(5)挨拶
クリステルが壇上で挨拶をするのを見ていたセイヤは、思わずその場で「ホー」と感心していた。
「あら。どうしたのかしら?」
隣でそう言いながらニヤニヤしてくるエリーナが見えたが、セイヤはそれを軽く無視をして、何ということはないという顔になった。
「別に大したことではありませんよ。ああしていると、随分と様になっているなと思っただけです」
「へー、ほー。様になっている、ね。後でクリステルに報告するわ」
揶揄うようにエリーナがそう言ってきたが、セイヤは慌てず騒がず小さく頷いた。
「どうぞ。お好きになさってください」
こういう場合は、下手に狼狽えたりすると余計にいじられるだけだとわかっているのだ。
セイヤとエリーナがそんなことを会話している間にも、式は次々と進んで行った。
ただし、学生が開いているパーティだけあって、堅苦しい挨拶があったのは生徒会長のクリステルのものと、あとは参加している王族たちのものだけだった。
その辺は、早くパーティを開始しろという空気を見事に読んでいるんだろう。
あるいは、長い間経験してきた中で、そうした空気を吸い上げた結果なのかもしれないが。
それはともかく、最後の王族の挨拶の時には、一番最年少となるジェラール王子が壇上に上がっていた。
その挨拶を聞いていたセイヤは、感心したように頷いた。
「おや。久しぶりに見ましたが、彼も随分と成長しているようですね」
聞きようによっては王族に対して上から目線ととられかねない発言だが、幸いにして聞いているのはエリーナしかいない。
セイヤは、その程度の分別くらいは持っているのだ。
そんなことよりも、エリーナが気になったのは別のことだった。
「あら? 久しぶりって、貴方、ジェラール王子と接点なんてあったかしら?」
そのエリーナの言葉にセイヤが答えようとする前に、セイヤとエリーナの後ろからいきなり声が掛けられた。
「それは私も気になりますね」
「えっ?」
「うわっ!? クリステル、いきなり驚かさないで頂戴!」
セイヤとエリーナの会話に割り込んできたのは、つい先ほど、壇上で挨拶をしていたはずのクリステルだった。
クリステルとジェラール王子の挨拶の間にはそれなりの時間があったとはいえ、これだけの人ごみの中からきっちりとセイヤを探し出して来たのは、驚きと言っていいだろう。
流石のセイヤも少し驚いたような表情を浮かべていた。
「あら、セイヤ。お化けを見たような顔になって、どうしたのですか?」
「いや、これだけの短い時間で、一体どうやって私たちを探し出したのですか?」
「それは簡単です。壇上で挨拶をしているときから見つけていましたから」
どうやらクリステルは、挨拶をしながらセイヤたちを探し出すという余裕まであったようだった。
最初からいる場所が分かれば、あとはそこへめがけて移動すればいい。
セイヤたちは挨拶の最中はほとんど動いていないので、クリステルもこの場に来るのは簡単だっただろう。
納得して頷いているセイヤに、クリステルが促すような視線を向けて来た。
「そんなことよりも、いつ王子と知り合ったのか教えてください」
「いや、別に大したことではありませんよ。例の対面のときに一緒に来ていたのです」
クリステルは、既にセイヤが王と直接の話し合いをしたことを知っている。
最初はエリーナからのまた聞きだったのだが、きっちりと裏(父親からの情報)を取ったうえでセイヤに確認をしてきたのだ。
セイヤも別に隠すつもりはないので、素直に答えたのだが、王子二人とも会ったとまでは言っていなかった。
とはいえ、王との細かい話の内容までは言っていない。
国や領地に関わる内容まで踏み込むことになるので、そこは避けるように話してある。
クリステルも父親から話を聞いたときに、あまり踏み込んではいけないと釘を刺されていたので、そこまで深くは聞いていなかった。
セイヤの答えに、クリステルとエリーナが納得の顔になって頷いた。
