表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部2章
62/177

(6)不正発覚

 『旭日』のグレイトウルフ討伐の噂が広まるとともに、傭兵団指名で依頼されることが増えてきた。

 お陰で、アヒムたちは忙しい日々を送っている。

 一応、それらの中の依頼で、セイヤも関わっているものもあるのだが、ほとんどはセイヤ以外のメンバーで処理を行っている。

 別に今はセイヤが依頼をこなしても構わないのだが、あとになって処理が出来ないとなれば問題になる。

 セイヤ自身はこのあとに学園の入学を控えているので、そうそう時間が取れなくなってしまうのだ。

 それであるならば、アヒムたちがこなせる量の依頼を行ったほうがいい。

 

 ついでに、団の規模を大きくするという話もセイヤから出したが、それどころではないとアヒムたちから断ってきた。

 まずは、魔法を含めた連携の習熟度を上げるほうを優先したいということだった。

 セイヤとしてもそれで問題はないので、『旭日』の団員を増やすといった予定は今のところない。

 グレイトウルフ討伐から数カ月経った今でも入団希望の者は多くいるのだが、初期メンバーから変わっていないのは、そういった理由からである。

 ただ、人数が変わっていない分、アヒムたちは確実に成長しており、今では同じような規模でグレイトウルフが来たとしても、セイヤなしで余裕をもって戦えるだろう。

 各団員の魔法の習熟度も順調に上がっていて、セイヤとしては以前から考えていた通りに進んでいることに満足している状態だった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ある日、『旭日』の様子を見るために団の拠点に向かおうとしていたセイヤは、ふと違和感を覚えてその場に立ち止まった。

 今はもう傭兵としての活動を隠してはいないので、普通に姿を現したままである。

 ただ、セイヤが辺境伯の実子だからといって、むやみに絡んでくる者はいない。

 それほどまでに、セイヤの実力はフェイルの街の関係者に広まっているのだ。

 

 セイヤは、今感じた違和感が何か分からずに首を傾げていた。

 だが、その違和感の正体が何であったのかわかったときには、人通りの少ない物陰に入って姿を消した。

 セイヤは、魔法という以前の感覚では不可思議な現象を知った今では、自分自身の「勘」も大切にしている。

 その勘がそうしたほうがいいと感じていたのだ。

 そして、姿を消したセイヤは、違和感の正体から離れないように尾行を始めたのである。

 

 

 セイヤが感じた違和感の正体は、セルマイヤー家で働いている侍女だった。

 別に侍女がフェイルの街を歩いていること自体は、不思議でもなんでもない。

 定期的に買っている商品や洋服や美術品などの大きなものは、屋敷に商人が来て購入することがほとんどである。

 ただ、日常品で急に必要になったものなどは、誰かが直接店に出向くことになる。

 基本的には定期購入分で済むようにはなっているのだが、どうしてもそうした事態は発生する。

 

 さらにいえば、侍女だってずっと屋敷に籠っているわけではない。

 屋敷詰めの侍女も休息を取るため街に出ることもあるし、ましてや通いの侍女が街を歩くことは、当然のことだった。

 だが、今セイヤの目の前を歩いている侍女は、きちんと(?)侍女としての服装を着込んでいるので、私的な用事で出歩いているはずがない。

 となれば、セルマイヤー家の人間として出向いていることになるのだが、そこにセイヤは違和感を覚えていた。

 急な来客があるのであれば、突然必要になる物が出るのもわかるのだが、少なくともセイヤはそんな話は聞いていなかった。

 勿論、それ以外にも侍女が使いに出ることはあるので一概には言えないが、このときのセイヤはなぜかその侍女に違和感を覚えていたのである。

 

 

 侍女の後をつけていたセイヤは、その光景を見て、思わず内心でため息をついていた。

(おやまあ。よりにもよって、こんなに堂々とですか。……いえ、この場合は気付かなかった私たち(・・)にも問題があるのでしょうね)

 そんなことを胸中で呟いていたセイヤだったが、これからのことを考えてニヤリと笑った。

 そして、これ以上この場で見るべきものはないと判断したセイヤはすぐにその場を離れ、とある目的のために動き始めるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 セイヤが不審な侍女の動きを見つけてから半月後。

