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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部2章
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(4)新しい連携

 グレイトウルフの厄介な点の一つに、どの環境でも変わらない機動性があげられる。

 それは、森であっても平原であっても素早く動くことが出来るという意味で、武器を振り回して戦うことになる人間にとっては厄介な点だった。

 しかも、グレイトウルフが集団になると、その素早さを生かしていつの間にか横や後ろに回り込んで、四方八方から襲ってくる。

 数的優位が保たれているときはまだましなのだが、それが崩れてしまうと極端に厄介な相手になるのだ。

 しかもグレイトウルフは、集団で行動することが主なので、連携の拙さもほとんど見当たらない。

 それらの条件が合わさって、群れたグレイトウルフを倒すことが出来れば、一流の仲間入りとみなされるのである。

 

「マーク! そっちに一体回ったぞ。気をつけろ!」

「あいよ!」

「ハンナ、ゴメン! 後ろに回った!」

「分かった! ……っ!? ボーナのほうにも!」

「あいよ!」


 右に左にと回り込んで攻撃してこようとするグレイトウルフを相手にしながら、『旭日』の面々は細かく指示を出していた。

 そうでもしないとすぐに状況が変化して、足元をすくわれかねないからだ。

 相手のグレイトウルフの数は、全部で十五体。

 セイヤが調査したときと変わっていない事はメンバーにとっては朗報だったが、厳しい相手であることには変わりはない。

 グレイトウルフと接敵して以来、アヒムたちは均衡を破れずに苦しんでいた。

 

 その『旭日』の戦いを少し離れた場所から見ている目があった。

「うーん。どうにも上手く魔法が連係に組み込まれていませんね。実質初めての実戦だから仕方ないにせよ、もうちょっと何とかなるかと思ったのですが……」

 そう冷静に『旭日』の戦いを分析していたのは、上空に浮かんでいるセイヤだった。

 今までほとんど外気法を使っての戦い方をしてこなかったために、通常の武器による攻撃よりも威力のある魔法を使いこなせていないようだった。

 元々のセイヤの見立てでは、もう少し楽に戦闘が進むと考えていたのだ。

 それが、通常の武器だけに頼っている節があるために、どうしても決定打を与えられていない状況が続いている。

 

 しばらく様子を見ていたセイヤだったが、ふと視線を戦闘から外れた街の方向へと向けた。

 するとそこには何人かの人の姿が見えた。

「おや。もう追いついてきましたか。……仕方ありませんね。少し助言をしましょうか」

 グレイトウルフの討伐に他の傭兵が近付いてくることは予想の範囲内だが、戦闘に混ざってしまうと折角の連携が崩れてしまう可能性がある。

 そんな隙を見逃すような相手ではないのだ。

 人数で押せばいずれは勝てるかもしれないが、それまでに犠牲が出てしまうこともあり得る。

 それは出来れば避けたいセイヤは、様子見をするのを止めて、アヒムたちのところへと降りて行った。

 

 

 いまのアヒムたちは、十体のグレイトウルフに囲まれるようにして戦っている。

 その中心に降りて姿を現したセイヤは、戦闘の邪魔にならないように声をかけた。

「兄貴? どうしたんだ?」

 戦闘中にも関わらず、アヒムがセイヤに気付いて声をかけて来た。

 この視野の広さが、アヒムにとっての大きな武器だとセイヤは考えている。

 だが、残念ながら今はその特技が生かされているとは言い難い。


「少し指示を出しますからそれに従ってください。……シェリー、少しの間戦闘から離れて、魔法に集中してください。他のメンバーは、シェリーがいない物と考えて対応を」

 セイヤのその言葉に従って、すぐにシェリーが前線から離れて、セイヤのいる中央に寄ってきた。

 それを見て、他のメンバーは陣形を少しだけ変える。

 弓を持っているハンナだけは、最初から前衛にはいないので、位置は変わっていない。

 今までは、前線を五人で円を作るように守っていたが、それが四人になった分、当然負担は増える。

 ただ、それでも十分守り切れると考えてのセイヤの指示だった。

 