「ああ、なるほど。そういうことね」
「そうでしたか、王子も一緒にいたのですね」
「ええ。どうやら最初は私と直接の繋がりを持たせたかったようですね」
リチャード国王は、今でこそセイヤと直接の交友を持っているが、最初は子供たちと仲良くさせたかったのだ。
そのため話し合いの場に王子を連れてきていたのだが、その目論見は見事に外されたことになる。
もっとも、王自身が友誼を結ぶことが出来ているので、ある程度の目的は達成できているのだが。
王に関わるところまで話が及んだことで、セイヤたちは話をさりげなく切り替えた。
少なくともこんな場所でするような話ではないということはよくわかっているのだ。
それに、クリステルが加わってから、セイヤたちは衆目を集めるようになってしまっていた。
先ほどまで堂々とした美人の生徒会長が親し気に話をしているのもそうだし、その相手が実は今年度の新入生で一番注目されているセイヤだということも、あっという間に広まっていた。
そんなことをしている間に、執行委員が進めていた開会式も終わっていたようで、周囲の視線が遠慮なしになってきたのだ。
セイヤたちが無難な話題に終始する中、周囲にいる者たちは、三人の話に加わるかどうかでけん制し合っているようだった。
三人ともそのころをきちんと把握していたが、敢えて気付かないふりをしながら話を続ける。
そんな状態に変化が起きたのは、開会式が終わってからさほども経たないときだった。
それまでセイヤたちに注目していた視線が、別の場所からの騒めきにつられるようにして、そちらに移った。
そして、その騒めきの中心にいる人物を確認して、これから何が起こるのかと息をひそめるように黙るようになっていたのだ。
その騒めきの中心にいたのは、先ほど壇上で挨拶をしていたジェラール王子だった。
流石に王族だけあって、人の視線を集めていることはまったく気にしていないようで、二人の護衛を引き連れながらセイヤたちの所へまっすぐに向かってきていた。
「えーと。これは、もしかしなくても、もしかしますか?」
「そうね。もしかするわね」
「普通であればなぜと思うのでしょうが、先ほどの話を聞いてしまえば、納得できますね」
王子が近付いてくるのを見た三人は、三者三様の反応を示した。
セイヤたちがそんなことを話している間に、王子はあっという間に近寄ってきてニコリと王族らしい(?)笑みを浮かべた。
ちなみに、その笑顔を見たセイヤが、イケメンガッデムと心の中で密かに思っていたりするが、勿論そんなことを口に出して言うほど愚かではない。
そんなセイヤの心中はともかく、ジェラールは笑みを浮かべたまま自然な様子で話しかけて来た。
「お久しぶりです、セイヤ・セルマイヤー。初めてのパーティのようですが、楽しまれていますか?」
ごくごく自然な調子でそう言ってきたジェラールに、セイヤは内心で少しだけ驚いていた。
以前、リチャード三世と同席していたときのジェラールは、借りて来た猫のようにおとなしかった。
こんなに自然な笑みを浮かべながら話しかけてくるとは、考えてもいなかったのだ。
ジェラールに対する認識を新たにしたセイヤは、まず最初に話しかけられた者として、無難な返答をすることにした。
「ご挨拶を賜り光栄に存じます。私にとっての初めてのパーティですが、田舎に籠っていた身としては圧倒されっぱなしです」
セルマイヤー領が中央の一部の貴族たちに、「田舎」と評されていることを逆手に取って、セイヤはわざとそう言った。
これによってジェラールがどういう態度を見せるのかを知りたかったのだ。
横で話を聞いていたクリステルとエリーナも、当然セイヤの目論見はすぐに理解できた。
そんな中、ジェラールは気付いているのかいないのか、セイヤへ答えを返すのであった。
中途半端><
す、すみません。
長くなりそうだったので、一旦ここで区切りました。
パーティの話はあと一話で終わるはずです。(タブン)




