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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部4章
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(9)初デート(保護者? 付き)

 エリーナの自爆(?)のお陰で、それまでの雰囲気が変わった車中では、セイヤとクリステルが学園での生活についての会話をしていた。

 ちなみに、お相手がいないことを揶揄されたエリーナは、セイヤの隣で膝を抱えたまま膨れている。

 セイヤがクリステルと話している学園生活の内容は、それこそ日常の他愛もないようなことから、授業の内容まで多岐にわたっている。

 そもそも目的地に着くまでの話題なので、内容はどうでもいいのだ。

 といっても、これから学園に入ることになるセイヤにとっては、非常に興味がそそられる話なのだが。

 

 その中でセイヤが特に興味を引かれたのは、学園にある図書館の話だ。

「――ということは、学園で使える図書館は、かなりの蔵書があるということですね?」

「ええ。少なくとも私が初めて見たときは、すごく感心しました」

 学園に入る前にある程度の情報は、親から仕入れていたとはいえ、やはり生の情報は得難いものである。

 勿論、長期休暇に帰って来る兄弟たちからも話を聞いてはいるが、どうしても自分の今後のことを考えて、人間関係などに偏ってしまっていることもある。

 結果として、細かい学園の様子などは、まだまだ知らないことも多いのだ。

 

 領地の屋敷にある本を読みこんでいたセイヤとしては、学園に置かれている本には興味がある。

 何しろ、この世界での歴史や科学的(?)な考察がどのようになされているのか知るには、本からの情報が一番なのだ。

「そうですか。それは楽しみですね」

 セイヤがそう図書館の本に興味を向けると、クリステルもそれに気づいたのか、頷きながら続けて来た。

「ええ。楽しみにしていていいと思います。それに、これはセイヤでしたら言ってしまっても構わないと思うので言いますが、禁書の類が収められた場所もありますよ?」

「禁書、ですか。それは、確かに興味を覚えますね」

 クリステルの説明を聞いて、セイヤは真面目な顔になった。

 

 禁書といっても、古すぎで表に出せない物や、貴重な資料としての価値があるものまで、様々なものがある。

 そうした貴重な資料が目にできる機会など滅多に訪れるわけではないのだ。

「勿論、そうした場所に入るためには、いろいろな条件があるのですが……セイヤでしたらすぐにでもクリアしてしまいそうですね」

 そう言ってくすくすと笑ったクリステルに、セイヤは笑みを返した。

 ちなみに、既に頭の中では、王あたりに頼めば何とかなるかなと考えていたりする。

 

 

 最初のときにあった緊張などすっかり忘れて会話を弾ませるセイヤとクリステルに、ようやく復活したらしいエリーナが口を挟んできた。

「あーあ。もう少しセイヤをからかいたかったのに、何でもう慣れてしまっているのかな?」

「いや、そこで何でと言われても困るのですが……」

 セイヤにしてみれば、クリステルのような美人と話をしていられるのは、とても嬉しい。

 折角の時間なので、十分楽しもうと考えているだけだ。

 クリステルはクリステルで、今まで貯めこんでいた分、話したいことはたくさんあるので、話題が尽きることはない。

 

 考えていた目論見がすっかりずらされて、いじけるエリーナに、クリステルが止めを刺した。

「悪いことを考えても、中々上手くいかないということでしょうね。諦めた方がいいと思いますよ?」

「あ~、ハイハイ。どうもすみませんね。私が悪かったわよ」

 貴方の考えていることなどお見通しだと言わんばかりのクリステルに、エリーナは肩をすくめながらそう答えた。

 そのやり取りを見ているだけで、二人が本当に仲がいいことが、セイヤにも分かった。

 

