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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第3部第1章
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(9)予想外の同席者

 教師たちによる試験(?)を受けたセイヤは、結局午前中を図書館で過ごした。

 午後からは実技になるので抜け出すことが出来ないが、この日の午前中の授業は全てでなくてもいいものだったのだ。

 それに、クラスに戻れば好奇心に満ちたクラスメイトが押しかけて来ることも想像できたため、ほとぼりを覚ます意味もあった。

 その効果があったのかなかったのか、昼休みになって教室に戻ったセイヤは、皆から注目されつつもいきなり突撃されることはなかった。


 代わりに、ジェラールがセイヤのところに近付いて来た。

「ようやく戻ってきましたね、セイヤ」

 近寄ってきたのはジェラール一人だったが、周囲の注目を浴びていることはセイヤも気付いていた。

 どういう話し合いがなされたかはわからないが、皆が突撃するのではなく、代表としてジェラールが話を聞くことにしたのだとセイヤは考えた。

 それに対してセイヤは、特に隠すこともないので、素直に答えを言うことにした。

「何か特別なことをしていたわけではありません。図書館に行って本を読んでいただけですよ」

 セイヤがそう答えると、クラスの何人かが拍子抜けした顔になり、また別の何人かが疑わしい表情になっていた。

 

 ただし、ジェラールは特に表情を変えることなく、さらに聞いて来た。

「図書館、ですか。授業には出なくても良かったのですか?」

「ああ、それは――」

 ジェラールに問われたセイヤは、リヒャルトに呼ばれて職員室で行われたことを素直に話した。

「――というわけで、いくつかの座学は出たり出なかったりすると思います。ほとんど図書館で過ごすと思いますけれど」

「そういうことですか。まあ、教師たちが良いと判断したのであれば、構わないのでしょうね」

 ジェラールがそう宣言すると、これまでクラスの中にあった疑わし気な雰囲気がきれいさっぱり無くなった。

 真実がどうあれ、王族が宣言すれば、それは事実になってしまうのだ。

 もっとも、今回はセイヤが嘘をついているわけではないので、れっきとした事実なのだが。

 

 とにかくセイヤは、これで大手を振って幾つかの授業を抜け出せることが出来るようになった。

 少なくとも低学年のうちは、許可された科目の授業は出ないつもりでいる。

 既にセイヤの中では、図書館にある本を読破するつもりになっているのだ。

 

 周囲の雰囲気が変わったことを察したジェラールは、続けてセイヤに問いかけて来た。

「ところで、セイヤは、お昼は弁当ですか? 学食ですか?」

「ああ、それは学食ですが?」

「でしたら、せっかくですからご一緒しませんか?」

 さらりと昼食に誘われたことに、セイヤは一瞬悩んでから頷いた。

「ええ。構いませんよ」

 セイヤが同意したのは、一般的に考えて王族からの誘いを断れないということもあるのだが、それ以外に他のクラスメイトの誘いを躱すという意味もある。

 ジェラールにはジェラールの目的があるのだろうが、セイヤにとっても利用価値があると判断してのことなので、お互い様である。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ジェラールと共に食堂に向かったセイヤは、そこに予想外の人物がいて、内心でやられたと思った。

 セイヤにとって救いだったのは、その相手に見えないように、ジェラールが一瞬セイヤに向かって申し訳ないという顔をしたときだった。

 今回の件は、ジェラールが主体となったわけではなく、その相手からの要望だったということが、ジェラールの顔でわかった。

 お陰でいろいろと考えることが出来たが、どちらにしてもセイヤにとっては、ゆっくりと食事を楽しむということが出来なくなったことだけは確定した。

 ジェラールと共に向かったテーブルには、先ほどの教室では姿が見えなかったレティティア王女が座っていたのである。

 

 

