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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第3部第1章
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(6)王子との会話

 セイヤの言葉に、ジェラールは不思議そうな顔になって小さく首を傾げた。

「セルマイヤー領が、田舎? 私はそのような話を聞いたことが無いのですが。領民に慕われている素晴らしい土地だと、父から伺っています」

 ここで国王ではなく、敢えて「父」と言ってきたジェラールに、セイヤは内心で舌を巻いていた。

 国王が言ったというのと、父が言ったというのでは、受ける印象がまったく違う。

 ジェラールが意識していったのか、あるいは無意識なのかはわからないが、どちらにせよただの大人しいだけの王子という印象からは一気に違うものへと変わった。

 もっとも、そんな細かいことに気付いている者が、遠巻きにセイヤとジェラールの会話を聞いている者たちの中でどれほどいるのかは、セイヤにも未知数である。

 今は周囲の反応よりも、ジェラールとの会話を続けることのほうが重要だと判断したのだ。

 

 ジェラールの台詞を聞いて、セイヤはすぐに笑顔を浮かべてから答えた。

「そう言っていただけると嬉しいです。私にとってはとても素晴らしい領地だと思っておりますので」

「ええ。父から話を聞いて、私も一度は行ってみたいと思っているのです。そちらの公爵令嬢も頻繁に通っているようですし」

 ここでさりげなくセイヤの同行者に話を振ったジェラールだったが、クリステルは慌てずにニコリと笑顔を浮かべた。

 ちなみに、クリステルとジェラールは、開会式での挨拶をする前に顔を合わせている。

 

 まさか王子がセイヤと話をしに来るとは思っていなかったクリステルだが、セイヤのことを考えれば来るのも当然だと考えている。

「そうですね。私もセルマイヤー領は、素晴らしいと思います。仰る通り、ジェラール王子も伺ってみればよろしいかと思います」

 あっさりと王子に行ってみるようにと誘ったクリステルにオイオイと思いつつ、セイヤは姉であるエリーナと一瞬だけ視線を交わした。

 このままだと王子の領地訪問が既成事実化されてしまいかねない。

 別に隠すようなことは何もないが、仮にも一国の王子を迎え入れるとなると、公爵令嬢とは違った対応が必要になって来る。

 今この場で、気軽に「はい、どうぞ」とは言えないのだ。

 

 クリステルの言葉に、セイヤは頷きながら当たり障りのないように答えた。

「もしそうなれば父も歓迎すると思います。是非、国王と相談なさってみてください」

 一応受け入れるとは思いますよ、でもきちんと親を通してね、とセイヤは遠回しに言ってみた。

 これでジェラールがどう反応するのかを見ているのだ。

 

 ジェラールは、セイヤの回答に満足げな表情を浮かべて頷いた。

「そうですね。戻ったら早速父に話をしてみます」

 そのジェラールの顔を見たセイヤは、内心でやられたと思っていた。

 ジェラールの目的は、確かに領地に来ることもあるのだろうが、それ以前にセイヤとの交友を深めたいという意図もあるのだということに、今気づいたのだ。

 別に親同士の話し合いで反故になったとしても、ジェラールがセルマイヤー領に行きたがっているのはこれで周知の事実になる。

 さらに、セイヤにはジェフリーという一つ上の兄がいるが、そもそも今回のセイヤとの話で決まったことになるので、領地に来た際に対応するのはセイヤになるだろう。

 もっといえば、リチャード国王が元は子供たちと仲良くさせたがったことを考えれば、この話を前向きに検討することも想像がつく。

 あとは、マグスが断れるかどうかだが、それも微妙なところだろう。

 

