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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部3章
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(6)事前連絡

 何やら強引に話をまとめられてしまった感があるセイヤだったが、さほど嫌な思いはしていなかった。

 そのことだけで、既にセイヤがクリステルをどう思っているのか分かるというものだ。

 気持ちの上では、はっきり「恋」だの「愛」だのになっているわけではないと断言できる。

 ただし、セイヤにとってのクリステルは、肉親を除けば一番身近な異性だったりする。

 勿論、『旭日』の面々も身近といえば身近だが、どちらかといえば生徒という感じで異性という目で見たことは、今のところは一度もない。

 ついでにいえば、クリステル自身は見目麗しく、性格も家柄も文句ないときているのだから、そもそも文句をつけるのが間違っているといえる。


 と、そんなことを考えていたセイヤは、なんだかんだでクリステルに惹かれていることを自覚した。

 といっても、それはあくまでも今までの延長の感情でしかないことも理解しているのだが。

 とにかく、これからより親密になろうとクリステルが頑張ってくるはずなので、その中で自分がどう思っているのかと、いささか受け身の考えを持つセイヤなのであった。

 ただし、本当に婚約をするとなると、問題がないわけではない。

 話し合いを終えて自室に戻ったセイヤは、そのことを思い出して、きちんとクリステルに確認をしなければと決心していた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ろうそくを含めた照明道具が高価な為、この世界の住人にとっては夜は寝るための時間だ。

 セイヤのように魔法を使えるならいざ知らず、そうではない者たちにとっては、夜まで起きて何かをしているということは裕福さを象徴することのひとつとなっている。

 勿論、植物や動物から取れる油もあるにはあるが、部屋のすべてを照らすほどの灯りが取れるはずもなく、大人しく寝るというのが普通なのである。

 そうした夜事情の中で、当然というべきか、リチャードは日が沈んでからも仕事をしていることが多い。

 一国の代表でいくらでも仕事は出てくるということもあるのだが、何よりも仕事ができる環境があるという理由が大きいのだ。

 

 この日も日が沈んでからそれなりの時間が経ってから私室に戻ったリチャードだったが、部屋の中がいつもと違っていることに気が付いた。

 というよりも、部屋の中にはっきりとした人影が浮かんでいたのだ。

 本来であれば、立場上暗殺などを疑って近くに控えているはずの護衛に声をかけなければならないところだが、リチャードはそれをしなかった。

 代わりに、その人影に向かって親し気に声をかけた。

「出来ることなら前もって知らせておいてくれると、いちいち驚かなくても済むのだが?」

「それは仕方ないでしょう? 本来の手続きを取って会うとなれば、時間がかかって仕方ありませんから。国王陛下」

 同じように軽い調子でそう返したのは、魔法を使って堂々と王宮の中枢まで忍び込んだセイヤだった。

「いや、そうではなく。其方であれば、執務中の私のところに手紙を忍ばせることなど、簡単にできるのではないか?」

「さて、それはどうでしょう? 忍び込ませたところで、他の者に見つからないわけではないですからね」

 はっきりと出来るとは言わずに、セイヤはわざと曖昧な答えを返した。

 

 相変わらず肝心なことは言わないセイヤにため息をつきつつ、リチャードはセイヤを見た。

「それで? 今日は何の用事だ? また魔物の情報か?」

 洗礼の儀で会ってから、リチャードはセイヤとこうして密会(?)もどきを何度か行っていた。

 そのたびに、国土の開発に邪魔になっている魔物の情報などをセイヤに与えていたりしている。

 狩った魔物は当然のようにセイヤのものになるのだが、邪魔な魔物を狩ってくれるだけでも国の役には立っている。

 お互いにウィンウィンの関係なのだ。

 

