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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部3章
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(2)情報交換

 キティとイアンに挨拶をしたあとで、セイヤはふたりを自分の馬車へと誘った。

 いまいる街道の先には一つの街と王都しかない。

 別にバラバラで進んでも構わないのだが、セイヤとしては学園に行く前に情報を仕入れておきたかったのだ。

 特に知りたかったのは、自分やセルマイヤー領が同年代の子供たちに、どのように認識されているかということだ。

 屋敷にいるときには、アーロンから話を聞いたりしていたが、旅に出ている間に変わったこともあるかもしれない。

 キティとイアンは、自分と同じように王都にはいなかったようだが、それでも貴族界(?)では半引きこもりのような生活をしていたセイヤとしては、貴重な情報源なのだ。

 今晩泊まることになる街に入る前までの距離まではさほどもないので、ちょうどよかったのである。

 

 セイヤの馬車に乗り込んだキティは、興味深そうに中を見回していた。

 そして、あとからついてきたイアンは、彼女の腕をつついている。

 令嬢としてははしたないと言いたかったのだろう。

 案の定、キティはハッとした表情を浮かべたあとで、取り繕ったような笑顔になっていた。

 今のやり取りを見ているだけでも、ふたりの力関係が分かる。

 誰がどう見ても、イアンはキティのお目付け役的な位置にあるのだろう。

 セイヤは、一連のやり取りをしっかりと見ていながら、気付いていないようなふりをしてキティに笑顔を返しておいた。

 

 お招きいただきありがとうございます、いえいえこちらこそ、といったやり取りを経た後で、セイヤから二人に話しかけた。

 これは、貴族社会では身分が上にいる者が初めに話しかけるという慣習があるためだ。

 セイヤにとってみれば面倒この上ない慣習だが、上下関係がしっかりしていなければならない世界では仕方のないことだと理解もしている。

「お二人は随分と仲がよさそうですが、これから学園に向かうのでしょうか?」

「はい。来年入学になるので、王都に向かってすぐに試験ですね」

 そう答えて来たのは、どう見ても上の立場にありそうなキティではなく、イアンだった。

 これまでのやり取りから、イアンのほうがこうしたやり取りに適切だという判断からそうなっているのだろうとセイヤは考えていた。

 

 そんなことよりも、今の話で一番聞きたかったことが聞けた。

「そうですか。では、私と同じ年なのですね」

「「えっ!?」」

 何気なく言ったセイヤの言葉に、キティとイアンが同時に驚きの声を上げた。

 ただ、その後のふたりは真逆のような反応を示していた。

 キティは目をいっぱいに見開いて驚きの顔になり、イアンはジッと考え込むような表情になっている。

 しかもイアンは一言呟いたあとで、ハッとした表情になり元の如才のない笑顔に戻った。

 セイヤとしては、イアンが呟いた「セルマイヤー家の神童」という言葉が気になったが、その顔を見る限りでは聞けるような雰囲気ではない。

 

 さて次はどうするかと悩んだセイヤは、特に気にならなかった風を装って話を続けることにした。

「私もちょうど試験を受けるために王都へ向かっていた最中だったのですよ」

「そ、そうだったのですか」

 キティが慌てて驚いた表情を取り繕って、そう返してきた。

「ええ。それにしてもお二人は随分と仲が良いようですね。同じ年の知り合いがいない私としては、羨ましい限りです」

「そうなのですか?」

 望めばいくらでも知り合いは出来そうだと言いたそうなキティに、セイヤは頷きを返した。

「ええ。私は今まで領地にばかりいたので、ほとんど他の方と知り合うチャンスもありませんでしたから」

 魔法を使って好き勝手に領地外に行っていたことはさっくりと無視して、セイヤはそんなことを言った。

 

 セイヤのその言葉に何を思ったのか、キティとイアンはほぼ同時に顔を見合わせた。

「そうだったのですね。ですが、洗礼の儀の時はどうだったのですか?」

 多くの貴族の子弟は、十歳の洗礼の儀のときに、王都に滞在をして同年代の子供たちと顔を合わせる。

 だが、セイヤは王との対面のあとでさっさと領地に戻ったので、他の貴族とは会わなかったのだ。

 勿論、それで構わないというマグスの了承があったからこそできたことだ。

 