 今までの話が、誰かに吹き込まれたものなのか、それともジェラール自身が考えたのかはセイヤにはわからないが、中々に策士なところがある。

 とはいえ、セイヤにとってもメリットがないわけではないので、別にそうなったらそうなったで構わないとも考えている。

 とにかく、今はこれ以上この場で話が出来るような内容ではないので、セイヤは話題を変えることにした。

「ええ。是非そうしてみてください。それよりも、姉を紹介させてください」

 セイヤはそう言いながらエリーナを示した。

「ああ、これは失礼いたしました。こうして直接話をするのは初めてでしたね。ジェラールと申します」

「始めまして。セイヤの姉のエリーナと申します」

 エリーナとジェラールはお互いにそう言いながら頭を下げた。

 

 二人が挨拶を交わしたあとは、二言三言、当たり障りのない会話を続けた。

 そして、ジェラールが不意にセイヤに視線を向けて言ってきた。

「そういえば、セイヤとはこれから同級生ということになるのですよね」

 セイヤはジェラールが同じクラスに入っていることをきちんと確認していたので、慌てることなく頷いた。

「ええ、そうなります。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。ですが、セイヤはもうクラスで学ぶようなことはないと伺っていますよ?」

 そう言ってきたジェラールに、一体どこからの情報だと訝しく思いつつ、首を左右に振った。

「いやいや。さすがにそれは言い過ぎだと思います。私にも学ぶべきことはたくさんあります」

 これは別に謙遜ではなく、セイヤは心のそこからそう考えている。

 

 基本的に領地では、セイヤは家庭教師というものをつけられたことがほとんどない。

 これは別にマグスが手を抜いたわけではなく、独学で学んでしまったセイヤに、一応つけられた家庭教師から必要ないと言われていた。

 勿論、独自に勉強をして取りこぼしなどあると困るので、定期的にテストなどは行っていたが、ほとんどが問題なくクリアしていた。

 そのため、書物から得ることが出来る知識以外は、抜け落ちていたりすることがある。

 その中で一番顕著なのが、当然というべきか、相手が必要になる社交関係だったりするのだ。

 

 セイヤの言葉をどうとらえたのか、ジェラールは少しだけ考えるように首を傾げてから頷いた。

「なるほど。セイヤがそう言うということはそうなのでしょうね」

 そのジェラールの反応を見て、セイヤは内心で舌を巻いていた。

 今までの話が他者からの助言などがあるかどうかはわからないが、少なくとも今の受け答えでジェラールが自分で考えて受け答えが出来る王子だということがわかった。

 しかも、最初から相手の言ったことを否定するのではなく、自分なりに解釈をした上で答えている。

 年齢を考えれば、しっかりとした教育を受けて来たという事だけは間違いないだろう。

 

 セイヤは、今までジェラールに抱いていたイメージを完全に塗り替えて言った。

「とにかく、これから同じクラスで学ぶことになるのは間違いないのです。そこでお互いに分かることもあるかと思います」

「確かにそうですね。これからも時間はたくさんあるのですよね」

 セイヤの答えに、ジェラールは笑顔を浮かべてから何度か頷いた。

 いまの言葉で、単に王子とその臣下という関係ではなく、少なくとも同級生にまでランクアップ(?)したことに気付いたのだ。

 

 その後でジェラールは、再び一言二言会話をしてから護衛を引き連れて去って行った。

 王子という立場上、一人を相手にずっと会話をし続けるわけにもいかないのだ。

 それに、これ以上セイヤと会話をしても仕方ないという考えも透けて見えた。

 

 去って行く王子を見送っていたセイヤは、クリステルとエリーナにだけ聞こえるようにぽつりとこぼした。

「やれやれ。王族というのは、皆あのように教育されるものなのですか?」

「まさか。私も間近で見て、驚いていますよ。先ほどの挨拶ではここまで話はしませんでしたから」

 セイヤの言葉にそっと返してきたクリステルに同意するように、エリーナも何度か頷いていた。

 このときの三人は、ジェラールに対する評価がグッと上がったことだけは間違いのない事実なのであった。

注)セイヤと王子は、この年十二才になります。


というわけで、王子との会話でした。

中々に(という表現では済まない?w)、賢い王子です。

セイヤもすっかり興味を覚えてしまいました。

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