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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部3章
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(4)セイヤの噂

 蛇に睨まれた蛙状態になっていたセイヤは、これは駄目だと大きく深呼吸をした。

 エリーナとクリステルの目の前で堂々とそんなことをしたのは、今のままだと話に流されて、とんでもない方向に向かうと考えたためだ。

 それに、わざと目に見えるようにして、これから反論していくと宣言する意味もある。

 現に、セイヤの様子を見て、エリーナとクリステルは一瞬だけ視線を交差させて小さく笑っていた。

「話を聞く準備は良いかしら?」

 笑みを浮かべたままのエリーナがそう聞いてきた後に、セイヤは頷きを返した。

「ええ。驚いてばかりはいられませんからね。それで? 道を踏み外すというのはどういうことでしょう?」

 ごまかしは許さないという意味を込めて真剣な表情になったセイヤに、エリーナが肩をすくめた。

「どうもこうもありませんよ。セイヤは、今まで社交的なことを一切やってこなかったから、そっちの分野は疎いでしょう?」

「社交、ですか? それでしたら父上とも対等に話ができていますが?」

 実際セイヤは、領地の運営に関してもマグスと一緒になって話をしている。

 ついでに、交渉的なことも行っているので、同年代の子供たちに負けるとは考えていない。

 だが、これはあくまでもセイヤの認識であって、重要な部分を忘れている。

 

 不思議そうな顔をして首を傾げるセイヤに向かって、エリーナが盛大にため息をついた。

 そして、それを見ていたクリステルはくすくすと笑い出した。

「これで素なんだから、本当に大物よね」

「まあ、いいではありませんか。セイヤらしくて」

「はいはい。ご馳走さま」

 セイヤにはエリーナとクリステルの会話の意味がまったく分かっていない。

 

 変わらず首を傾げたままのセイヤに、エリーナがビシッと指を指した。

「あのね、セイヤ。言っておくけれど、それが通じるのはあくまでも実務での話でしょう? 現に、今も恋愛関係の話はまったく通じていないわよね?」

「うぇっ!?」

 まったくもって図星の言葉に、セイヤはひっくり返ったような声を出した。

 別に避けて来たわけではないが、そもそも傭兵としての活動以外に、姉妹以外の異性と話をすること自体が少なかったのだから、こうなるのも仕方のない面がある。

 もっともそれは、エリーナに言わせれば、セイヤがそうした分野から逃げていたともいえるのだ。

 

 微妙に視線を揺らしているセイヤを見て、今度こそクリステルが小さくため息をついた。

「その調子ですと、あっという間に他のご令嬢たちに狙われて終わりですね。やはり、道を踏み外すということは間違いないですね」

「……私としては微妙に不本意なのだけれど」

「あら。では、ほかにいい方法があれば、教えてください」

「……ないわね」

 先ほどと同じような会話が繰り返したエリーナとクリステルを、セイヤは交互に見た。

 さすがに今の話の流れのお陰で、二人が何を言いたいのかは理解できた。

 大した繋がりもない貴族の令嬢に騙されると言いたいのだ。

 

 ようやく二人の懸念が分かったセイヤだが、不満そうな顔になって抗議した。

「いくらなんでも言い過ぎではないでしょうか? 確かにそちら方面には疎いことを認めますが、だからといって変な女性に流されるようなことは……」

 ない、と言おうとしたセイヤだったが、すぐにエリーナとクリステルにため息をつかれた。

「そういうことを言っているから駄目なのですよ」

「そうね。今のセイヤだったら、知らない間に言質を取られて、あっという間に婚約ということになっているわ」

「ええっ!?」

 自分の常識とまったく違う二人の言葉に、セイヤは思わず驚きの声を上げてしまった。

 気付かないうちに婚約させられるとは、どういうことなのか。

 それに、そもそもなぜ自分がそんな対象になるのかも分からない。

 

 疑問に思ったセイヤは、少しばかり危機意識を持ってエリーナとクリステルを見た。

「……ええと。非常に怖い言葉を聞いた気がするのですが、どういうことでしょう? なぜいきなり婚約なんて事態に?」

 そのセイヤの言葉を聞いたエリーナは、眉間に右手の人差し指を当てた。

「全く……。これだから領地の屋敷だけに閉じ込めておくのは、反対だったのよ」

「まあまあ。セイヤも今まで色々と忙しかったのですから、それは仕方ないのでしょう」

 少しばかり怒気がこもったエリーナを宥めるように、クリステルがポンポンと肩を叩いた。

 

