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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部4章
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(4)約束通りのお仕置き

 クリステルとの会話が終わった後で、セイヤはキティから「生徒会長と知り合いなんて聞いてないわよ!」とこっそりと言われてしまった。

 セイヤにしてみれば、クリステルが生徒会長であることは今日知ったことだったので、どうしようもできない。

 まあ、セイヤがクリステルと昔からの知り合いである以上、キティとイアンが話をすることになるのは、時間の問題だっただろう。

 それはともかく、キティは聞こえないように言っているつもりだろうが、しっかりとその言葉は届いていたようで、クリステルはニコリと笑みを浮かべていた。

 恐らくキティやイアンは気付いていないだろうが、あれは間違いなく聞こえているという意思表示だろう。

 もっとも、セイヤもそのことに気付いていながら、気付いていないふりをしていたのだが。

 

 周囲の視線を集めつつ、軽い話題を話していたセイヤたちは、ついに学園の門のあるところまで来た。

 そこで、クリステルがセイヤにこう聞いて来た。

「セイヤは、これからどうするのですか?」

「いや、実は何も決めていませんでしたね。……ああ、せっかくの機会ですから、ジェフリー兄上にお仕置きをするのもいいかもしれません」

「ウゲッ!」

 何気なくジェフリーを見ながらセイヤがそう言うと、その当人は蛙が潰されたときのような声を出した。

 当然のように顔はしかめ面になっている。

 

 そのジェフリーの顔を見て、エリーナがひらりと身を翻して、

「あ、あら。私はこれから学園の用事が…………」

 と、言ったところで、ガシリとクリステルに腕を掴まれた。

「今日は、なにも用事がないからセイヤのところに行くと言っていましたよね?」

 そう言いながらニコリと笑ったクリステルを見て、セイヤも同じような顔になった。

「それはいいことを聞きました。せっかくですから二人一緒にしましょうか」

 セイヤがそう宣言すると、エリーナは裏切り者と言いたげな表情でクリステルを見た。

 ちなみに、この時点でジェフリーは逃げられないと悟ったのか、諦め顔になっている。

 

 そんなエリーナとジェフリーに、セイヤはもう一度ニコリと笑って言った。

「というわけですから、どこか戦闘するのに良い場所はありませんか?」

 せっかく二人と模擬戦とはいえ戦えるのだから、周囲を気にしなくても大丈夫な場所がいい。

 屋敷の庭で戦うのには、少しばかり手狭なのだ。

 そのセイヤの要望に答えたのは、やはりというべきかクリステルだった。

「それでしたら、学園の練習場を使えばいいと思いますよ。セイヤたちなら、学園の先生方も拒否はしないでしょう。既に合格もしていることですし」

「そうですか? それでしたら、手続きは……」

「私がやります」

「ありがとうございます」

 エリーナとジェフリーが口を挟むよりも早く、セイヤとクリステルで事が進んで行った。

 何とか抵抗しようとしていたエリーナが、手続きやら何やらで反論しようとしていたが、クリステルがそれを封じたわけだ。

 

 そんな四人のやり取りを、話に着いていけないキティとイアンがポカンとした表情で見守っていた。

 この場合、自分たちが口を挟んでいいかも分からなかったのだ。

 もっとも、どういう流れでそんな話になっているのかもさっぱりわかっていなかったので、口を挟む余地が無かったともいえるのだが。

 とにかく、キティとイアンはただただ流されるままに、セイヤたちの後に着いて行った。

 勿論、行くべき場所は、クリステルが提案した学園の練習場である。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 練習場を借りる手続きはすぐに終わった。

 クリステルが生徒会長で、もとから信用があることに加えて、噂になっているセルマイヤー家の兄弟が模擬戦を行うとあっては、貸さないはずがない。

 普段から騎士を目指している生徒には借り易い訓練場だが、今回はさらに早かったとクリステルが笑っていた。

 そして、借りた練習場へセイヤたちが足を運ぶと、そこにはなぜか学生が集まっていた。

 この日は合格発表ということで授業もなく、騎士を目指している多くの生徒たちが訓練を行っていたのだ。

 そこに、セルマイヤー家の人間が来たということで、さらに噂を呼んで人が集まってきたのだ。

 セイヤが見た感じでは、そのほとんどが野次馬根性の物見遊山での見学ではないかと思われた。

 

 だからといって、セイヤがやることは変わらない。

 いつものように準備運動を行っていると、なぜかそれにクリステルも加わって来た。

「……クリステル。貴方も参加するのですか?」

「ええ。せっかくの機会ですもの」

 セイヤと戦いたいのであれば、これから先いくらでもあるだろうに、敢えてこの場を選んだというは、クリステルらしいと思うべきかとセイヤは悩んだ。

 だが、目の前にあるクリステルの笑顔を見て、機会があればそれこそいつでも来そうだなと思い直した。

 クリステルの目は、以前に見た街にお忍びで繰り出していたときのものとまったく同じだったのだ。

 

 

 まずはお仕置きということで、張り切っているクリステルを除いて、エリーナとジェフリーを相手に訓練を行った。

 その様子を見ていた周囲の者たちが騒めいていた。

 そもそもエリーナとジェフリーは、学園の中でも上位者に入る実力があるのだ。

 しかも、姉弟ということもあってか、連携にも優れていることが知られている。

 ところが、その二人を同時に相手にして、セイヤはそれこそ軽くあしらうようにして戦っている。

 それどころか、戦いの最中にそれぞれの弱点となっているところを次々に指摘していく始末である。

 誰が見ても、セイヤの実力が突き抜けていることが分かる戦闘だった。

 ちなみに、戦闘が終わったあとは、エリーナとジェフリーは息も絶え絶えという状態になっており、セイヤのお仕置きは無事に終わったと言える。

 更には、セイヤの息はほとんど乱れていないことからも、実力の差は感じられた。

 

 乱れた息を抑えるために休憩をしていたエリーナとジェフリーに、セイヤが笑いながら話しかけた。

「二人とも全体的には伸びているようですが、まだまだ扱い方がスムーズではないですね」

 敢えて何がとは言わなかったセイヤだが、二人にはそれだけでしっかりと伝わったようだ。

「そうはいってもな。セイヤなしで訓練するのは、限界があるぞ?」

「そうね。どこをどうすればいいのか、中々気付きにくいもの」


 そんなことを言ってきたふたりに、セイヤはため息をついた。

「何を言っているのですか。いつまでも私におんぶに抱っこでは、本当の意味で実力は伸びませんよ」

 セイヤはこれからどんどん忙しくなってくるのだから、ずっと傍にいてみていられるはずもない。

 そもそも普通に戦闘を習う場合でも、いつまでも教師の元で習っていくわけにはいかないのだ。

 ある程度まで行けば、あとは自分自身の力で試行錯誤していくしかない。

 

 もっともなセイヤの言葉に、エリーナとジェフリーは黙り込んだ。

 二人ともそれはわかっているのだが、中々上手くいかないのが現状なのだ。

 それがわかっているセイヤも、敢えてそれ以上は厳しいことは言わない。

「まあ、とりあえず今は、まだまだやるべきことがたくさんあるとわかっただけでも良かったのではないですか?」

 先ほどまでの助言(?)を参考にすればいいと続けたセイヤに、エリーナとジェフリーは頷くのであった。

傍から見れば、お仕置きというよりも、指導?

という感じですが、エリーナとジェフリーにとっては、やっぱりお仕置きですw


次のクリステルを交えての戦闘は、次話でちょっとだけ触れることにします。

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