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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部3章
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(9)実技試験

 周囲の騒ぎが騎士たちによって静められるのを見ていたセイヤは、若干あきれたようにため息をついた。

「流石の手際といえますが、そこまでして貴方が出てくる必要はあったのですか?」

 そう言ったセイヤの視線は、ヘルマンに向いている。

 その視線を受けたヘルマンは、ニヤリとしたあとでセイヤに向かって言った。

「何。そもそもお前が煽ってきたと聞いているぞ?」

「別に煽ったつもりはないですよ。ただ、前もって知らせておこうと思っただけで」

「ふむ。お互いに認識の相違があったようだな。だが、もうそれはどうでもいいではないか」

 その言葉通り、既にこの場にヘルマンが来ている以上、今更どうすることもできない。

 

 セイヤとしても一応文句は言ったものの、よく考えればこの状況は願ったりの状態といえる。

 だからこそ、文句を言ったりはしていないのだ。

「それもそうですね。それで? いつ始めるのですか?」

「うむ。私はいつでも構わないぞ」

「それは、私もです」

 セイヤがそう言って頷くと、ヘルマンは視線を審判役へと向けた。

 そして、いよいよセイヤの学園入学実技試験が始まるのであった。

 

 

 ヘルマン・ベーアは、二メートル近い身長とその見事な体躯を生かした動きをする大騎士だ。

 今回は試験というわけで着ていないが、騎士の鎧を着て立つその姿は、過去の英雄になぞらえて称えられることも多い。

 長い間騎士団長を務めている以上、強さだけではなく、その知力も注目すべき点と上げられることから、まさしく現代の英雄の一人として数えられている。

 そんな人物を相手にすることになったセイヤは、笑みを浮かべていた。

「ほう。私と相対して、その顔になるか。面白い小僧だな」

「それはまあ、貴方のような強者と戦える機会は、滅多にありませんからね。……行きますよ?」

「いつでも来い。……むっ!?」

 わざと前もって声をかけてきたセイヤの攻撃を、ヘルマンは余裕をもって受けようとしたが、すぐに表情を変えてその大きな体を半身ずらした。

 そして、ヘルマンが避けた場所を、セイヤが放った上段からの剣が通り過ぎていく。

 その攻撃の鋭さは、自分の勘の良さを改めて感じさせるほど、重く素早いものだった。

 

 体の横を通り過ぎた剣の威圧を身をもって感じたヘルマンは、それまで僅かにあった余裕をすぐに打ち消した。

 目の前にいる小僧はただの小僧にあらず、自身が全力を持って戦える相手だと認識を改めさせたのだ。

 心を切り替えるために一旦距離をとったヘルマンは、先ほどのセイヤと同じような笑みを浮かべた。

「……なるほど。これは確かに面白いことになりそうだな」

 一瞬でセイヤの実力を感じ取ったヘルマンは、やはり強者の一角といえるだろう。

 相手の見た目や年齢に惑わされずに、その本質を見抜く目は、戦いに身を投じて勝ち続けることが出来ている強者としてのものと言っていいだろう。

 

 完全に本気になったヘルマンに、セイヤは何も言わずに、再び攻撃に転じた。

 その顔は、もはや言葉はいらないと言っていた。

 そして、横からのセイヤの攻撃に対して、ヘルマンは自身の持つ模擬剣を使って受け止めた。

 その衝撃は、音という形になって、会場中に響き渡る。

 会場中に大音量となって響いたその音からすれば、普通はお互いに持っている模擬剣が折れてしまってもおかしくはない。

 だが、セイヤとヘルマンが持っている剣は、折れるどころか全く変わった様子もなく、それぞれの手の中に存在していた。

 会場中の観客が音に反応している中、セイヤとヘルマンだけはそれが当然という様子で、お互いに攻撃を始めていた。

 

 セイヤとヘルマンがお互いにできる攻撃を繰り出している中で、その様子を見守っている騎士たちは、最初は驚愕し、そのあとはジッと二人の戦いを見守っていた。

 これほどの戦いをこれほど間近に見る機会などほとんどない。

 騎士たちはそのことを知っているので、この絶好の機会にじっくりと強者の戦いぶりを見て、後の己の力にするつもりなのだ。

 もっとも、二人の戦いが高レベルすぎて、参考にできるかどうかは不明であるのだが。

 