 

 このままでは話が進まないと判断したエリーナは、今の学園と貴族社会の状況をセイヤに話し始めた。

 そして、エリーナとクリステルから話を聞いたセイヤは、さすがにまずいと顔色を変えることになる。

 その話の内容とは、勿論セイヤに関係することになる。

 もともとセイヤに関しては、学問と戦闘力に優れた神童であるという話はあった。

 ただ、セイヤ自身はあくまでもセルマイヤー領の四男であるということから、社交のメインの話に出てくるような存在ではなかったのだ。

 ところが、セイヤにとっての三番目の兄であるジェフリーが学園に入学した昨年に、その状況が一変することになる。


 事の発端は、これからセイヤも控えている学園に入学する際の試験に始まる。

 ジェフリーが戦闘力を試す試験を受けた際に、つい本気になって(・・・・・・)戦ってしまったそうだ。

 一言でいえば、セイヤからしっかりと習った内気法を使って戦ったのだ。

 勿論、使い始めたばかりの内気法で戦っても、試験官を圧倒できるほどの強さではなかった。

 ただ、学園に入学するかしないかの少年が、試験官と互角以上の戦いをしたことで、ジェフリーが注目を浴びてしまった。

 一体どういう訓練をしているのかと問い詰められることになったジェフリーは、ついセイヤのことを漏らしてしまったのだ。


 それにより、一気にセイヤの名前が知られることとなる。

 さらに、変な噂の広がり方を恐れたアーロンとエリーナが、内気法についてのある程度の情報を周囲に話すことにした。

 この辺りのことは、マグスを通してセイヤも聞いていたので知っていたが、まさか裏でそんなことがあるとは考えていなかった。

 ちなみに、内気法について話をしたといっても、魔法云々という話をしたわけではない。

 今まで一流と呼ばれる人だけが使えていた技術を、セイヤが体系的に訓練できるようにしたという話を広めただけである。

 その時点でアーロンとエリーナの強さも学園では有名だったので、ますますセイヤについての話が広まったというわけだ。

 

 エリーナとクリステルから話を聞かされたセイヤは、大きくため息をついた。

「要するに、大体がジェフリー兄上のせいというわけですね?」

「そうね。ジェフリーも若気の至りという言葉の意味を、今では十分に理解しているのではないかしら?」

 エリーナもまだまだ若いのだが、そんなことを言って場を和ませてきた。

 もっとも、セイヤも本気で怒っているわけではないので、その話に乗っかった。

「なるほど。とりあえず、ジェフリー兄上には、あとで思いっきり訓練をしましょう」

 セイヤのこの言葉の意味は、今までのように裏でこそこそとではなく、人々の前で披露すると言っている。

 わざわざエリーナが忠告するほど噂が広まっているのであれば、そもそも強さを隠す意味がないし、何よりもセイヤの強さ自体が牽制になる。


 セイヤの言う「訓練」がどれほどのものか、身をもって知っているエリーナは、真顔で頷いた。

「そうね。しっかりと教えてあげて」

「何を他人事のように言っているのですか。姉上も一緒に訓練するのですよ?」

 セイヤのその言葉を聞いたエリーナは、げんなりとした表情になった。

「一応、私は嫁入り前なのだけれど?」

 セイヤと本気の訓練を大勢の目の前でやればどんなことになるのか、しっかりと理解しているエリーナとしては一応、そう抵抗してみた。

 だが、それもむなしく、セイヤはニコリと笑顔を浮かべた。

「それこそ、今更ですよね?」

 こうして、ジェフリーの知らないところでセイヤとの一般公開訓練(?)が決定するのであった。

 そして、話はそこからさらに別の方向へと進むのだが、このときのセイヤはまだそれを知らないのであった。

お、終わらなかった><

クリステルとの話し合いはまだ続きます。

肝心の(?)「計画」についてはまったく触れられていませんから。

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