 さらにセイヤの指示は続いた。

「マーク。無理に相手を倒そうとはしなくていいです。それよりもあなたは守りを重視で。ただ、その分隙を突かれそうなところに入るようにしてください」

 シェリーが抜けた分の穴をマークに埋めるように指示をして、あとは抜けたシェリーを見て言った。

「これで、少しは魔法に集中できるでしょう。シェリーは、今できる最大の魔法を出来るだけ外さないように、当ててください」

 セイヤのその言葉に頷いたシェリーは、相手を見定めるようにしっかりと魔法を放った。

 

「キャウン!」

 シェリーが放った風の魔法は、見事にグレイトウルフの一体に当たった。

 一撃で倒れるような攻撃ではないが、致命傷に近いダメージは与えている。

「その調子です。あとは、手負いの相手から崩していけばいいです」

 魔法が当たったグレイトウルフが戦線離脱さえすれば、数が減った分相手をするのが楽になる。

 これまでシェリーの魔法はほとんど役に立てていなかったが、セイヤの指示のお陰で優位に立てるものと変わった。

 

 シェリーの魔法が有効的だとすぐに理解できたメンバーは、これまでとは違った戦いにすぐに慣れたようだった。

 無理に自分たちの攻撃で倒そうとはせずに、牽制だけを行う。

 勿論、隙があれば倒すことも視野に入れてはいるが、グレイトウルフはそんなに甘い相手ではない。

 とはいえ、ほぼ一撃必殺に近いシェリーの魔法は、グレイトウルフにとっても脅威だったようで、完全にそれまでの均衡が崩れていた。

 戦線離脱する仲間が増えて、それまでの連携も取れなくなっていき、アヒムたちの戦いも楽になっていく。

 そして、いよいよ連携が維持できなくなったと見るや、アヒムたちはすぐに攻勢に打って出ることになる。

 この辺りの判断は、これまでの一年で磨いてきた感覚で、見事に全員が一致していたのであった。

 

 

 アヒムたちの攻勢の判断は正しく、一気にグレイトウルフたちは討伐されていった。

 そして、近付いてきていた他の傭兵が戦闘箇所に来る頃には、全てのグレイトウルフが倒されていた。

「おー、これはすごいな。もう全部倒し終わったのか」

 近寄ってきた傭兵たちの代表らしき男が、アヒムに話しかけて来た。

 どうやらその男はアヒムの知り合いだったらしく、獲物を奪おうといった険悪な雰囲気はない。

 しかも、アヒムたちがグレイトウルフを討伐したことを当然だと思っている雰囲気さえある。

 

 その男に、アヒムは少し驚いた顔になっていった。

「なんだ。フェイルに戻っていたのか」

 アヒムたちに話しかけて来たのは、フェイルの街でも三本の指に入るほどの傭兵団のメンバーだったのだ。

 特に話しかけて来た男は、アヒムたちを勧誘しようとしていたこともあり、お互いに面識があった。

「ああ。昨夜にな。噂を聞いて駆け付けたんだが、どうやら必要なかったようだ」

「ああ。何とか無事に倒せたよ」

「何を言っているんだ。まだ余裕がありそうじゃないか。……まあ、それはともかく、街に戻ったら騒ぎになりそうだな」

 十五体ものグレイトウルフを、たったの七人で倒したとなれば、騒ぎにならないはずがない。

 しかもすでに街の中では注目株になっている『旭日』が行ったのだ。

 注目されないはずがない。

 

 男の言葉は、言外にこれで『旭日』も一流の仲間入りだなという意味も込められていた。

 アヒムたちはそのことを十分に理解したうえで、特に誇るでもなく淡々とした表情で頷くのであった。

魔法を使っての連携はまだまだな『旭日』です。

でもこれで徐々に魔法は解禁になって行くので、これから一気に成長していくと思われます。

……タブン。

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