 セイヤは、とある資料を持ってマグスの部屋を訪ねていた。

「……なんだ、これは?」

 セイヤの顔を見て嫌な予感を覚えたマグスだったが、まずはその資料を手に取ってそう訊ねてきた。

「まずはご覧になっていただければわかるかと。それから、シェリル母上にも見せてくださいね」

 セイヤたちがいまいる場所は、マグスの執務室ではなく、夫婦で過ごすための私室だった。

 そのため、当然のようにこの場にはシェリルとアネッサがいた。

 

 セイヤから渡された資料を見ていたマグスは、すぐに表情を変えて、見終えたあとには眉間にしわを寄せていた。

 それを見てただ事ではないと感じたのか、シェリルが探るような視線を向けていた。

 そして、マグスから渡された資料を見終えたシェリルは、セイヤでもわかるほどの笑みを浮かべていた。

 勿論、その笑みは、楽しくて浮かべているものではない。

 むしろその逆で、怒っているのだ。

 

 セイヤは名前を出していなかったが、最後にアネッサもその資料に目を通していた。

 マグスとシェリルの様子から何かあるとわかっていたが、それでも資料を見終えたアネッサは、面白そうな表情を浮かべていた。

「おやおや。これは、また」

「中々面白いと思いませんか?」

「これは、監督責任として私も責任を免れないのかな?」

「どうでしょう? その辺りは父上の判断になると思いますが?」

 そんなことは起こらないとわかった上で、セイヤはぬけぬけとそんなことを言い放った。

 セイヤとアネッサの会話に、マグスはますます眉間にしわを寄せて、シェリルは大きくため息をついていた。

 

 セイヤが渡した資料には、複数の侍女による不正の実態が書かれていたのだ。

 勿論、ねつ造だと言われないように、証拠もしっかりと押さえている。

 その複数の侍女というのが、マリーの侍女を中心とした、所謂リゼの影響力が及んでいる侍女たちだった。

 簡単にいえば、普段セルマイヤー家が使わない王都を中心に展開している商会を使い、裏金を作ってはリゼのために活動する仲間の資金にしていたのである。

 当然のように、その一部はそれぞれの侍女のポッケに収まっている。

 明らかなその不正に、直接の指示が確認できなかったリゼはともかく、侍女たちに処分を下るのは間違いない事案だった。

 

 ちなみに、侍女たちの不正を調べるに半月もかかったわけではない。

 証拠収集と資料作成自体は数日で終わっていたが、別の目的のためにこれほどの時間がかかったのだ。

「ちなみに、父上。街を歩いているときに、マリーの専属としてちょうどよさそうな人を見つけたのですが、会ってみませんか?」

 突然そんなことを言い出したセイヤに向かって、マグスは大きなため息をついた。

「………………それが目的か」

 セイヤは、この件によって屋敷内におけるリゼの影響力を削ぐことはまったく考えていない。

 それよりも重要なのは、マリーの専属の侍女を自分の影響力が及ぶ人材に変えることだった。

 もしそれができれば、これからはなんの遠慮もなしにマリーに魔法を教えることが出来る。

 セイヤにとっては、それがなによりも重要で、今回見つかった不正をどう処理するかは、セイヤがこれ以上関知するべきことではないとさえ考えていた。

 

 結局、この日のセイヤの告発(?)をもとに、数人の侍女が屋敷から姿を消すこととなった。

 別に物理的に首が飛んだわけではなく沙汰を言い渡しただけだと、セイヤは後になって渋い顔になったマグスから教えられるのであった。

不正が見つかったのになぜリゼを直接処分しないのか! と思った方は、すみません。

本文では書けませんでしたが、リゼはそこまで迂闊ではありません。

直接の証拠は見つからなかったので、処分は出来ないというのが正しいです。

セイヤもそこまでするつもりはなかったので、敢えて深くは証拠捜しをしなかったということもあります。


ただし、これでマリーに教える魔法の幅が広がることになりました。

セイヤにとってはこっちのほうが重要ということですね。



♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

ちょっと前話に絡んでやらかしたので、急遽この話を本日中に上げることにしました。

ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