(7)再会
入学試験当日。
筆記試験を終わらせて学園の食堂で休んでいたセイヤは、試験とは関係ないところで感動していた。
(おお。まさかこんなところでテンプレが見れるとは思いませんでした)
セイヤにそんなことを思わせている相手は、目の前で何人かの取り巻きを従えて、食事をしながら大笑いをしていた。
この日の学園は、受験者のためだけに解放されているので、食堂にいるのもセイヤと同い年の子供だけのはずだ。
それなのに、既に取り巻きがいるということは、それなりの身分があって、以前からの付き合いがあるということが分かる。
すでに上下関係ができていることも見て取れるので、親同士の関係だということもだ。
年齢でいえば十二歳になる年なので、周囲にどう思わせるのかという分別も付いているはずなのだが、彼らはまったく気にした様子もなく大声で話をしていた。
お陰で、彼らの周囲の席に座って食事をしている者はいなかった。
ちなみに、彼らのグループ以外にもほとんどの子供たちは、仲間らしき者たちと集まって食事を行っている。
セイヤのように、ひとりで食事を取っている者は、少数だった。
(あ、あれ? これってもしかしなくても、ボッチ認定されているということでしょうか? い、いえ。気のせいですよね?)
いささか現実逃避のようにそんなことを考えていたセイヤだったが、現実からは逃れられるはずもない。
少なくとも、リーゼラン王国の貴族社会では、セイヤは紛れもなくボッチなのである。
(い、いえ。せっかく同年代の子供が集まる学園に入るのです。これからですよ、これから)
と、誰に言い訳をしているのか分からないことを考えながら、セイヤは食事を続けた。
相変わらずばか騒ぎをしている集団を見つつ、そろそろ最後の一口を食べようとしたところで、セイヤにとっての救いの神(?)が現れた。
「あ、やっぱりここにいたわよ! ……いましたね」
「キティ、言い直すのは余計に不自然だって!」
何となく聞き覚えのあるその声とやりとりにセイヤが振り向くと、キティとイアンのコンビが立っていた。
今のやり取りからか、キティが何となくばつの悪そうな表情になっている。
そのキティの顔を見たセイヤは、笑顔になりながら首を左右に振った。
「本来ならば駄目なのでしょうが、私は特に言葉使いは気にしませんよ。ご自身で話しやすいようにしてください」
「い、いえ。そういうわけには……それに、セイヤ様もその言葉使いですから……」
「ああ、私のこれは癖のようなものです。誰が相手でも同じですよ。それよりは、普段の話しやすい話し方で接していただいた方が、こちらも気を使わなくて済みますから」
セイヤがそう言うと、キティはあからさまにホッとした表情になっていた。
その顔は、誰がどう見ても助かったと書いてある。
ついでに、それを見たイアンがキティの脇を自分の肘でつついていた。
セイヤにとっては、既にそれらのやり取りは、彼らのデフォルトなんだと認識されつつあった。
二人のやり取りを笑って見ていたセイヤは、さらに続けた。
「まあ、いきなり慣れましょうと言っても戸惑いもあるでしょうから、それは追々で。それよりも、ふたりは食事は終えたのですか?」
「あ、はい。外で済ませました」
セイヤの問いに、イアンがそう答えて来た。
食堂にはすべての受験生がいるわけではなく、王都にある屋敷に戻ったり、各自で用意したものを食べたりする者もいる。
セイヤが食堂を使っていたのは、食堂で出てくる食事がどんなものかを調べるためでもあった。
決して、屋敷の侍女たちが用意してくれなかったわけではない。
外での食事を終えたキティとイアンは、学園の探索をするついでに、セイヤを捜していたそうだ。
セイヤが同じ受験生だということは以前あったときに聞いていたので、どこかにいるはずだとキティが主張したらしい。
そのままセイヤだけを探すのではなく、学園中を回ることにしたのは、イアンの提案だということだった。
「――そうでしたか。何か面白い物でもありましたか?」
キティとイアンの話を聞き終えたセイヤは、二人がどういう視点で学園を回っていたのかを知りたくて、そう聞いてみた。
だが、それが意外に思えたのか、キティとイアンが驚きで目を見開いている。
「どうかしましたか?」
首を傾げてそう聞き直したセイヤに、二人は同時に首を左右に振った。
「い、いや。だって、セイヤ様って、真面目そうに見えたから……」
「キティ!」
包み隠さず自分の考えを言ってきたキティに、イアンが再びに突っ込みを入れていた。
だが、セイヤとしてはそれくらい気安くしてくれた方がありがたいので、笑いながらキティに答えた。
「そんなことはないですよ。それに、いつも気を張っていては、疲れるじゃないですか」
「そうですよね!」
セイヤの言葉に、キティが思いっきり同意するように言ってきた。
そんなキティに、イアンはついに諦めたのか、苦笑を浮かべるだけになった。
セイヤの言葉からも矯正するのは不可能だと考えたらしい。
その二人に、セイヤはとある提案をして見ることにした。
「折角ですから、その探索とやらに私もご一緒してもいいでしょうか?」
「え? それは構わないけですれど、そんなに面白い物があるわけではないわよ?」
不思議そうな顔で言ってきたキティに、セイヤは小さく首を左右に振った。
「そんなことはないですよ。それに、どうせ時間がありますからね」
外に出て食事をする者たちのために、午前と午後の間の時間はそれなりに取られている。
これからどうやって時間をつぶすかと考えていたセイヤにとっては、学園の探索という目的が出来るのは、渡りに船だったのだ。
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王都にある学園は、貴族の子弟が通う施設だけあって、かなりの広さがある。
中には、将来騎士団に進む学生のために、狩りを行える森まであるのだから相当なものだということがわかる。
もっともその森自体は、学園だけではなく、王家や国の騎士団も共用で使っている森になるのだが。
そうした森や高学年になって使うことになる専門棟を見たりしていたセイヤは、ふと思い出すように聞いた。
「そういえば、お二人は午後の用意はしなくてもいいのですか?」
午前中は筆記試験があったが、午後からは実技が行われる。
具体的には、騎士団の騎士たちを相手に、戦闘試験を行うのだ。
学園内を歩いていると、そこかしこで、受験生たちが準備運動やちょっとした手合いのようなことを行っている光景が見られた。
そのセイヤの問いに、キティが肩をすくめながら答えた。
「今更慌てたところで、技術が上がるわけではないからね。それに、準備運動は試験が始まってからでも間に合うし」
そう言ったキティの顔は、気負いといったものがまったく感じられなかった。
それに対して、イアンは若干緊張しているように見えた。
それぞれの様子から、どちらが何を得意にしているのか、セイヤにもすぐにわかった。
さらに、キティがこうした手合いに慣れているように見えることも、だ。
貴族の女性がなぜ、と思わなくもないが、エリーナやクリステルのような例もあるので、それに対してセイヤがどうこう思うことはない。
それよりも、キティがどれほどの実力があるのか、そちらの方が気になってきている。
セイヤがその答えを知ることになるのは、もうじきのことなのであった。
やっぱり出て来たテンプレさん。
といっても、直接の関わりはなし!w
今後彼らがセイヤと関わるかどうかはまだわかりません。
キティとイアンがセイヤを探していたのは、セイヤとお知り合いになりたいという貴族らしい思惑も当然あります。
セイヤもそれをわかっていて、敢えて一緒に行動することを提案しています。
というか、そんなことを気にしていては、貴族同士の付き合いは無理です。
(それがすべてというわけではないです)




