(4)クラス分けとパーティの開始
学園のクラスの振り分けは、入学式が終わった後で発表される。
とはいえ、入学式がある日は各クラスに入って授業や担任からの連絡などがあるわけではない。
その日はあくまでも発表だけで、翌日からが正式な学園の開始となる。
入学式を終えたセイヤは、両親、マリーと合流したあとで、自分がどのクラスに入ることになったかを確認しに行った。
「――やっぱり特クラスですか」
掲示板で自分のクラスを確認したセイヤがそう言うと、マグスが当然だろうという顔になっていた。
「それはそうだろうな。トップ合格をしておいて、別のクラスに入ることはないからな」
「ほー。さすがはセイヤだな」
「お兄様、すごい!」
冷静なマグスの分析はともかくとして、アネッサとマリーの純粋な褒め言葉はセイヤとしても嬉しい。
わずかに照れたような顔になったセイヤは、誤魔化すようにしてマグスを見た。
「それにしても、このあとにあるパーティは出た方がいいのでしょうか?」
その問いに答えられるのはこの場にはマグスしかいない。
アネッサは学園に入っていたわけではないので、答えられるはずがないのだ。
「まあ、セイヤであれば必要ない――と言いたいところだが、やはり出ておいた方がいいだろうな」
「おや。その理由は?」
「現状の力関係がはっきりと出ているからさ」
マグスは、セイヤの問いに肩をすくめながらそう答えた。
学園に入学して最初に行われるパーティでの人的交流は、そのまま親の力関係が現れると言われている。
当たり前だが、基本的に学園に上がるまでの子供たちの交友関係は、親の行動に左右される。
そのため、学園という大勢の同世代の人間が集まる場でもない限りは、親の関係がそっくりそのまま反映される。
学園に入れば、ある程度親の干渉からも逃れられるので、ある程度の自由な交流が行われる。
ただし、やはりほとんど物心ついたときから強制されている関係というのは、ずっと引きずることも多い。
結果として、卒業まで入学したばかりのときの関係が続いていくことも珍しくはないのだ。
いずれは学園の生徒に魔法を教えることになるセイヤとしては、現在の力関係を見定めた方がいいというのがマグスの言なのだ。
「――なるほど。……やっぱり面倒ですね。このまま――」
「学園から逃げるのは許さないからな?」
セイヤがすべての言葉を発するよりも先に、マグスが少しだけ睨みながら釘を刺してきた。
傭兵として正式に活動することを認める条件が、学園を卒業して正式に貴族の一員として認められるというものだ。
現在はそれを前倒しで認められているだけであって、きちんと卒業しないとマグスからは認められたとは言えない。
セイヤとしても約束を反故にするつもりはないので、ため息をつきながら答えた。
「それはわかっていますよ。単に、愚痴を言いたくなっただけです」
「それならいいがな。とにかく、パーティには出た方がいい。せっかくシェリルとエリーナが張り切って準備をしているのに、反故にするつもりか?」
「ああ、それもありましたね」
揶揄うような表情で言ってきたマグスに、セイヤはげんなりとした顔になった。
入学式には出席していなかったシェリルとエリーナは、このあとあるパーティの為の準備をしながらセイヤのことを手ぐすねを引きながら待っているのだ。
パーティ自体は学生が主体となって開かれるので親が出席することはないが、ほとんどの学生は出席することになる。
パーティに出席する者は、全員が着飾ることになるので、女性陣が張り切っているのである。
着せ替え人形扱いになることが確定しているセイヤに、マグスがわずかに同情的な視線を向けながら慰めるように言った。
「これも貴族として生きるための必要な試練だ。さっさと慣れるほうが良いと思うぞ?」
「父上。その意見には非常に同意しますが、アネッサ母上の前でそういうことを言ってもいいのですか?」
アネッサとシェリルの関係は非常に良好である。
そこから今の台詞が流れないとも限らない。
セイヤの台詞に、しまったという表情になったマグスは、恐る恐るアネッサを見た。
「アネッサ、今のことは……」
「わかっているさ。――ところで、兵たちの訓練でほしいものがあるのだが――」
「い、いや、それについては――」
何やら微妙な攻防が始まったマグスとアネッサを見て、マリーが嬉しそうな顔になってセイヤに言った。
「お母様もお父様も仲がいいね?」
「そうだね。とっても仲がいいんだよ」
二パッとした笑顔を浮かべてそう言ってきたマリーに、セイヤは心の中で、この純真なまま育ってほしいと願わずにはいられないのであった。
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学園の在校生が中心になって作られる歓迎パーティは、学園に入学する生徒が初めて経験する同世代との大掛かりなパーティなので、非常に活気があった。
エリーナと一緒に会場に入ったセイヤは、その初めて見る雰囲気に、わずかばかり圧倒されていた。
「――あら。セイヤでもこの雰囲気には驚くのね?」
「姉上。私でも驚くときは驚きますよ」
全生徒が集まる集会等が開かれる講堂が、この時ばかりはパーティ会場として早変わりしている。
しかも、飾りつけやあり得ないほど豪華な照明などは、とても学生が用意したものとは思えないほどだった。
正直に言えば、所詮は学生が用意するパーティだと侮っていたセイヤは、流石は貴族が集まる学園だとちょっとずれた視点で感心していた。
ちなみに、歓迎パーティは学生が用意するのだが、生徒会が中心となっているわけではない。
そうでなければ、副会長であるエリーナがセイヤと一緒に来られるはずがない。
こうした学生中心のパーティは、事前に選ばれた生徒が全ての準備を行うのだ。
これだけの催しを準備するとなれば、それだけ時間がかかるのはすぐにわかるので、生徒会以外の団体が別にあるというのも納得だった。
セイヤと同じように驚いたような表情を浮かべているのは、やはり同じ新入生だということがわかる。
逆に、在校生たちは当然のように思い思いの表情を浮かべながらこの雰囲気を楽しんでいるようだった。
そして、いよいよ歓迎パーティの開始時間が迫ると、執行委員らしき者たちが会場中で声をかけ始めた。
スピーカーなどがあるわけではないので、ある程度の場所に人を配置して大声を張り上げなければならないのだ。
「そろそろパーティが開始されます! 初めの挨拶があるので、皆様お静かにお願いいたします」
会場のそこかしこでそうした声が聞こえてくると、慣れている在校生から静まって行った。
それを確認して、新入生が慌てて口を噤んで行った。
参加者たちが静まるのを待っていたかのように、会場に用意された壇上に、執行委員の代表が上がった。
「皆様、今宵は新入生歓迎パーティにお集まりいただき、ありがとうございます。これよりパーティの開始を宣言したします! 皆様存分にパーティをお楽しみください」
そこで一区切りした代表は、一度会場中を見回してからさらに続けた。
「では、はじめに、学園の現生徒会長からご挨拶の言葉があります。新入生の皆様、これもパーティの様式美ですので、退屈だとは思わずにしっかりと話を聞いてあげてください」
代表の人を食ったような言葉に、会場の一部でクスリとした笑い声が上がった。
その雰囲気からも何となくいつものやり取りなのだと察することが出来た。
戸惑ったような表情になっている新入生とは対照的だった。
そして、壇上にはセイヤが良く知るクリステルが上がって挨拶をすることになるのであった。
このあとはクリステルの挨拶! ……は飛ばします。
そんなものに行数を使っても仕方ないですから。
それはともかく、特クラスはその名前の通り特別なクラスです(そのまんまw)。
どういった生徒が集まっているかは、次話以降で語ります。
ちなみに、成績優秀者だけが集まっているわけではありません。