 いつものように問いかけて来たリチャードに、セイヤは首を左右に振った。

「いえ。今日はそうではありません。今年の学園の入試が騒がしくなりそうなので、一応ご報告しておこうかと思いまして」

 セイヤのその言葉に、リチャードは自分の目の前に立つ少年が今年入学だということを、ようやく思い出していた。

 そして、少しばかり呆れたような視線をセイヤに向けた。

「騒がしくなる、ではなく、騒がしくする、の間違いではないか?」

「そうとも言いますね」

 肩をすくめながらそう答えたセイヤに、リチャードは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

 セイヤがこうやってわざわざ自分に前もって言いに来たということは、はなから止める気はないということだ。

 例え自分がこの場で何を言っても無駄だろうということは分かっている。

 だからこそリチャードは、別の方向から攻めることにした。

「それはまあ、構わないのだが、いいのか?」

 非常に目立つことになるのだがいいのかというリチャードの問いだったが、セイヤは仕方ないという顔になって頷いた。

「どうも私の兄弟たちがしっかりと活躍してくれたようですからね。今更、という感じです」

「むぅ。なるほど。確かに言われてみれば、そうだな」

 リチャードの元にも、アーロンを始めとした兄弟たちの行動は耳に入っている。

 本来であれば、学園の数人の学生の行動など国王の耳に届くはずもないのだが、それが起こっている時点で異常事態といえるのだ。

 それだけ、「セイヤが一流になるための技術の取得方法を見つけた」という情報は、国内を騒がせているのだ。

 もっとも、リチャードはセイヤが隠しているものは、それだけではないことをよく知っている。

 そもそもなんの障害もないかのように、この場所に立っていることがその証明だ。

 

 残念そうな表情になってため息をついたリチャードだったが、ふと何かを思い出したような顔になった。

「……ということは、其方の使っている魔法とやらも、周囲に広めるのか?」

「流石にそれはまだ早すぎるでしょう? 何より、私の周囲の環境が整っていません。この状態で教え始めたら、必ず暴走する方が出てきますよ?」

 一応セイヤはセルマイヤー家の男子とはいえ、さほど立場が強固というわけではない。

 その隙を突きさえすれば、どうとでもなると考える貴族が出てきてもおかしくはないのだ。

 そうなると、下手をすれば国を巻き込んでの大騒動となる。

「それこそ、遅いか早いかの違いでしかないと思うがな?」

「そうかもしれませんが、今のままでは、舐めてくる相手も多いでしょうからね」

 今のセイヤは、外見的には、ようやく学園に入学する年でしかない。

 だからこそ、容易に与することが出来ると考える輩が多くなると考えるセイヤは間違っていないのだ。

 ただし、学園を卒業する年齢になったからといって、そういう者たちが減るかどいうかといわれれば、微妙なところなのだが。

 

 セイヤの決意は変えられないとわかっているリチャードは、それ以上はなにも言わなかった。

 それにそもそも、今日こうしてわざわざ知らせに来た通り、以前聞いた話とは予定が違っていることも理解していた。

 この調子でいけば、魔法そのものの教育を解禁するのも早まるのではという期待もある。

「そうか。まあ、それはいいのだが……今日は本当にそれだけを言いに来たのか?」

 そんなことのために、と言外に疑問を込めて行ったリチャードに、セイヤはジト目を向けた。

「何を仰っているのですか。今年は、ジェラール王子の入学する年なのですよ?」

 そう言われて、ようやくリチャードはセイヤが言いたかったことを理解した。

 同時に先ほどセイヤが騒ぎになると言ったことの意味もわかった。

 

 だが、だからこそリチャードは何ということはないという感じで、鼻先で笑い飛ばした。

「ふん。だから何だ? 其方は其方の好きなようにすればよい」

「そうですか。まあ、とりあえずは、ありがとうございます、とだけ言っておきます」

 外野のことは気にするなと断言したリチャードに、セイヤはそんなことを言いながらも、深く頭を下げるのであった。

入試でやらかしますよという、セイヤの宣言でした。

リチャードには拒否権はありませんw

まあ、最初からそのつもりはなかったですが。

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