 ただ、いまのイアンの言葉には、別の意味が含まれていることにセイヤはきちんと気付いていた。

 セイヤが十歳の洗礼の儀を終えたあとに、国王と対面したことは、貴族の間で噂としてしっかりと広まっているのだ。

 その噂を確認する意味もあるのだろうと理解しつつ、セイヤはイアンの対応に感心していた。

 これから十二才になろうとしている子供だとはとても思えない。

 もっともこう考えるのは以前の世界の記憶があるセイヤだからこそだ。

 しっかりとした貴族教育を受けた子供の中には、こうした対応をしてくる者もそれなりの数、存在していたりする。

 

 内心ではイアンに対して感心していたセイヤは、なんということはないという感じでイアンを見て言った。

「幸運にも王族との対面は果たせましたが、それ以外は特になにもありませんでしたね」

「そ、そうでしたか」

 さらりと王族と会ったことを告白したセイヤに、イアンは少しだけ焦ったような顔になった。

 イアンは、これほど簡単にセイヤが王族と会ったことを話すとは考えていなかったのだ。

 もっとも、セイヤにしてみれば、洗礼の儀のあとに王族と会ったことは隠すようなことではないので問題ない。

 問題があるのは、そのときに話した話の内容なのだ。

 

 幸いにして、虚を衝かれたせいか、イアンはそれ以上のことは聞いてくることはなかった。

 キティはそもそも二人の会話の意味が分かっていなかったようで、表面上だけで捉えているようだった。

 ただし、その後の会話に関しては、イアンよりもキティが活躍していた。

 主にそれぞれの身の上に関して話をしていたのだが、キティの性格なのか話が途切れることが無く、セイヤにとっては非常に話しやすかったのだ。

 話をしながらセイヤは、キティとイアンはなかなかいいコンビなのだろうと考えていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 王都に入る前の最後の街の宿に入ったセイヤは、すぐにエーヴァからどんな話をしたのかと聞かれた。

 セルマイヤー家の馬車は、エーヴァが入るくらいの余裕はあったが、キティとイアンの従者まで入るとかなりきつくなる。

 それくらいなら三人だけで話をしようとセイヤが提案したのだ。

 エーヴァも従者同士での情報を集めをするつもりだったのか、すぐにその提案に乗っていた。

 

 結果としてセイヤとエーヴァが聞いた情報を総合すると、キティとイアンに関しては中々濃い情報が集まった。

 キティはコックス子爵家の三女で、イアンはエンベリー男爵家の次男になる。

 それぞれの貴族家は隣り合った街を治めており、二人が生まれる前から仲のいい交流を続けているようだった。

 どちらかといえば、男爵家が治めている街は、街というよりも村に近い人口なので、お互いの利益が一致したうえでの古くからの付き合いだ。


 リーゼラン王国での男爵と子爵は、どちらもひとつの町を治めている領主となる。

 ただし、コックス家やエンベリー家のように、治めている街の規模は当然のように違っている。

 そのため、お互いの利益が反しない限りは、貴族家同士であっても仲の良い関係は作れたりするのだ。

 ちなみに、セルマイヤー領内には、セルマイヤー家以外の貴族家は存在していない。

 これは歴史的な背景もあるのだが、本来それぞれの街を治めていた貴族は、リーゼラン王国の一領地となる際に貴族としては認められなくなった。

 代わりに、領地内に限り代々の相続が認められる代官のような存在になっていたりする。

 

 それぞれの情報を交換し終えた後で、エーヴァはジッとセイヤを見て言った。

「それで? きちんと友人になれそうでしたか?」

 そう聞いてきたエーヴァに、セイヤは苦笑を返した。

 三人だけで話すと言ったセイヤの目的に、エーヴァはしっかりと気付いていたようだった。

「さあ、どうでしょうか? それは、これからといったところだと思いますよ?」

 今のところは大きな問題はないが、今後は分からない。

 貴族同士の付き合いの面倒さに、セイヤはわざとらしく大きくため息をつくのであった。

新しい友達! …………候補です。

しっかり者のイアンと、暴走気味なキティ。

どっちが主導権を握っているかは、言うまでもありませんw

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