 その騎士たちとは対照的に、セイヤと同じ受験生や学生たちは、現役の騎士団長と同等に戦っているセイヤを、驚きをもって見ていた。

 この中で誰一人として、目の前で行われている戦いがやらせであると思う者はいないだろう。

 それほどの激しい攻撃がお互いに出されており、またその攻撃をやり過ごしたりしている。

 一体どうすれば、小柄なセイヤが、大男といっていい騎士団長と互角に戦えているのか、彼らにとっては不思議の一言だった。

 

 

 騎士団長と実際に戦っていたセイヤは、一旦距離を置くことにした。

 このまま戦い続けてもらちが明かないのと、あまり時間を掛けると引き分けにされる恐れがあったからだ。

 セイヤの目標としては、ヘルマンに勝つことであって、引き分けることではない。

 今後の目的のためには、どうしても必要なことなので、それは譲れない一線なのだ。

 

 そこで距離を置いたセイヤは、ヘルマンに向かって言った。

「……一応、言っておきますね。頑張って躱してください」

「なに?」

 セイヤからの意味の分からない言葉に、ヘルマンは眉を顰めるが、それ以上は何もしなかった。

 いや、何もできなかったというのが正しいだろう。

 何しろ、セイヤの言葉が終わると同時に、何もなかったはずのセイヤの周囲に五つの塊が出現したのだから。

 ちなみに、いきなり外気法を使い始めたセイヤだが、会場には影響が起きないようにきちんと結界を張ってある。

 いまのセイヤはそれくらいのことをするだけの余裕があるのだ。

 

 手品なようなことをやり始めたセイヤに、ヘルマンは疑問に思いつつ油断しないようにより一層心を引き締めた。

 その瞬間、その塊のひとつがヘルマンの脇を通り過ぎて地面に当たった。

 そして、その瞬間、ヘルマンのすぐ傍で爆風を感じて、同時に大音量の爆発音が響いた。

「…………おい」

 思わず顔をひきつらせたヘルマンに、セイヤが頷いて見せた。

「そういうわけですから、頑張ってください。大丈夫です。貴方であれば、当たっても死にはしませんから」

 あっさりとそう言ってきたセイヤを見て、ヘルマンはこの時初めて自分の背中に冷や汗が流れるのを感じていた。

 セイヤのやっていることが手品だろうが何だろうが、実害があることは先ほどの結果でわかっている。

 流石にヘルマンとしても、正体不明の塊に当たるのは勘弁してほしいと思うのは当然である。

 

 ヘルマンに見せつけるために使った火球の分を再度補充をしたセイヤは、五つの塊を身にまとわせたまま、これまでと同じようにヘルマンに向かって行った。

 これまでと違うのは、セイヤの攻撃に火球が加わったことだ。

 先ほど火球の効果を見せつけられたヘルマンは、どうしてもそれを意識して戦わざるを得ない。

 実際、セイヤは火球が無かったときと同じような動きを見せて、更に火球自体も攻撃のひとつとして織り交ぜているのだ。

 火球を使っていなかったセイヤと戦っていたときのヘルマンは、何か他にもあるという違和感を抱いていたのだが、まさかこんな手を使ってくるとは想像もしていなかった。

 新たな攻撃手段が増えたことにより、セイヤの戦いが鈍ればよかったのだが、そんな甘いことにはならず、むしろそれが本来の戦いぶりであると主張するように、流れるように攻撃している。

 実際、ヘルマンにはセイヤの攻撃の隙を見つけることが出来ず、完全に防戦一方になっていた。

 しかも、セイヤの攻撃は、考えたくないことだが、余裕があるようにも見える。

 そのヘルマンの予想は見事に当たっているのだが、彼がそのことを知るのは、もう少し先のことなのであった。

ちなみに、セイヤは初めて大勢の人前で魔法を披露しているため、使っている魔法は抑えています。

いいところ中級の下の魔法といったところでしょうか。


結果はもう見えているので、次話は戦いを引っ張ることはしませんw

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