイヤは、自分に対する評価が高いのか低いのかよくわからないわね」

「そうですね。ですが、色恋に関しては、今回の件で底辺にあることは分かりましたが」

 追随してそう言ってきたクリステルに同意するように、エリーナが大きく頷いた。

 これに対してセイヤは、反論することが出来ない。

 クリステルの言う通り、確かに色恋方面では、もてなかった過去の記憶があるせいか、全くと言っていいほど考えが及ばないのだ。

 

 そちら方面の話が自分の弱点だと認識しているセイヤは、素直に謝ることにした。

「あ~。すみません。まったくもって反論の余地が無いようです」

「謝る必要はありませんよ。それよりも、王女とどんな話をしたのか聞いてもいいですか?」

 この件に関しては、自分の想像の範囲外だと判断したセイヤは、クリステルの問いかけに素直に頷いて、昼にあったことを話し始めた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 セイヤから話を聞き終えたクリステルは、納得した顔で頷いた。

「なるほど。誰かに言われてなのか、自分で考えてなのか、少なくとも一気に攻めるつもりはないようですね」

「そうね。でも、まだまだ油断は出来ないわよ?」

「それはそうです。他国にとってみれば、今のセイヤの状態は、カモがネギを背負った状態でしょうから」

 的を射ているクリステルの言葉に、エリーナが大きく頷き、セイヤが情けない顔になった。

 セイヤには自分が権力者にとって涎を垂らすような存在だという自覚はあるが、ハニートラップの類まで気にしなくてはならないということまで考えていなかったのだ。

 勿論、いまのクリステルとエリーナの会話からも分かる通り、レティティアが自分から仕掛けているわけではない。

 むしろ、背後にいる大人の存在に気をつけなければならないといったところだろう。

 

 そのセイヤの顔を見たクリステルは、ジト目で見返してきた。

「…………本当に大丈夫でしょうか? 今のセイヤだと、ころりといってしまいそうな気がしますが?」

「そ、そんなことは……」

「ないとは言い切れないですよね?」

 ニコリと微笑んでそう言ってきたクリステルに、セイヤは無言を貫くことしかできなかった。

 はっきり言えば、レティティアはクリステルに負けないぐらいの美人なのだ。

 攻め方によっては、クリステルの言った通りになる可能性も多少はないわけではない。

 というよりも、気軽だと思っていた誘いにホイホイと乗ってしまって、それが既成事実化されてしまう気がしてならない。

 かといって、王女からの誘いを簡単に断るわけにもいなかないのだ。

 

 セイヤの顔を見て、クリステルは本日何度目かのため息をついた。

「これは……不安しかありませんね。とりあえず、今日みたいに他の男性がいるとか、他の人の目があるところでしか会わないようにすることで対策は出来るでしょう」

「そうね。キルスターの王女に関してはそれで大丈夫ね」

 わざと含みを持たせて言ってきたエリーナに、流石のセイヤも気が付いた。

 もともとセイヤは、そちらの方があり得る確率が高いだろうと警戒していたのだ。

 

 それが何かといえば、

「他国の手が入るとなれば、流石の王も黙っていられないでしょうからね」

「……やっぱりそうなりますか」

 これにはセイヤもすぐにクリステルの言葉に頷いていた。

 

 リチャード三世は、今はクリステルという存在がいるために、多少半端な状態であっても王族の婿に迎えるという強引な手を取ってこなかった。

 だが、この関係が、レティティアが出てきたために一気に崩れる可能性が出て来たのだ。

 流石の王も、一方的にセイヤが取られるのを黙って見ているわけにはいかないだろう。

 となれば、当然のように王族の姫をセイヤにあてがうという手を取ってきてもおかしくはない。

 もし本格的に王が動くとなれば、クリステルはせいぜいがちょっとした牽制をするくらいで、本格的に止めることは出来ない。

 それくらいに今のクリステルの立場はあやふやなものなのである。

 その状況を変えるには、少なくともクリステルには、自分と婚約するという方法しか思い浮かばなかった。

 

 クリステルは、その思いを込めて、セイヤをジッと見て言った。

「今のままでは止めることは出来ませんが、どうしますか?」

 クリステルからそう問いかけられて、セイヤは一度目を瞑ってから、グッと覚悟を決めた。

 別にセイヤは、クリステルと婚約することが嫌なわけではない。

 むしろある条件さえクリアできれば、喜んで受けるのだ。

 

 今はセイヤが魔法で結界を張っていて、音が外に漏れる心配はない。

 傍にはエリーナがいるが、それはむしろちょうどいい条件ともいえる。

 絶好の機会ともいえるチャンスに、セイヤは真正面からクリステルを見ながらその問いかけを行った。

「クリステル。私は、これから世界中・・・に魔法を広めるという目的を持っています。そのためには、時に国も裏切る可能性があるのですが、それでも構わないですか?」

「セイヤ、それは…………!!」

 セイヤの言葉に、エリーナが慌てた様子で止めようとした。

 だが、セイヤにとっては、この条件だけは絶対に譲れないのだ。

 

 魔法を広めるために国が障害になるのであれば、セイヤは簡単に切り捨てる選択をするだろう。

 婚約という決定的な状況になった場合に、クリステルはその状況から逃れられなくなる。

 その際に、セイヤと一緒にいるのか、離れるのか、決断をするのはクリステルになるが、それでも悲しい思いをさせることになる。

 なるべくそんなことが起こらないように行動はするつもりだが、絶対ないとは言い切れないのだ。

 

 覚悟をもって問いかけたそのセイヤの問いに、なぜかクリステルは一瞬ポカンとした表情になり、やがてクスクスと笑い出した。

「「クリステル?」」

 そのクリステルを見て、姉弟が同時に狐につままれたような顔になる。

「全く……。セイヤに、何か引っかかっていることがあるのだろうとは考えていましたが、そんなことだったのですか」

「ちょっと、クリステル、そんなことって……」

 国を捨てることをそんなことと言い切ったクリステルに、エリーナが唖然とした表情になった。

 

 そのエリーナに、クリステルは首を左右に振って続けた。

「少なくとも私にとってはそんなことですよ。それに、そのことは父にも話をして許可を得ています。勿論、私はセイヤにつくと、です」

 あっさりとそう言ってきたクリステルに、少しだけ呆けていたセイヤは、クスクス笑い出した。

「全く……。本当に私は、こちら方面は鈍いというわけですか。悩んでいた私が馬鹿みたいですね」

 クリステルがとっくに覚悟を決めていたと知ったセイヤは、そう言ってからもう一度真正面からクリステルを見た。

「クリステル」

「はい」

 セイヤに名前を呼ばれたクリステルは、その雰囲気を感じ取って真面目な顔になってセイヤの次の言葉を待った。

 

「私と人生を共に進んでもらえますか?」


 セイヤがそう言うと、クリステルはその顔に満面の笑みを浮かべて頷いた。

 

「はい。勿論です」

二人のやり取りを見ていたエリーナは、しばらく唖然とした後で、首を左右に振るのであった。

(何よ。結局、私はただの証人扱い?)


といったところでしょうか?w

無粋になるので本文には入れられませんでした。


というわけで、爆発しろ!(ふうっ)


……ではなく、やっと二人が正式にくっついました。

このあとはきちんとそれぞれの親に報告することになりますが、その部分はバッサリカット!w

長くなりますし、本筋とはほとんど関係ないですからね。


これで第一章は終わりになります。

第二章も当然ですが、学園話になります。

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