 流石に貴族の子弟しか通っていない学園だけあって、学食といえどもきちんとした給仕がいる。

 その給仕に定食を頼んだセイヤは、ジェラールの紹介を待ってからレティティア王女に挨拶をした。

 そして、定型通りの言葉を交わしたあとは、食事を楽しみながら多少(?)緊張感のある会話が始まった。

 最初にセイヤに向かって話を始めたのは、レティティア王女だった。

「セイヤさん。突然のことで驚かせてしまって、申し訳ありませんでした。この場は、ジェラール王子ではなく、私が頼んで用意してもらったのです」

 レティティアがそう言ったことにより、セイヤの側から突然の会食について責めることは出来なくなった。

 もっとも、他国とはいえ、相手が王女である以上は、セイヤから責めるつもりはなかったのだが。

 とはいえ、無作法すれすれの方法であることには間違いない。

 それを考えれば、レティティアから最初に告白をして謝罪したのは、セイヤの心証を考えても必要なことだったと言える。

 

 現に、レティティアに謝罪されたセイヤは、次の言葉を言う選択肢しかなかった。

「いえ。とんでもございません。王女と同席できる幸運に感謝いたします」

 自分で言っていて歯が浮いてきそうだったが、それ以上に答えようがない。

 特段、無理に仲良くするつもりはないが、敢えて最初から邪険にするつもりはセイヤにもないのだ。

 

 

 王女の謝罪という珍しいことから始まった会話は、その後はごく普通の話題が続いた。

 少なくともセイヤはまともに話すのが初めてなので、幼少期の頃の話や領地に関することをレティティアから聞かれて答えていた。

 逆に、せっかくの機会だからということで、セイヤもキルスター王国のことについて聞いておいた。

 これも書物という文字からだけではなく、実際の目を通しての生の声という重要な情報源なのだ。

 セイヤにとっては、食事を含めたリーゼラン王国とは違った文化の話を聞けたことが大きい。

 勿論、隣国ということもあって、まったく違っているというわけではない。

 だが、それでも細かい差異があることが分かって、それはセイヤにとっても大きな収穫だった。

 

 セイヤにとって、より気を使う場面が訪れたのは、食事の後半になってからのことだった。

 それまで当たり障りのないことを聞いて来たレティティアが、これこそ本題とばかりに言ってきたのだ。

「ところで、この学園では魔法という技術が話題になっているようですね」

「ええ、そのようですね」

 いきなりレティティアから魔法についての話題を振られたセイヤは、ちらりとジェラールを見た。

 そのジェラールは、特に表情を変えていなかったが、二人で事前に打ち合わせをした上でのことではないとセイヤは判断した。

 特に根拠があるわけではないのだが、ジェラールの顔を見て何となくそう思えたのだ。

 

 セイヤとジェラールのやり取りに気付いているのかいないのか、レティティアは少しだけ驚いたような表情になって見て来た。

「あまり驚かないのですね。これまでの常識を覆すような、かなり素晴らしい技術だと伺っているのですが?」

「ああ、それは誤解ですよ」

 あっさりとそう言ったセイヤに、レティティアは意味が分からないという顔になって、首を傾げた。

「誤解、ですか」

「ええ、誤解です。少なくとも私が知る限りでは、強者とよばれる者たちは似たり寄ったりの技術を以前から使っていました。その強者たちが己の感覚だけで使っていたものを、分かり易くしたのが魔法という技術なのですよ」

「そうなのですか」

「はい。ですので、貴国でも探せば、同じような技術を使っている者はいると思います」

 特段珍しいことではないと、嘘とも本当ともいえないことを言ったセイヤに、レティティアは納得したような顔になって頷いていた。

 

 そのときの顔が本当に納得したうえでのものなのかは、セイヤにもわからなかった。

 ただ、この時のレティティアは、魔法についてのそれ以上の質問をしてこなかった。

 それが最初に決めていたことなのか、これ以上は聞かない方がいいと判断したのかは、残念ながらセイヤには見極めることは出来なかったのであった。

緊張感漂う会食!

……ですが、これが貴族のデフォルトです。

学園は、こうした交友を学ぶ場だとセイヤも割り切っています。

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