 それを見ていたセイヤは、ふと疑問を口にした。

「そういえば、お二人が知り合ったきっかけは聞いていましたが、そこまで仲が良くなった理由は聞いていませんでしたね」

 セイヤがそう言うと、クリステルはそうなのという顔になってエリーナを見た。

「あら。そういえば、言っていなかったかしら? それはね――」

 すっかりいつもの様子に戻ったエリーナは、クリステルとの過去の出来事について面白おかしく語り始めた。

 さらにクリステルが、それは違うと口を挟んだりして、結局最初の目的地であるレストランに着いてからも、ふたりの過去話は続くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 食事を終えたセイヤたちは、その流れで洋服屋へと繰り出した。

 公爵令嬢や辺境伯令嬢ともなれば、屋敷に呼びつけてオーダーするのが普通なのだが、クリステルもエリーナも特に違和感なく店になじんでいた。

 勿論、店自体はふたりが入っていてもさほど違和感があるような作りにはなっていない。

 二人の様子から見ても、すでに何度も通ったことがあることが分かる。

 店員たちも既にいクリステルとエリーナのことは察しているようで、店に入るなりササッとそれぞれに店員が付いて、一生懸命にセールストークをしていた。

 ちなみに、この店の場合、店頭に置かれているのはあくまでもデザインや型を見るためのもので、実際にそのものを買うわけではない。

 サイズその他をきっちりと合わせたうえで、オーダーメイドで頼むシステムになっている。

 

 一方で、セイヤは放置されているのかといえばそうでもない。

 クリステルとエリーナが互いに話をしている間は、店員に話しかけられていた。

 店側にとっては、たとえ見た目が子供だろうと、クリステルとエリーナと一緒に来ている時点で、獲物の一人として認識されている。

 この場合は、間違いようがないので店側もセイヤから情報を得ようと、必死になっているのがわかった。

 勿論、対応している店員は、そんな様子はおくびも見せていないが、少し考えれば分かることである。

 

「――――ほほう。ということは、坊ちゃまはエリーナ様の弟様ということですか」

「ええ。そうです。不肖の弟ですよ」

 別に最初から隠すつもりのなかったセイヤは、冗談めかして店員にそう答えた。

 だが、何を思ったのか、セイヤの言葉を聞いた店員は、一瞬でそれまで浮かべていた笑みをさらに深めて言った。

「おやおや。どうにも貴方様は、お年の割にはなかなかにやり手のようですね」

「ハハハ、それは買い被りというものです」

 セイヤのような見た目で、こんな受け答えが出来る時点で普通ではないのだが、そこは店員も言ってこなかった。

 言っても無駄であり、そこは必要のないことと理解しているのだ。

 

 最初は子供と侮っていたが、一筋縄ではいかないと認識を改めた店員と、目の見えない攻防をセイヤが繰り広げていると、ある程度決まったのかクリステルとエリーナが近付いて来た。

「あら。随分と会話が弾んでいるようね」

「そうですね。お邪魔でしたか?」

 わざとらしくそんなことを言ってきたクリステルとエリーナに、セイヤが肩をすくめながら答えた。

「いえいえ。そんなことはありませんよ。普通の会話をしていただけです」

「そう? だったら、こっちに来て、一緒に選んでね」

 クリステルの言葉に、セイヤは大人しく従った。

 勿論、店員もそれを止めるような愚行は侵さない。

 最後の最後に男に選ばせるというのは、女性にとっての楽しみのひとつでもあるのだ。

 

 

 そんなこんなで、セイヤとクリステルの初デート(保護者付き)は、それぞれが楽しんで終えることが出来た。

 ちなみに、お互いに贈り物などはしていない。

 これは、そういったことをしてしまえば、その時点で婚約していることを認められることになるからだと、エリーナから説明されている。

 それを聞いたセイヤは、貴族は男女関係には厳しいのだなと意外に思うのであった。

 

 後日、この店員は、この日応対した子供が、貴族の間で噂になっている「セイヤ」だということが分かるのだが、それはまた別の話である。

無事に(?)、クリステルとの初デートは終わりました。

…………さっさとくっついてしまえ!


ま、まあ、それはともかくとして、セイヤはクリステルに、ひとつ重要なことを確認していないので、

実際にくっつくの(婚約)は、もう少し先になります。

その重要なことがなにかは、少しだけお待ちを。

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