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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部4章
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(7)宣言

 シェリーとハンナに『旭日』のメンバーへの教育を任せたセイヤは、その足で王都の屋敷へと戻った。

 領地の屋敷に戻らなかったのは、既に二人の母親にも挨拶を終えているということと、マリーにつかまると時間が取られてしまうからだ。

 一言でいえば、最近のマリーは、セイヤの姿を見つけると、すぐに魔法を教えるようにと要求してくる。

 その向上心はセイヤとしてもとても嬉しいもので、いくらでも教えてあげたいのだが、流石に今のセイヤは時間が無さすぎる。

 マリーに魔法を教えると半日単位で時間が消費されることも珍しくないので、今回ばかりは遠慮したかったのだ。

 もっとも、逃げるようにして王都に戻ってきたセイヤには、残念だという気持ちが渦巻いていたが。

 こればかりは仕方ないと涙を飲むしかない。

 学園の寮に入るまで数日あるが、それでものんびり過ごすというわけにはいかないのである。

 

 

 転移魔法を使って王都の屋敷に戻ったセイヤは、そこで一番面倒な人物に見つかった。

「おや、セイヤ。今まで姿が見えなかったようですが、どちらにいらしていたのかしら?」

 セルマイヤー家のなかでセイヤが会って一番面倒だと考える人物はリゼしかいない。

 そのリゼに見つかったセイヤは、内心でため息をつきつつ、無難な返事を選――ぼうとして止めた。

 何故だかは分からないが、このときのリゼは、侍女を一人も連れていなかったのだ。

 普通はどんな時でもお付きの人間を連れて歩くリゼとしては、非常に珍しい。

 セイヤは、この機会を絶好のチャンスだと考えた。

 

 わざと、見せつけるように盗聴防止の結界を張ったセイヤは、少しだけ驚いた顔になったリゼに、何気ない表情のままこう返した。

「少しだけ時間があったものですから、領地に戻って父上と話をしてきました」

 本題は『旭日』に会うことだが、そんなことはわざわざ言うつもりはない。

 それよりも大事なのは、この短時間で領地に戻っていたという事実だ。

 案の定、セイヤの目論見通りにリゼは眉をひそめながら言ってきた。

「何を仰っているのですか。領地まで一体、どれくらいの時間がかかると……」

「リゼ母上ももうご存知なのですよね? 私が不可思議な力を使えることを?」

 自分の言葉をわざと遮ってそう言ってきたセイヤに、リゼは思わず黙り込んでいた。

 

 それを見たセイヤは、肩をすくめながら続けた。

「信じるか信じないかは貴方にお任せしますが、別に父上マグスに確認を取っても構いませんよ?」

「……どういうつもりかしら?」

 いきなり重要な情報を出してきたセイヤに、リゼは表情を隠すことなく探るような視線を向けて来た。

 それはそうだろう。

 これまで魔法の魔の字も匂わせていなかったセイヤが、嘘か本当かはともかくとして、領地との距離を一瞬で移動できると言ってきたのだ。

 リゼでなくとも、どんな目的があるのかと考えるのは当たり前だ。

 

 セイヤもその考えを十分にわかった上で、リゼに答えた。

「どうもこうもありませんよ。折角の機会ですから、私の考えを知っておいて欲しかっただけです」

 セイヤとしては嘘偽りなく言ったつもりだったが、その言葉をリゼがどう受け取ったかは分からない。

 それでもリゼが何も言わずに、先を促すように黙っていたのはセイヤにとってもあり難かった。

「はっきり申し上げますが、私は貴方や貴方の子供たちに直接教えるつもりは、今のところはありません。余計な手を回して無理やり状況を作ったとしても、拒絶するつもりですから、そのつもりでいてください」

 リゼであれば、セイヤが逃げるのが難しい状況を作ることも可能だろうと考えたうえで、そう言った。

 それは、たとえそれまで作った貴族との関係を壊すことになってもあり得ないという宣言だ。

 

 これまでにないほどの内容で言ってきたセイヤに、リゼは怒るでもなく静かに聞いて来た。

「本当にそんなことが出来るのかしら、ね?」

 表情こそ変わっていないものの、本音をのぞかせるリゼのその言葉に、セイヤは笑みを浮かべながら答えた。

 変に本音を隠しながら話をされるよりも、今のリゼのほうがずっと好感が持てる。

「少なくとも、今の王家とセルマイヤー家に関しては、貴方が考えている以上に強いと思ったほうが良いですよ」

 いざとなれば自分には王家とセルマイヤー家が付くというセイヤの言葉に、リゼは再び押し黙った。

 リゼほど社交で活躍しているのであれば、セイヤと王の関係も耳に入ってきてもおかしくはない。

 さらに、魔法という存在が明らかになった以上、セイヤの立場がこれまで以上に強くなるのも目に見えている。

 

 黙ったままのリゼに、セイヤはさらに続けた。

「それに、どうせ私が教えなくとも、他のルートで教わる機会はあるのですよね?」

「あら。何のことかしら?」

 少なくとも表面上は何の感情も見せなかったリゼに、セイヤは再び肩をすくめて答えた。

「別に隠さなくても良いですよ。試験のために王都に来たときから気付いていましたから。以前と違って、貴方たちが拙いながらも魔力を制御していることに」

 そう言ったセイヤに、リゼはうっすらと笑みを浮かべた。

 

 セイヤには、その笑みがどういう意味を持っているのかまでは分からなかった。

 だが、リゼたちがどういうルートであれ、魔法を学ぼうとすることを止めるつもりはない。

 先ほどの宣言は、あくまでも自分が直接教えるつもりはないということだけなのだ。


 それに、セイヤは過去のことはともかくとして、今のリゼに対してどうこう思うことはほとんどなかった。

 何故なら――。

「今の私にとっては、はっきりいえば貴方はどうでもいい存在ですから」

 はっきりとそう宣言したセイヤに、リゼは浮かべていた笑みを消して、再び無表情に戻った。

「どういうことかしら?」

「いや、特に深い意味はありませんよ。以前の私たちに対する態度はともかく、貴方のセルマイヤー家に対する貢献度はわかっているつもりですから。その調子で頑張っていただきたいと思うだけです。もっとも、セルマイヤー家をどうこうしようと考えるのであれば、話は別ですが」

 セイヤは、自分やその周囲に直接の害が無ければ、特に何もするつもりはないと宣言した。

 

 セイヤのその言葉をどう受け取ったのか、リゼはジッとセイヤを見たまま短く答えた。

「――そう」

「まあ、過去のことに関しては、私が魔法を直接教えないという代償を受けたのだと思ってくれればいいのですがね」

 セイヤは、敢えて直接リゼにそう伝えることで、これ以上の面倒を自分に向けるなと暗に伝えた。

 先ほどの言葉と合わせれば、自分もセルマイヤー家の為に動いているんだから、共通するところはあるだろうという意味も含めている。

 それをリゼがどう考えて行動するかは彼女次第だ。

 

 

 セイヤの言葉に、リゼは特になにも言ってこなかった。

 とにかく、セイヤとしていま彼女に伝えたいことは伝え終わった。

 張っていた結界を解除したセイヤは、一礼をしたあとリゼの元を去ろうとした。

 そのセイヤに、リゼがわざとらしく思い出したような顔になって言った。

「そう言えば、公爵令嬢からの手紙が届いていたようですよ。忘れずに確認するように」

 セイヤの元に直接手紙を出してくる公爵令嬢など、一人しか思い当たりがない。

 敢えて名前を出してこなかった意味はセイヤにも分からなかったが、少なくとも隠すつもりはないという意思表示に思えた。

 もっとも、今までの会話が無かったとしても、公爵令嬢からの手紙を隠すような真似をリゼがするとも思えなかったが。

 

 とにかく、リゼの言葉に礼を言ったセイヤは、その手紙を確認するために、自室へと向かうのであった。

何気にリゼとの直接の話し合いはこれが初めてでしょうか?w

とにかく、セイヤとしてはリゼはどうでもいい存在と伝えたかったということです。

あとは、魔法は教えてあげないよんというだけです。

まあ、この先どうなるかはまだまだ分からないところはありますが、しばらくリゼの登場はない……はずです。タブン。

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